カテゴリー「農業」の記事

2012年10月22日 (月)

キューバ、タバコ・ロード、ブエルタ・アバホ周辺の散策ツアー

キューバ、タバコ・ロード、ブエルタ・アバホ周辺の散策ツアー
2012年10月2日「Cubanow」
フランシスコ・サマニエゴ

浦野保範訳

 キューバ観光省が、カリブ海の国であるキューバ最古の農工業、葉巻産業に興味を持つ人々に対して、ブエルタ・アバホ(ピナール・デル・リオ地方)を訪問して経験豊なタバコ栽培者達と交流する特別企画を打ちだしました。

 この企画は、キューバ観光省が、カリブ海の国であるキューバのタバコ栽培に興味を持つ人々のために、観光企画をより拡大して、ブエルタ・アバホのタバコ農場のいくつかを訪問して経験豊なタバコ栽培者達と交流するというものです。

 この地域では、最高品質のタバコの葉が栽培され、熟練者達によってハバナ葉巻に姿を変えて、キューバ最西端のピナール・デル・リオ県から世界市場に輸出されています。

 観光省の考えは、代表的な農場を訪問し、タバコ栽培農民の家に宿泊する企画で、観光を振興しようというものです。この地域で栽培される葉タバコは、キューバ産葉巻の表面に使用される葉の約70%を占めています。

続きは、添付のPDFをお読みください。
「12.10.22 キューバ、タバコ・ロード散策ツアー.pdf」をダウンロード

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2012年7月15日 (日)

キューバ農業、不振続く

キューバ農業、不振続く

最近発表されたキューバの2011年の統計によると、キューバ農業の不振が続いています。2011年、国内総生産(GDP)全体は、2.7%(前年度2.1%)の微増でしたが、農業・牧畜・林業部門は、2.0%(前年度3.5%)の成長でした。2011年度世界経済全体は、3.1%(前年度3.6%)、ラテンアメリカ全体は4.4%(前年度5.2%)でしたから、キューバ経済全体が低迷していると言えます。農業生産は、ラテンアメリカ全体では、2010年6.3%であり、2011年の資料は未だ発表さていませんが、同じような傾向と推察されます。

こうしたキューバの農業不振は、「有機農業で、200万人のハバナ市の野菜が自給できたり、1000万人のキューバ国民の食料が自給・自立できている」と信じている、有機農業信奉者の方々には、信じられないことでしょう。この信心は、①1990年代にソ連・東欧諸国の旧体制の崩壊により、貿易の85%をこれらの国々に負っていたキューバが、貿易依存度の高いことから、資材の供給が激減したという紛れもない事実に、②キューバ有機農業が全国的に展開されたという間違った認識が適用され、さらに③有機農業により農業生産が増大してほしいという願望が作用して、有機農業により農業が飛躍的に増産したという、架空の事実に基づくものです。

それでも、2011年の農業生産が2.0%伸びているではないか、と主張する人びともいるかと思います。しかし、栽培品目別にみると、事の深刻さが分かります。つまり、じゃがいもはマイナス13.5%、さつまいもはマイナス18.9%、里芋はマイナス3.9%、にんにくはマイナス22.8%、オレンジはマイナス31.1%、グレープフルーツはマイナス18.7%、マンゴはマイナス9.1%です。一方増産したのは、料理用バナナ20.4%、トマト16.2%、玉ねぎ28.5%、キャベツ21.2%、米24.6%、トウモロコシ9.1%です。肉類は、牛肉4.7%、豚肉2.3%、鳥肉5.3%、玉子は7.8%増産です。

野菜類の増産が目につきますが、毎日の食卓で、一般にキューバ人は、米、豆、玉子、豚肉、料理用バナナ、ジャガイモが主食で、野菜はあまり食べず、食べてももちろん副食の位置付です。米、トウモロコシ、豆、鳥肉は輸入しており、この程度の増産で輸入を止めることはできません。輸入分が減るだけで、国民への全体の供給量は、同じでしょう。食卓への供給が増えるものではありません。玉子、料理用バナナの増産も、食卓を豊かにする数量ではありません。

こうした現状から、農産物の自由市場での販売価格は、値下がりしていません。増産があった栽培品目も、もともと絶対供給量が少ないので、少々の増産では価格に影響しません。自由市場での販売価格は、月額450ペソ程度の平均賃金からするとかなり高いもので、国民の不満の対象となっています。例えば、それぞれキロ当たりで、豚肉(もも肉)80-90ペソ、トマト11ペソ、マランガ7ペソ、玉ねぎ7ペソ、ニンジン8ペソ、レモン20ペソです。また、1個当たり、アボガド5ペソ、レタス5ペソです(いずれも筆者調査)。配給食糧の不足分(15日分)を埋め合わせるためにこれらを自由市場で買うと、一月の賃金をはるかに上回ります。

一方、フィデル・カストロ前議長は、6月17日、このところの持論である、薬木のモリンガの全国的な栽培を、省察「栄養の供給と健康的な摂取」で訴えました。そこでは、「モリンガをキューバで大量に生産する条件ができている。モリンガは、さらに肉、玉子、牛乳、シルク繊維を作る無尽蔵の資源である」と述べています。その後、グランマ紙やフベントゥ・レベルデ紙にモリンガの効用を紹介する記事が数点紹介されていますが、幸いなことに全国的な栽培キャンペーンとはなっていません。キューバの食料問題は、特定の栽培品目の一大生産運動で解決する技術的な問題ではないからです。また、有機農業という特定の農業技術で解決できるものでもありません。

ちなみに、このモリンガの一大生産運動の提唱は、フィデルが本年6月9日から19日までに書いた「省察」の一連の新しいスタイル(5-6行の短文)で述べているものです。その一連の省察では、中国の鄧小平を「キューバを制裁しなければならないと根拠のない攻撃を行った」と批判し(6月14日、ラウルの中国訪問の3週間前)、東独の議長、エーリッヒ・ホーネッカーを「これまでに会った最も革命的な人物、今でも深い連帯の感情を抱いている」と称賛しています(6月17日)。これら一連の省察は、キューバ内外で、論理の飛躍、現時点でのテーマの必要性、意味不明などが指摘されています。フィデルの演説、記述は、従来、論理的で、時宜にかなったものであっただけに、妙な感じをいだかせるものです。

(2012年7月15日 新藤通弘)

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2012年2月26日 (日)

キューバ、四苦八苦する稲作

キューバ、四苦八苦する稲作

最近キューバの報道で、稲作で四苦八苦しているニュースが目に留まりました。「え?キューバは、ソ連の崩壊のあと、全国に有機農業を展開し、食料危機を切り抜けたのでは?」と思う人は、このニュースをどう受け止めるでしょうか。

最近でも、こういう本が出ています。番号は筆者が付けたものです。
「(1)キューバは、全力を挙げて再生可能な資源からエネルギーを作ろうとした。地方の学校では太陽光からエネルギーを得た。近年では、全国的な地図を作成し、風車を回し続けている。・・・
 (2)キューバ方式の緑の革命の中でも重要なのが農業である。石油が必要な動力や科学肥料を使わない有機農業へと、大規模な転換を進めたのである。・・・
 (3)1990年代にキューバの首都ハバナを訪れた人は、街中で農作業の人々を見かけた。今日では、建物の屋根やわずかな空き地でも農作物を育てている。(4)こうしてハバナでは果物と野菜のほとんどを自給しており、人々を飢餓から救うことができた」(デレク・ウォール『緑の政治ガイドブック』白井和宏訳(ちくま新書、2012年)。

どこかで、読んだような熱っぽい文章と内容です。
続きは、添付のPDFをお読みください。「12.02.26 キューバ、四苦八苦する稲作.pdf」をダウンロード

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2012年2月20日 (月)

キューバ農業研究、外国語文献紹介

キューバ農業研究、外国語文献:

キューバの農業、都市農業、有機農業に関心を持っている人びとが飛躍的に増えていることと思われます。農業の発展を、国内の家庭の食卓にどれだけ、国内生産の安全な農産物が潤沢に供給されているかということで評価するならば、農業は、単なる技術的な改良、改善で食料供給が満足されるほど、単純ではありません。農業を国民経済全体の中に位置づけ、歴史的な経過、国の政策、法律などを正確に把握し、木を見て森を見ないような誤りに陥らないことが大切です。あるいは自らの期待や願望を相手に投影し、それが跳ね返ったものを「事実」と見る初歩的な方法論の間違いを避けなければなりません。

下記にキューバ農業を研究する上での基本的な文献を紹介しますので、キューバの農業を論じる際には、いささかでも読んでいただきたいと思います。

続きは、添付のPDFでお読みください。
「12.02.20 キューバ農業文献集.pdf」をダウンロード

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2012年2月 9日 (木)

キューバ農業、真相は?

キューバ農業、真相は?

最近、2011年のキューバ農業の統計が、キューバ国家統計局(ONE)から発表されました。それによると、食料品価格が、ほぼ20%値上がりしたとのことです。キューバで食料危機が、全国的な有機農業の展開で回避されたというのは、フィクションとしても、実際はどうなのでしょうか。詳細を見てみましょう。

ONEの統計によれば、2011年農産物は、平均24.1%値上がりし、肉類は8.7%値上がりしました。ONEの今回の発表では、グラフを見れば、根菜類、柑橘類の生産は、2010年より減少しています。一方、料理用バナナ、野菜類、米の生産は、若干増加しています。

続きは、添付ファイルをお読みください。
「12.02.07 キューバ農業、真実は?.pdf」をダウンロード

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2011年8月16日 (火)

苦悩するキューバ農業

「11.08.15 苦悩するキューバ農業.pdf」をダウンロード

苦悩するキューバ農業

キューバ有機農業信奉者には、なんだ? また、ためにする批判か?としか映らないでしょうか。なにしろ、「ソ連崩壊を契機に国中を有機農業に転換し、スペシアル・ピリオド(特別期間)を食料の自給で乗り切った国」なのでしょうから。「キューバ農業は、世界が手本にするわけ」のはずですが。

今月14日付のキューバ青年共産同盟(UJC)の機関紙、『フベントゥ・レベルデ』に、「統計では? 良い。経済は? もっと生産が必要」という辛辣かつ徹底した分析が掲載されています。同紙によると、2011年上半期、農牧畜生産は、6.1%増大しました。しかし拍手するのはやめようと言います。といいますのは、農産物及び肉類生産は、7.8%増加しましたが、販売額は5.7%減少、販売量は13.6%減少し、販売価格は、6%上昇したからです。この結果に、レネ・タマヨ記者は、「経済政策は進んでいるが、成果は上がっていず、期待されたものにも、必要なものともなっていない」と指摘しています。

続きは添付のPDFで。

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2011年7月 7日 (木)

世界の視線が熱くキューバの有機農業に集まる?

世界の視線が熱くキューバの有機農業に集まる?
最近読んだ本で、キューバの有機農業について、このように熱っぽく書いてあるのを見て、またか、いや、今でもかと驚きました。

「最後に一つ付け加えると、有機農業という言葉について。
『化学肥料や農薬の使用をひかえ、有機肥料を利用して、安全で味のよい食糧の生産をめざす農業、また農法。有機栽培』(広辞苑)
これを読めば、農場「ハノイ」は、完壁に有機農業の定義を達成している。しかし、キューバ国内の農場と農法がどの程度こうなっているかを数値として見極めることはできない。だが、キューバの「有機農業を目指している農業」は、たとえ厳密な意味での「有機農法」を達成していなかったとしても、逆に、狭義の「有機」、つまり、薬や化学資材の有無にのみ焦点があいがちな定義を上回る、生活に密着しながらも、より哲学的で、理想的な農業と農法を目指し、もしくは達成しているのである。世界の視線が熱くキューバに集まるのは、実に、この点に理由があるのではないだろうか」(板垣真理子『キューバへ行きたい』(新潮社、2011年)。

有機農業の規定について、『広辞苑』の語句の説明で事足りれば、学問は不要でしょう。ある事象を評価するには、まずは、厳密に国際的にも科学的にも広く認められている定義を使わないと、それぞれが、違ったイメージと内容で事象を議論していることになり、議論はかみ合わないどころか、せっかくの善意の目標自体も達成するのが難しくなります。いわんや、その事象の条件のハードルを下げて理解して、その方が「哲学的」であるとか、「理想的」であるということは、論理の矛盾ではないでしょうか。これは、なんとしても、自分が見たキューバの「有機農業」を高く評価したいという主観的な願望を、対象に投影して、その反射した像映を見ているからでしょう。社会の変革のためには、マックス・ウエーバーを引用するまでもありませんが、客観的に、「没価値的に」見る必要があります。

筆者は、キューバ現代史研究を専門としていますが、結論からいいますと、「世界の視線が熱くキューバ(の有機農業)に集まっている」という実情はありません。ここ5年間キューバ国内も含めて発行された研究書(英語・スペイン語)の中で、キューバの有機農業を専門的に論じた本も、論文も見たことはありません。今キューバは、国有地の未利用地の使用権を期限付きで貸与し、農業生産を増大し、年間20億ドルに上る農産物の輸入を大幅に減少しようと努力しています。この計画は、180万人にのぼる国家公務員の民間部門への再配置とも関連しています。そして、そこでは、地産地消の考えが重視され、近郊農業が進められています。この運動には、有機農業を進めるというスローガンは入っていません。しかし、限られた資源から、化学農薬、化学肥料が少ない分は、有機農薬、有機肥料が利用できれば利用するという考えはあります。化学農薬、化学肥料があれば、使用するのはもちろんです。この辺りが、客観的な実情です。

一度、農業省の高官から、「なぜ、日本人は、こんなにキューバの有機農業に関心をもって聞いてくるのか?他の国からはほとんどないのに」と言われたことがあります。

筆者の怠慢で、紹介が遅くなりましたが、東京農業大学・国際食料情報学部・食料環境経済学科の大久保武教授グループが、調査した、優れたキューバ報告書を紹介します。キューバ農業、有機農業を論じるのであれば、少なくともこうした客観的で真摯な研究を基礎に論じてほしいものです。

歴史的移行期にあるキューバ農業の現状
 -第2次研究室視察報告-

環境コミュニティ研究室
(東京農業大学・国際食料情報学部・食料環境経済学科)


要約:本研究は、歴史的移行期にある「社会主義」国キューバ農業のダイナミックな構造変化を見定め、解明することにある。本稿は、昨年度(2007年9月)に引き続き今年度(2008年9月)も同国を訪れサーベイした同国農業の現状を報告する、リポート第2弾である。

わが国では、吉田太郎氏の著作に代表されるように、キューバが「知られざる有機農業大国」であり「200万都市が有機野菜で自給できるわけ」と、紹介されていることは周知のとおりである1)。

しかしながら、私たち研究室では2年にわたって直接キューバを訪れ、政府各関係機関の担当者や大学研究者、現場で農業に携わっている農民、あるいは経営体職員・農業労働者に直にたずね調査してみた経験的理解では、吉田氏が著した『有機農業が国を変えた』(2002年)ことを追認することは、到底でき得なかった。

以下本文中で指摘するように、この国の実体は食料の不足分を補うため毎年輸入総額の20%相当を費やしており、依然として国内での食料増産が至上命題である。その意味で、吉田氏の一連の著作は、必ずしもキューバ農業の現状・実態を正確に伝えているものではない2)。

これまでの研究の過程で、私たちは次のような論点と確信をもつに至った。それは「キューバの有機農業・都市農業というのは、あくまで食料生産を維持していかなければならない、歴史的な(一時的な)必然性から選択を余儀なくされた農法の一つであって、有機農業の推進それ自体は、当初からの目的ではなかった」というものである。

キューバの「有機農業」というのは、この国の農業の全体構造や現状からみたときどのような位置づけと存在意義をもっているのか、こうした問題意識のもと本研究室では歴史的移行期にある、まさに「胎動」するキューバ農業の最新状況を以下詳細にリポートする。

続きは、PDFでお読みください。
「09.03 歴史的転換期にあるキューバ農業の現状.pdf」をダウンロード


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2011年7月 6日 (水)

キューバ農業の問題、リカルド・トレス教授の指摘

一昨年、一年半にわたり日本に滞在し、一橋大学でマクロ経済研究を深めた、リカルド・トレス・ペレス、ハバナ大学教授が、最近雑誌『テーマス』に「キューバ経済の刷新―継続と断絶」という論文を発表しています。トレス教授は、筆者の友人でもありますが、日本の皆さんの中には、講演を聞かれた方も少なくないと思います。この論文は、キューバ経済の現状を大変厳しく分析しており、現在の経済改革が必要となっている背景を明確に指摘しています。

以下、農業部門に関するところを紹介します。

「11.07.06 リカルドの指摘.pdf」をダウンロード

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2011年5月14日 (土)

キューバ食料自給率再々考

キューバ食料自給率再々考

最近、また、友人から「ハバナの野菜の自給率」について、質問がありました。

この問題は、先ず、大枠を押さえて、自分の頭で考える必要があります。

食料の中で、野菜は、輸送、鮮度維持、保存の関係から、ラテンアメリカのほとんどの国で、あるいは世界のほとんどの国で、ほぼ自給されているということです。長期保存が可能な穀類、根菜類とは違うのです。穀物計算で自給率28%(2008年)の日本でさえ、野菜の自給率は1990年、91%、2008年、82%なのです。従って、キューバが、野菜消費の面で、特に自給で優れた模範国というわけではありません。他にもいくらでも国はあります。

続きは、添付のPDFをご参照ください。
「11.05.14 キューバ食料自給率再々考.pdf」をダウンロード

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2009年4月 2日 (木)

再び、再び有機農業について 

再び、再び有機農業について 2009年4月1日

かつて、本ブログで、このように指摘したことがある*。
「日本からは、常時『キューバ有機農業視察旅行』と題して、旅行社が競争のように企画を組んでいる。旅行社には安定した人数が見込めるのであろう。10数名、数十名でグループを組み、定番コースである農業省(ベラ農業相補佐官)、熱帯農業基礎研究所(アドルフォ・ロドリゲス所長)、オルガ・オオエさんの有機農場を訪問し、有機農業が行われていることを自分の目で確かめて、満足して帰国する。しかし、本当にそうであろうか?」 
*「2009年1月 9日 (金) キューバについての7つの神話(3)4.キューバは、有機農業大国?」を参照。

 残念ながら、この筆者の憂慮は、現実のものとなった。最近、あるキューバとの友好組織の機関紙を見て、驚いた。そこには、「有機農業で食料自給にとりくむキューバ」というタイトルで、本年2月に同組織が主催した訪問団の一員としてキューバを訪問した方のレポートが掲載されている。ほぼ上記の定番コースを回ったようである。
しかし、小生のささやかな研究ではあるが、キューバ政府が、「政策として有機農業で食料の自給に取り組む」方針を出したとは一度も見たことも、聞いたこともない。

キューバ統計局(ONE)の数字によれば、キューバの農作物栽培面積は、2006年度、合計で312万ヘクタール、そのうち砂糖キビ栽培地が126万ヘクタール、コーヒーとタバコが20万ヘクタールであるから、一般の食料生産には119万ヘクタールが当てられている。作物によって異なるが、収穫量は、報告書や調査してみると、良くて平均1平方メートルあたり10-20kgである。

キューバ農業の収穫率、反収を詳細に見ると、都市農業専門家の報告でも、もっとも収穫率が高いオルガノポニコでも20kg/m2、集約菜園・一般菜園・家庭菜園で10kg/m2である(Nelso Companioni, Yanet Ojeda, Egidio Páez y Catherine Murphy, La Agricultura Urbana en Cuba, 2002, p.97)。作物別にみると、歴史的には、1m2当たり、ジャガイモ20kgs、トマト10kgである(Miguel Alejandro Figueras, Aspectos Estructurales de la Economía Cubana, Editorial de Ciencias Sociales, La Habana, 1994, p.57.)。米で、乾季、雨季の2期作で試験場での好条件下で合計12kg程度である(Miguel Socorro Quesada y Salvador Sánchez Sánchez, Tecnología del Cultivo del Arroz en Pequeña Escala, Ministerio de la Agricultura, La Habana, 2008, p.16.)。通常では、稲作は3.5kgである(Miguel Alejandro Figueras, op.cit.)。ちなみに日本の稲作は、反収6.65トン/haである。筆者が2008年訪ねた協同組合(UBPC)では、野菜・根菜類の栽培で15kgsとのことであった。

この数字からすると、キューバでは、1ヘクタール当たり、5トンから20トンというのが反収となる。とすると、119万ヘクタールの栽培面積で、食料は、600万トン以上生産されるはずであるが、現実には、政府統計によると、2006年、一般食物(穀類、野菜)の全収穫量は560万トン(野菜260万トン、根菜220トン、穀類73万トン)程度であった。

一方、一人当たり年間食料消費量は、キューバの統計数字はないが、400kgとみると、総人口1120万人には年間450万トン必要である。とすれば、食料の自給がほぼ完全にできていることになる。

しかし、現実には、キューバの食料自給率は、カロリー計算で42%、穀物計算で33%(詳細2009年1月19日 (月)付け本ブログ「キューバの食料自給率は?」参照)であるから、つじつまが合わなくなる。都市農業生産の数字が、膨らまされた信憑性にかける数字といわれる所以である。さらに厳然たる事実は、キューバは、2008年度20億ドル以上(輸入総額の15%以上)の食料を輸入しなければならず、しかもなんと対キューバ経済封鎖を行って、農産物と医薬品以外の輸出を禁じている米国からトウモロコシ、黒豆、小麦、鶏肉などを輸入しており、その額は昨年度6億ドルを超えていることである。

しかも、上記の膨らまされた560万トンの数字が、ほとんど有機農業で行われているわけではなく、有機農業生産の公式数字は、年間1万トン弱という数字以外には政府発表の数字はない。大体、政府の方針は、必要あれば、化学肥料、農薬も使用するというものである*。
*本ブログ2009年1月 3日 (土)付け、キューバにおける都市農業・有機農業の歴史的位相、(補論2)08年2月キューバ青年共産同盟機関紙「フベントゥ・レベルデ」紙、「肥料の『有機的』ジレンマ」 (Juventud Rebelde, Febrero 17, 2008)参照。

 また、有機農業は、単に化学肥料、化学農薬を使用しないことからだけをもって、有機農業といえるかどうかという問題もある。筆者は、有機農業が成立するためには、次の4つの条件が必要と考えている。
1. 有機農業の国際的基準を守っているか(3年以上、化学農薬、化学肥料を使用しないなど)
2. 以上の基準を意識しているうえ、生産者が地球環境、食の安全を意識して生産を行っているか。
3. 消費者が、有機農産物を優先的に選別して消費している意識があるか。
4. 国に、有機農業の認定基準が制定されているか。
 これらの2,3,4の条件を無視すれば、江戸時代、戦後、日本では有機農業が全面的に取り組まれたという評価になり、ボリビアなどのアンデス高地の先住民の農業も全面的に有機農業として行われているということになる。キューバの場合、一般にいずれの条件も厳密に履行されているかどうかは、疑わしい。従って、タイトルがいうように、「有機農業で食料自給にとりくむキューバ」というのは、作られた想像の概念であり、現実のものではない。

 しかも、この報告者は、筆者の予想通り、熱帯農業基礎研究所を訪問し、副所長のネルソ・コンパニオーニ博士の説明を受け、キューバの反収が実に1ヘクタール当たり200トンにのぼるという信じがたい数字を報告している。この数字がまったくありえないものであることは、上記の説明で明白であろう。しかし、このレポートを読む読者は、キューバは、「有機農業で食料自給にとりくみ」、反収200トンという素晴らしい成果をあげている、それなら、自給も可能だろうということになる。

 筆者は、本年3月キューバに調査旅行に出かけた。その際、在キューバ日本大使館のN氏、キューバ経済研究所の農業問題専門家アルマンド・ノバ教授などと一緒に会食をする機会があった。その席で、筆者が、ノバ教授に「キューバの都市農業、有機農業の現状は、真実のところどうですか?」と質問をしたところ、同教授は「都市農業で400万トン生産というのは、膨らまされた数字であり、昨年、今年ももう数字は発表されていない。その中での有機農業生産の数字もない。有機農業でハバナ市で野菜が自給などとは考えられない」と率直に述べた。

 また、大使館のN氏は、「有機農業、有機農業といって見せてくれといってくるので困っているのですよ。想像されているような有機農業は存在しませんからね」という。
 また、キューバから帰国の途中、熟年の3名の日本人旅行者と一緒となった。いずれもキューバ革命に興味があり、キューバを訪問したという。「有機農業は見られましたか?」と聞くと、「革命広場のホセ・マルティ独立記念塔に登り、双眼鏡で周りを見ました。街の中に有機農園があちこちにあると思ったのですが、遠くに農園が数箇所見られただけでした」という。これが現実の姿である。

 現在、キューバで食料の増産が期待されているのは、一つは、未使用の国有地の貸与である。すでに5万人に50万ヘクタール貸与が認可されている(平均10ヘクタール)。自作農であることから、収穫率も高く、農産物の増産に少なからず貢献するものと期待されている。

 さらに、より根本的には、協同組合(UBPC)の運営の改革(より自主性を認める)、協同組合(自主運営の一層の推進)、自営農の栽培作物の一層の自由化、買い付け・流通機構の簡素化(地産地消費)、買い付け価格の根本的な改定、農業資材・機材の供給の保障及び自由販売などである。しかし、この改革は、昨年3月から進められ始めたが、現在停滞しているとノバ教授は心配している。農業生産で、短期間の飛躍的発展は、どの生産制度でも期待できるものではないが、未使用地の貸与にしても、この基本的な問題を解決しなければ、自営農の積極性が十分発揮されないであろう。

なお、最近開催された、キューバ共産党ピナルデルリオ県党会議でも(この県は、農業県である)でも、農業の増産のためには、こうした組織的改革の重要性が強調され、有機農業のことはまったく触れられていないことを付け加えておきたい。

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