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2011年11月 7日 (月)

自由主義貿易は、米国の、また多国籍企業の自由主義

自由主義貿易は、米国の、また多国籍企業の自由主義

TPP参加問題が大詰めを迎えています。

野田政権は、なんとかAPECに交渉参加というお土産をもって行きたいようで、今週中に最終態度を決めるとはいいつつも、交渉参加に前のめりの発言が目立ちます。反対側からもいろいろな憂慮する点が続々と提出され、議論がようやく始まった感があります。そこで、ここで、もう一度TPPとは何かという原則を考えてみることが重要と思います。

TPPは、新自由主義政策にもとづいた、例外を認めない原則自由化の考え方を基礎としています。その上、現実の議論では、北米自由貿易協定や韓米FTA、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリ4カ国の環太平洋戦略的経済連携協定(TPSEPA)よりも一段と自由度の水準を上げた協定がめざされています。

TPPは、多国間自由貿易協定の締結をめざしていますので、それぞれの国の弁護の主張を聞いて自由化可能対象リストを掲載し、それだけを話しあうと(ポジティブ・リスト方式)まとまりませんし、自由化の度合いが低くなります。そこで、リストに掲載した若干のものを除き、あとは原則自由で例外を認めない(ネガティブ・リスト方式)で交渉が進められます。二国間協定で相互の事情を話しあい、考慮して決定するのとは違うのです。米国と二国間では主張ができないので、多国間の場で主張するというのは、初めから自主性を放棄した態度です。


わずかに自由化の実施時期の時間的猶予が認められるかのような主張がありますが、後戻りできない協定で、その後遥かに長い期間ずっと不利な内容が続きます。したがって、特に農業問題では数年の猶予が認められても、自由化に対応することは困難な内容は明白ですから問題は同じです。農産物輸入の自由化と食料の自給率の向上は、二律背反で180度方向が違う問題設定となっていることは、19世紀のイギリスの穀物法をめぐる議論などからも歴史的にも地理的にも明白です。世界で農産物の自由化(補助金も廃止)を行い、国内の農業構造を変えて自給率が上がった例があるでしょうか。それでなくても異常に低い日本の食料自給率を一層引き下げることになるだけで、自殺行為といわれても仕方ありません。議論そのものが、いくら理由を並べても成り立ちません。

農産物の自由化は、実は、労働者の賃金そのものを下げるものにもなります。農産物の自由化とともに進められる工業製品の自由化、競争の激化を、経営者は合理化の中でも先ず第一に近年の習慣となっている人件費の削減(新自由主義的方法)に対策を見つけようとするからです。見かけの農産物の価格の低下、食料費の低下は、労働者の賃金の切り下げを応援することになり、このことを、マルクスやエンゲルスは、上記の穀物法の論議の際に、すでに指摘していることです。また、マルクスは、「自由貿易が一国の内部に発生させるいっさいの破壊的現象は、もっと巨大な規模で全世界の市場に再現する。・・・一般的には、今日では保護貿易制度は保守的である。これにたいして自由貿易制度は破壊的である」と警告しています。これは、すでに、現在世界的な経済・金融危機の中で現れ始めていることです。

筆者は、自由貿易そのものを否定するものではありません。生産技術、科学技術・知識の普及など自由貿易によって可能となります。しかし、今、問題となっているWTO、NAFTA、韓米FTA、TPPの自由化の原理は、市場万能主義、弱肉強食、強い資本がなんでも飲み込む、利潤獲得至上主義という新自由主義の原理です。この原理は、ラテンアメリカですでに破たんし、北アフリカ諸国でもほころびを出し、米国や日本でも深刻な問題を現出しています。各国の大多数の一般国民の利益を無視するものです。自由化の流れには逆らえないのだという安易な主張には、今の新自由主義に基づく自由化の流れは長続きがしないと述べておきましょう。

公正な競争をするために例外を認めず、原則自由にすることは、だれが、その自由度を保障し、統制するかということが問題となります。米国は、自国の市場での競争を公正かつ完全に自由化するでしょうか。公正で自由な競争を保障するという原則からすれば、交渉の過程で議論されなくても、協定締結後に、力によりいくらでも問題が提起できるのです。19世紀の半ば、軍事的に最強国であったイギリスは、保護貿易と自由貿易を相手によって、状況によって使い分け、世界貿易の事実上の独占権を握ったのでした。軍事的・政治的に米国に従属している日本が、公正・自由貿易を米国市場で要求するとは、逆はあっても、これまでもありませんでしたし、残念ながら考えられないことです。この構図は、すでにNAFTAの経験で十分見られていることです。

(2011年11月7日 新藤通弘)

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