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2011年9月27日 (火)

ボリビア新憲法(2009年)、邦訳される

ボリビア新憲法(2009年)、邦訳される

かつて、筆者は、ボリビアやエクアドルにおける新しい憲法の制定について、こう書いたことがあります。

「(3)持続可能な発展のあり方と新憲法
 こうした生活の在り方、共同体内での公正な分配のあり方は、ボリビアやエクアドルの先住民共同体に歴史的に見られるものである。ボリビアでは、「スマ・カマニャ」、エクアドルでは「スマク・カウサイ」(ともに、「安らかな生活をおくる」という意味)ことが重要であると考えられている。この考えは、両国の新憲法に組み込まれている。
ボリビアの憲法(2009)は、前文で、次のように述べている。
『国は、すべての人々の間の尊重と平等を基礎として、社会的生産物の分配における調和と平等を原則として、安らかに生きることを追求することを優先して、経済、社会、法律、政治、文化の複数主義を尊重する』
さらに、第8章、『安らかに生きる』では、次のように先住民の言葉を入れて規定している。
『国は、複数社会の倫理的・道徳的原則として、アマ・キヤ(怠けるな)、アマ・ユヤ(偽るな)、アマ・スワ(盗むな)、スマ・カマニャ(善良に生きる)という原則を定め、推進する』。
エクアドルの憲法(2008)も、前文で、次のように述べている。
『自然と母なる大地(パチャママ)を祝福して・・・』
さらに、第2篇:「安らかに生きる権利」の第14条でこのように規定している。
『住民は、健康的で環境的に均衡がとれた環境の中で生活する権利を認められ、環境の持続性と安らかに生きる(スマク・カウサイ)ことが保障される』。
憲法第71条は、母なる大地(パチャママ)に関して、次のように述べている。
『自然あるいはパチャママは、再生され、命を生み出すものであり、その存在は統合的なものとして尊重されるべきである』。
 このように、母なる大地(パチャママ)を大切にして、『安らかに生きながら』、相互に助け合って、公正な分配を行い、新しい社会の建設を目指そうとしているのである」。

こうした新鮮で、重要なボリビアの憲法を日本語で読みたいと思った人びとが、少なからずいたことと思います。そうした中、私の知人でもある、碩学の憲法学者、吉田稔、姫路独協大学教授が、ボリビアの憲法をスペイン語から翻訳しました。姫路独協大学、「ボリビア多民族憲法(2009)―解説都翻訳―、吉田稔訳」『姫路法学』第51号(2011年)です。全文411条に及ぶ膨大な文章ですが、ほぼ全文を翻訳されました。ご苦労様でした。また、いろいろな研究者に代わり、お礼を申し上げます。

吉田さんは、今後も、エクアドルの新憲法(2008年)、ベネズエラ新憲法(1999年、2009年修正)を翻訳したいとのことです。一層のご研究の発展を期待しています。

吉田さんは、ボリビア憲法の特色は、次の点にあると述べています。
① 社会権に加えて、新しい権利といわれる環境権、アクセス権、障害者の権利、消費者の権利を詳細に規定している。
② 統治について、立法、行政、司法、選挙の4権分立を採用している。
③ 多民族国であるので、多民族立法議会のような多様な民族を反映する各機関が設置されている。
④ 民族問題の解決方向を多民族国の憲法規範として示している。
⑤ 地球環境権について基本を示している。
⑥ 国連憲章をはじめとする国際規範を尊重し、民族自決、自立、平和国家を追求する。

それでは、ボリビア憲法はどのようなものであるか、そのさわりの部分、前文を拙訳でご紹介しましょう。

ボリビア多民族国憲法

前文

太古の時代、山がそそり立ち、川が流れ始め、湖が造られた。わがアマゾン(amazonia)、 わが狩猟の地(chaco)、わが高原、わが平原、渓谷は、緑と花でおおわれた。われらは、 異なった顔をもつ神聖な母なる大地に居住し、その時からすべてのことに通じる複数性と人間と文化の多様性を理解した。我々は、そのようにしてわが諸国民を形成し、忌まわしい植民地時代までは、我々が苦しむ人種差別をまったく知らなかった。

多民族からなるボリビア人民(pueblo)は、長い歴史をもっており、過去のいろいろなたたかい、インディヘナの反植民地の反乱、独立、解放を求める人民のたたかい、インディヘナ、社会の人びと、労働組合のいろいろな行進、水戦争とガス戦争、土地と領土を求めるたたかいに鼓舞され、また、わが殉教者を思い起こし、新しい国を建設する。

すべての人の間の尊重と平等を基礎とし、主権・尊厳・補完・連帯・調和と社会的生産物の分配・再分配の公平の原理を有する国、そこでは安らかに生きる(vivir bien)ことを追求すること; この土地の住民の経済、社会、司法、政治ならびに文化の複数主義を尊重すること; すべての人びとが水、労働、教育、医療、住宅の取得を共有すること、が優先する。

我々は、過去の植民地国家、共和制国家、新自由主義国家を廃棄する。

我々は、多民族・共同体的で社会的な統一法治国家を集団的に建設するという歴史的課題に挑む。その国は、民主的で、生産的で、平和を享受し、平和を追求し、総合的な発展と諸民族の自由な自決権を推進するボリビアという国に向かって前進する諸目的を統合し、関連させる国である。

我々、女と男は、憲法制定会議を経て、人民の始原的権力により、国の統一と一体性を守る義務を宣言する。

わが諸民族の命令を遂行し、わが母なる大地(Pachamama)の強靱さと神への感謝をもって、我々はボリビアを再建する。

この新たな歴史を可能とした、憲法制定及び解放の事業の殉教者に名誉と栄光あれ。


なお、本ブログで、ボリビアに関する記事は、以下をご参照ください。
2010年2月17日付、前田恵理子「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」の開催」
2010年11月27日付、新藤通弘「比較、『社会主義』をめざす国々―中南米におけるエコ型社会主義の探求―」
2011年8月31日付、新藤通弘「ラテンアメリカにおける新しい社会主義運動の現況と特質」
2011年9月9日付、「優れた通史、クライン著『ボリビアの歴史』」

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