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2011年7月 7日 (木)

世界の視線が熱くキューバの有機農業に集まる?

世界の視線が熱くキューバの有機農業に集まる?
最近読んだ本で、キューバの有機農業について、このように熱っぽく書いてあるのを見て、またか、いや、今でもかと驚きました。

「最後に一つ付け加えると、有機農業という言葉について。
『化学肥料や農薬の使用をひかえ、有機肥料を利用して、安全で味のよい食糧の生産をめざす農業、また農法。有機栽培』(広辞苑)
これを読めば、農場「ハノイ」は、完壁に有機農業の定義を達成している。しかし、キューバ国内の農場と農法がどの程度こうなっているかを数値として見極めることはできない。だが、キューバの「有機農業を目指している農業」は、たとえ厳密な意味での「有機農法」を達成していなかったとしても、逆に、狭義の「有機」、つまり、薬や化学資材の有無にのみ焦点があいがちな定義を上回る、生活に密着しながらも、より哲学的で、理想的な農業と農法を目指し、もしくは達成しているのである。世界の視線が熱くキューバに集まるのは、実に、この点に理由があるのではないだろうか」(板垣真理子『キューバへ行きたい』(新潮社、2011年)。

有機農業の規定について、『広辞苑』の語句の説明で事足りれば、学問は不要でしょう。ある事象を評価するには、まずは、厳密に国際的にも科学的にも広く認められている定義を使わないと、それぞれが、違ったイメージと内容で事象を議論していることになり、議論はかみ合わないどころか、せっかくの善意の目標自体も達成するのが難しくなります。いわんや、その事象の条件のハードルを下げて理解して、その方が「哲学的」であるとか、「理想的」であるということは、論理の矛盾ではないでしょうか。これは、なんとしても、自分が見たキューバの「有機農業」を高く評価したいという主観的な願望を、対象に投影して、その反射した像映を見ているからでしょう。社会の変革のためには、マックス・ウエーバーを引用するまでもありませんが、客観的に、「没価値的に」見る必要があります。

筆者は、キューバ現代史研究を専門としていますが、結論からいいますと、「世界の視線が熱くキューバ(の有機農業)に集まっている」という実情はありません。ここ5年間キューバ国内も含めて発行された研究書(英語・スペイン語)の中で、キューバの有機農業を専門的に論じた本も、論文も見たことはありません。今キューバは、国有地の未利用地の使用権を期限付きで貸与し、農業生産を増大し、年間20億ドルに上る農産物の輸入を大幅に減少しようと努力しています。この計画は、180万人にのぼる国家公務員の民間部門への再配置とも関連しています。そして、そこでは、地産地消の考えが重視され、近郊農業が進められています。この運動には、有機農業を進めるというスローガンは入っていません。しかし、限られた資源から、化学農薬、化学肥料が少ない分は、有機農薬、有機肥料が利用できれば利用するという考えはあります。化学農薬、化学肥料があれば、使用するのはもちろんです。この辺りが、客観的な実情です。

一度、農業省の高官から、「なぜ、日本人は、こんなにキューバの有機農業に関心をもって聞いてくるのか?他の国からはほとんどないのに」と言われたことがあります。

筆者の怠慢で、紹介が遅くなりましたが、東京農業大学・国際食料情報学部・食料環境経済学科の大久保武教授グループが、調査した、優れたキューバ報告書を紹介します。キューバ農業、有機農業を論じるのであれば、少なくともこうした客観的で真摯な研究を基礎に論じてほしいものです。

歴史的移行期にあるキューバ農業の現状
 -第2次研究室視察報告-

環境コミュニティ研究室
(東京農業大学・国際食料情報学部・食料環境経済学科)


要約:本研究は、歴史的移行期にある「社会主義」国キューバ農業のダイナミックな構造変化を見定め、解明することにある。本稿は、昨年度(2007年9月)に引き続き今年度(2008年9月)も同国を訪れサーベイした同国農業の現状を報告する、リポート第2弾である。

わが国では、吉田太郎氏の著作に代表されるように、キューバが「知られざる有機農業大国」であり「200万都市が有機野菜で自給できるわけ」と、紹介されていることは周知のとおりである1)。

しかしながら、私たち研究室では2年にわたって直接キューバを訪れ、政府各関係機関の担当者や大学研究者、現場で農業に携わっている農民、あるいは経営体職員・農業労働者に直にたずね調査してみた経験的理解では、吉田氏が著した『有機農業が国を変えた』(2002年)ことを追認することは、到底でき得なかった。

以下本文中で指摘するように、この国の実体は食料の不足分を補うため毎年輸入総額の20%相当を費やしており、依然として国内での食料増産が至上命題である。その意味で、吉田氏の一連の著作は、必ずしもキューバ農業の現状・実態を正確に伝えているものではない2)。

これまでの研究の過程で、私たちは次のような論点と確信をもつに至った。それは「キューバの有機農業・都市農業というのは、あくまで食料生産を維持していかなければならない、歴史的な(一時的な)必然性から選択を余儀なくされた農法の一つであって、有機農業の推進それ自体は、当初からの目的ではなかった」というものである。

キューバの「有機農業」というのは、この国の農業の全体構造や現状からみたときどのような位置づけと存在意義をもっているのか、こうした問題意識のもと本研究室では歴史的移行期にある、まさに「胎動」するキューバ農業の最新状況を以下詳細にリポートする。

続きは、PDFでお読みください。
「09.03 歴史的転換期にあるキューバ農業の現状.pdf」をダウンロード


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