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2011年1月24日 (月)

米国の対キューバ経済制限政策の強化と緩和

米国の対キューバ経済制限政策の強化と緩和

1月14日、オバマ政権は、対キューバ経済制限措置の緩和を発表した。これは、2009年4月にオバマ政権が次のような制限緩和措置を取ったものに続くものである。
①キューバ系米国人の渡航の自由化、傍系親族まで許可(現行:直系親族を3年に1度2週間以内)、渡航の際、持ち込み手荷物の重量制限解除、持参金額を800ドルとする
②キューバ人親族への送金制限の撤廃(それまで直系親族に年間1200ドル、各回300ドル、年4回)。ただし、政府高官、共産党員幹部への送金は禁止。
③米国企業が、衛星TV、携帯電話のサービスを提供することを認める(現在まで実施されず)。

しかし、この09年4月の緩和政策は、ブッシュ政権が、2004年4月におこなった制限強化策を緩和するものであった。その主な強化策は次のようなものであった。
①キューバ国内の反政府勢力に資金を援助する。
②キューバ系米国市民のキューバへの渡航を制限する(3年に1度許可)、同渡航者のキューバでの滞在費使用許可枠を削減する。以前は1年に1回訪問許可。
③キューバ系米国市民のキューバ家族への送金制限を強化する(直接の家族のみ。送金許可額は一家族宛年間1200ドル、300ドル/3ヶ月は維持)。以前は、年間3000ドル送金許可。④ヘルムズ=バートン法第4篇を厳格に実施し、キューバに投資した外国人投資家の米国への入国ビザの発給を禁止する。

今回のオバマ政権の制限緩和策の内容は、
①キューバとの学術、文化、宗教関係の人的交流を増やす。これまでも許可されていたが、極めて限定的であった。
②すべての米国人が、3か月間に500ドル(年間2000ドル)までを、すべてのキューバ人に送金することを許可する。これまでは、親族間の送金のみが許可されていた。
③キューバへのチャーター機のすべての米国国際空港の使用を許可する。これまでは、マイアミ、ニューヨーク、ロスアンゼルスのみ。
というものである。

米国の対キューバ経済制限は、米国は、貿易「禁止」措置と呼び、キューバは、経済「封鎖」措置と呼んでいる。経済「制裁」は、米国の立場が上位で正しく、キューバが下位で間違っているというニュアンスがあり、使用すべきではない。米国の経済封鎖政策は、1962年2月ケネディ政権のもとで、キューバ経済を困難に陥れ、社会主義政権を崩壊させる目的で実施された。その後、1992年ブッシュ政権によりトリセリ法が制定され、強化され、さらに1996年クリントン政権により、ヘルムズ=バートン法が制定された。さらに、キューバ系米国人家族のキューバ訪問、家族送金、学術・文化交流などをめぐって(これらは議会の同意を必要としない)、時の米政権が、自らの都合で、キューバの社会主義政権に米国の政策に従わせるため、あたかもアメとムチの政策を使い分けるように、制限を強化したり、緩和したりしてきた。

今回のオバマ政権の政策は、すべて、米国の外交政策の思惑が絡んだものである。
①の人的交流は、米国の学術的、文化的影響をキューバ国民に与えることが目的である。
②の送金は、これまでは、キューバ系米国人が、親族に同額を送金することに限定されていた。折りから、経済改革の中で自営業の設立が勧められているキューバで、経済活動を行うことを支援し、親米企業家を作ろうという露骨な意図が見え隠れする。さらに、キューバ政府高官とキューバ共産幹部を除くすべてのキューバ人に送金することを許可することで、政府・共産党と一般市民の間に楔を打ち込もうというものである。
③の米国空港の使用は、①の交流でキューバ訪問者が急激に増えて、年間80万人以上にも達すると予測されることから、すべての国際空港にキューバ行きのチャーター便の使用を許可するという、米国の便宜に基づいたものである。キューバのチャーター便の米国の空港使用を認めるものではない。

この措置に対する米国内、キューバ国内での反応はどうであろうか。
共和党のロス=レティネン(キューバ系米国人、フロリダ州選出、対キューバ強行右派)米下院外交委員会委員長は、緩和政策は、圧政者からキューバ国民を解放することには役立たないと批判している。昨年の中間選挙後に下院外交委員会委員長に就任した彼女の対キューバ強硬策が、最初に敗れた点で意味のあることである。
一方、民主党のジョン・ケリー上院外交委員会委員長は、この措置に熱烈に賛成と述べている。
キューバ国内の反体制派は、一般に今回の措置に賛成している。
キューバ政府は、制限緩和は、米国国民の広範な意見を反映したものだが、経済封鎖そのものは触れず、またすべての米国市民の渡航の自由を許可せず、不十分なものと評価している。

もともと、対キューバ経済封鎖、経済制限措置は、米国が自分の都合で制定したものであるから、それを緩和することにより、キューバ側に「人権問題」などで、なんらかの譲歩を求めるのは筋違いである。米国が、世界中で進めている自由貿易協定、貿易・金融の自由化、また、WTOの原則からすれば、米国の対キューバ経済封鎖、経済制限措置は、まったく矛盾するものである。

そうしたことから、国連総会で毎年討議されている米国の経済封鎖解除決議は、180か国以上の圧倒的な支持を得ているのである。「10.10.26 経済封鎖解除国連決議全文.pdf」をダウンロード


(2011年1月24日 新藤通弘)

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