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2011年1月 1日 (土)

2010年キューバ10大ニュース

2010年キューバ10大ニュース

①経済改革列車発車する
4月、ラウル議長は、キューバ共産主義青年同盟(UJC)第9回大会で、官庁・国営企業で100万人余の労働者が、過剰となっており、このことが生産性を低くしており、政府の財政赤字の原因の一環となっていると指摘、この問題の解決を提案した。ラウルは、7月から非公開で改革案を準備し、8月には100万人の過剰労働者の再配置の方法と2011年末までのロードマップを明らかにした。9月には失業保険、社会保障の特別措置が発表され、10月には最大の受け皿となる自営業種が178種に拡大され、累進個人所得税、自営業者の新たな納税制度も制定された。過剰雇用問題を皮切りに、協同組合などの多様な生産制度を推進し、生産を増大し、賃金の購買力を回復し、配給制度などの表面的な平等主義を廃止するとともに、二重通貨を克服してキューバ国内通貨のみとするという、キューバ社会・経済全体の改革となるものである。戦略的変革の全体構想は、11月キューバ共産党第6回大会討議文書「経済・社会政策路線案」として発表された。

ラウルは、「改革の列車がついに発車した」と述べたが、4月の基礎行政区議員選挙に示されたように、国民の政府への信頼が揺らいできていた。ラウル自身が「誤りを矯正して、危機の淵から脱出するか、あるいは沈没するかである」と述べたように、遅まきながらのぎりぎりの改革の実行であった。

②経済、回復軌道へ
昨年度から輸入の削減(-1%、09年-37.5%)と輸出の増大(+28.7%,09年-21.8%)、観光収入の増大(5.5%)に努力が払われる中で、今年度のGDP経済成長は、政府発表の速報予想値で2.1%(国連ラテンアメリカ経済委員会では1.9%,09年1.4%)のプラス成長となった。インフレ率は1.4%、財政赤字は、GDPの3.4%(09年4.8%)を示した。政府部門の収入が1.9%減少し、政府支出は、3.5%削減された。外貨ショップの売上は、11.2%減少し、国民生活は依然として厳しいものがある。特に農業生産の中で、食料の中心である、豚肉、卵、米、根菜類、野菜、豆類、柑橘類などの12品目が目標を下回った(-2.4%)。建設も住宅が32,748戸にしか過ぎず、マイナス10%を記録した。砂糖生産も、国際価格が上昇しているにもかかわらず目標を195,000トン割り、110万トンであった。
しかし、輸入の大幅な削減と輸出の増大により、国際収支は改善しつつあり、2008年より遅延していた通常の対外支払いも、遅延を回復しつつあり、来年度には遅延分をすべて支払う見通しとなっている。2011年のGDP成長目標は3.1%と定められた。

③フィデル、公的場面に再登場
フィデルは、6月1日、省察「帝国と戦争」を執筆して以降、朝鮮半島の緊張とイランの核開発をめぐり、世界核戦争が緊迫しているとの独自の見解を「省察」で立て続けに発表し、7月8日、8月8日、9月7日、9月9日、9月15日、9月20日を世界核戦争が勃発する日と5度にわたり予言したが、すべて外れた結果となった。フィデルは、7月7日には全国科学調査センターCENICを訪問し、その写真が公表された。06年7月以来、公衆の前に初めて姿を現したのであった。それ以降、いろいろな知識人と会ったり、屋外で学生を相手に演説を行うようになっている。しかし、国内問題には言及せず、国際問題にしぼって自論を展開している。

④所有と経営の分離進む
今年になって、タクシー運転手、美容院・理髪店勤務員、小型バス運転手に対して、固定賃金制を止め、タクシー、営業施設・器具、バスを貸与して、一定の賃貸料を取り、残りの収入はすべて使用者のものとなるという改革が行われている。また、08年7月からは、国有地の未利用地部分を希望者に期限付きの耕作権を与え、農業の増産を図る政策も取られている。
これらは、中国やベトナムで行われている所有と経営の分離であり、一種の請負制である。しかし、キューバ政府は、1992年からの経済改革において、外資の導入を除いては、分配面での改革に限り、国が所有の枠から踏み出すことはしていない。これは、60年代からの米国との対決の中で総動員体制が敷かれ、農業を除きほぼ全面的に国有化が行われた結果である。キューバ政府は、それを2002年に1992年憲法の政治、社会、経済制度に関しては修正不可と定めて、国家所有を絶対化した。しかし、ラウルは、12月の国会の演説で、「われわれは、(国家所有)を極限化し、ほとんどすべての経済活動を国家所有とした」と問題点を指摘している。
現在進められている、労働力の再配置政策では、国営企業を必要最小限にとどめ、国の所有権は維持したまま、国のサービス業の施設、製造業の施設を協同組合に改編するように考えられている。

⑤農業不振継続、未使用地の使用権供与で増産を図る
キューバ農業は、本年度上半期、12%生産が減少し、自由市場での農産物の供給が目に見えて減少した。5月15・16日に開催された第10回キューバ小農協会(ANAP)大会で、食料の増産が真剣に議論された。食料自給率が40%で、年間16-20億ドル程度も(輸入の20%程度)輸入しなければならず、外貨事情がひっ迫しているキューバにとって、食料の増産は焦眉の急である。農産物増産の切り札として、08年に制定された政令第259号による土地の使用権が、これまで1,007,112ヘクタール、111,137人に付与された。しかし、利用されているのは、現在46%に過ぎない。不振からの脱却は、農業制度そのものに存在する諸問題を解決しなければならない。そのため、農業資材の生産者への直接販売、国の買い付け方法、買付価格の検討、農産物栽培の自由、国に引き渡したあとの残りの農産物の自由販売などが検討されている。今年の砂糖収穫は、1905年以来最悪であり、その原因は「砂糖工業省および製糖企業グループの管理と要求指導の不足」にあるとして、ラウルの長年の盟友であるウリセス・ロサーレス・デル・トロ閣僚評議会副議長も、農業相を解任された。ラウルの人事は私的感情に流されない厳しいものである。

⑥経済封鎖19年連続勝利
10月26日、第65回国連総会で、「米国の対キューバ経済・通商・金融禁輸措置を解除する必要性」が、賛成187カ国、反対2国(米国、イスラエル)、棄権3カ国(マーシャル諸島、ミクロネシア、パラオ)という圧倒的大差で採択された。昨年賛成のパラオが棄権にまわり、国連加盟国192カ国の97.4%が賛成した。
米国の不当な「対キューバ経済封鎖」政策は、国連憲章、国際法、民族自決権、内部問題不干渉、国内政策の域外適用、自由貿易に反するものとして、19年連続して国際社会の圧倒的な意見で解除が要求されたのである。
キューバ政府は、1962年からの48年にのぼる経済封鎖により累積損害は1,001億ドル(時価評価額7,513億ドル)に達し、経済発展の大きな障害になっていると報告している。
米国の経済封鎖政策の中でも、米国農産物の対キューバ輸出は、昨年度6億7500万ドルに達し、米国は、キューバにとって第5位の輸入相手国となっている。また、米国人、米国在住の里帰りキューバ人のキューバ訪問は、2009年40万人に上っている。
オバマ政権は、昨年4月にキューバ系米国市民の家族訪問、家族送金、通信サービスの提供など、封鎖条件を一部緩和したが、予想されていたその次の緩和策、米国人一般のキューバ訪問を許可していない。

⑦政治囚52名釈放へ
7月7日、キューバ政府は、反体制派52人の釈放を決定した。発表によれば、ラウル国家評議会議長、ミゲル・アンヘル・モラティーノ、スペイン外相、ハイメ・オルテガ、ハバナ・カトリック教会枢機卿の3者会談で合意されたものである。
この52名の反体制派は、2003年3月18日以降、米国からの干渉に呼応した容疑で、逮捕された政治囚72名のうち、未だ収監されている人びとであった。判決の理由は、法律第88号「国家の独立及びキューバ経済擁護法」及び法律第62号「キューバ共和国刑法」に照らして、外国勢力からの反政府活動資金の受領罪、外国勢力との反政府活動共謀罪であり、5年から27年の禁固刑を受けた。23名は、すでに健康上の理由で釈放されていた。
確かに、75名の逮捕者は、すべて在ハバナの米国利益代表部との関係、資金援助の関係を認めており、無実の罪の冤罪ではないが、起訴、量刑などについてキューバ政府の過剰な反応という側面もなくはなく、内外で少なからずの批判も呼び起こしていた。
ラウル政権にとっては、現在、困難に陥っている経済を立て直すことが第一の課題である。中でも外貨不足は、極めて厳しい状況にある。EU諸国からの借款、米国のキューバ観光訪問の解除、外国投資の拡大は、外交関係の原則を守りながらも、非民主主義的と批判されている国内の課題を解決して、柔軟な対応で実現したいものである。また、国内で経済改革を進めるには、安定した秩序が必要である。こうした内外の事情が、超法規的な措置を取ってまでも、52名を釈放した背景であった。年末までに41名が釈放され、11名が未釈放となっている。

⑧党大会に向かって国民の討議進む
11月8日、キューバ・ベネズエラ総合協力協定10周年記念の集会で、2011年4月後半に第6回党大会を開催することが発表された。党大会は、党規約によれば、中央委員会総会により招集されるが、党政治局によって招集された。97年の第5回大会から14年ぶりの党大会である。翌日、キューバ共産党第6回党大会の討議文書が発表された。12月の国会で、ラウルは、党大会が、来年度の4月16日~19日の間に開催されると発表した。現在、国民の間でも「とにもかくにも、ついにことは始まったのだ」が合言葉となっている。「経済・社会政策路線案」は、全部で32ページに及び、12章に分けられ291項目の政策が提起されている。
11月には、各省の幹部、経済学者の間で草案は討議され、12月1日から来年の2月末まで職場と居住区の革命防衛委員会で討議されている。キューバ共産党の入党手続きは、一党制の制約に対処するため、職場の模範労働者選出総会で推薦されることになっているので、党大会文書も一般大衆の中で討論されるのである。
なお、党大会に次ぐ重要な会議である党全国会議は、2011年の党大会後に開催される予定であるが、この会議では党活動の方法やあり方が検討され、修正される予定である。そこでは、憲法第5条にある、キューバ共産党は、キューバ国民の中の組織された前衛、社会と国家の最高指導勢力という規定も問題とされるであろう。この規定は、国民政党としての党の活動を制約しているとラウルは指摘している。

⑨米玖関係、駆け引き続く
米玖関係は、今年も微妙な駆け引きが続いた。2月にはハバナで移民問題について協議が行われた。米国側は、クレイグ・ケリー国務省西半球問題担当副次官補が出席し、協議に強い関心があることを示した。会議は当初、「生産的で大変実践的」と米国側は評価していたが、米国代表団が、滞在中にエリサルド・サンチェスをはじめとする反体制派と会議をもったことついてキューバ側が強硬に抗議し、決裂した。
6月には、ワシントンで移民問題の討議が行われた。今度は、「相互尊重の雰囲気で話しあわれ、不法移民の取り締まり方法で、重要な成果があった」と発表された。次回会議を年末にキューバで開くことで合意しているが、結局12月には開催されなかった。
キューバは、米国の経済封鎖が敷かれているものの、毎年食料を5億~7億ドル米国から輸入している。また、米国からの里帰りキューバ人も数10万人に達し、経済的にはいよいよ関係が深まっている。米国の石油業界は、メキシコ湾でのキューバの海底油田の開発に大きな関心をもっているといわれる。
しかし、8月米国務省は、キューバをコロンビア革命軍(FARC)などを支援しているテロ支援国家と引き続き規定した。また、米国政府は、キューバの「民主化」の程度が不十分だとしている。
キューバには、2009年12月より、米政府の開発政策社(DAI)のキューバ担当請負社員アラン・グロスがスパイ容疑で逮捕、拘留されている。一方米国には、1998年より、ヘラルド・エルナンデスほか4名がスパイ容疑で逮捕され、長期に拘留されている。キューバは、2008年よりキューバ国内の政治囚とマイアミで収監中の5人の交換を提案していたが、昨年からはグロスと5名の交換を提案している。この交換交渉は、今年半ばかなりの進展があったようであるが、11月の米国の中間選挙における民主党の敗北もあり、合意には至っていない。

⑩友好国、ALBA諸国との関係緊密になる
今年度、キューバは、ロシア、中国、北朝鮮、イランなどの友好国との貿易関係、政治同盟関係が深めた。
ロシアとは、軍事的な関係が再び深まり、ロシア企業がキューバの石油開発に参加した。
中国は、軍事的協力を再確認するとともに、貿易が30%余延び、年間20億ドル以上となっている。12月には、遅延していた貿易支払いの10年延期と新たなクレジットの供与で合意した。北朝鮮とは、フィデルは、天安艦事件では北朝鮮は関与していないとする一方、北朝鮮の核兵器の保有を抑止力として是認した。ヨンピョン島砲撃事件でも、北朝鮮の立場を支持している。
イランとは貿易が前年度比倍増するとともに、6億ドル余のクレジットを供与された。
一方、米州諸国ボリーバル同盟(ALBA)諸国、とりわけベネズエラとの関係が一層深まっている。ベネズエラとは、11月新たに10年間の総合協力協定を結んだ。そこでは、日量5万3000バレルの石油がキューバに供給されることが確認された。ALBAは、ホンジュラスが脱退し、ベネズエラ、キューバ、ボリビア、ニカラグア、ドミニカ、エクアドル、サンビセンテ・グラナディーン、アンティグア・バーブーダの8カ国となっている。貿易決済通貨として、スクレ(SUCRE地域通貨統一システム)が設定され、使用されるようになった。さらに特許技術、文化交流にも協力が広まっている。
特筆しておかなければならないことは、ハイチ大地震に際してのキューバの医療協力である。1月12日に大地震が勃発すると、即座にハイチ在住のキューバ人医療関係者344人が救援活動にあたった。その他の国々の医師団は2カ月後にはほとんど帰国したが、キューバは医師を増派し続け、現在1200人の医療関係者が医療サービスを提供しており、コレラ患者の40%の治療を行っている。

(2010年12月31日 新藤通弘)

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