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2010年12月19日 (日)

「指令の経済か、利潤の経済か」

「指令の経済か、利潤の経済か」
キューバで経済改革論議が活発に行われている。12月1日からは、職場、居住区(革命防衛委員会CDR)、大衆組織でキューバ共産党第6回党大会の討議資料、『経済・社会政策路線』案が、国民の間で広く討議されている。

一般に、複数政党制となっている国では、共産党の討議資料は公開はされるが、党外の人びとが意見を表明することはあっても、党外の人びとの討議に付されることはない。キューバ共産党員(85万人)以外の人びとの間で討議を進めるという、このキューバ独自の討議方法は、キューバが一党制となっている制約からくるものである。キューバ共産党は、党規約第2条で、「入党は自発的で、模範的労働者の選出会議と各個人の選定によって行われる」と規定している。つまり、非党員が大多数をしめる(党員は、労働者の10%余)職場の会議で、模範的労働者と認められ、選定されることとなっている。綱領と規約を承認すれば、党員の推薦人を得て入党を申請できるという、世界一般の政党への入党手続きとは、異なる珍しい方法である。従って、政府の高官の中でも、いろいろな事情で「模範的労働者の選出会議」にかからなかった場合、非党員であることが、めずらしくない。

本来なら、本年5月に閣僚評議会で承認された「2011-2015年経済5カ年計画」が公開され、職場や、居住区、大衆組織で、広く国民の討議に付されるべきであろう。しかし、この5カ年計画は、未だ公開されていず、8月の国会でも討議されず、経済学者なども知らないという。

この5カ年計画と『経済・社会政策路線』との関連は、ようやく12月の第7期第6回通常国会で、マリーノ・ムリージョ経済計画相によって明らかにされた。それによれば、5月7日―8日に閣僚評議会で「2011-2015年経済5カ年計画」が討議、承認された。11の作業グループが設けられ、5カ年計画、党政治局経済委員会と閣僚評議会執行委員会から出された指針、第5回党大会の経済決議の達成状況報告書の三つの文書を参考にして、291の経済社会政策路線が作成された。8月27日に4種類の報告書が作成され、党政治局経済委員会、閣僚評議会執行委員会がそれらを検討して、9月29日に最終案が承認された。つまり、5カ年計画は別に存在するが、それを基礎として経済社会政策路線が作成されたのである。経済社会政策路線は、今回の国会で15日から4日間にわたり、集中して討議された。

それはともかく、12月5日ラウル議長は、「討議においては、なんら心配せずに適切と考える反対意見を表明してほしい。いろいろな意見の違いを擁護してこそ、最良の解決策がでてくるものである。32ページわたる文書には、われわれが行わなければならない経済での改善案、必要な修正案が盛り込まれている。ついに列車は進行しはじめたので、大いに満足している」と述べた。291項目に及ぶ提案は、相互に関連しており、かつ草案では提案されていないことも、改革の結果としてこれまでにキューバ社会が問題としてこなかった新たな問題を生みだし、まさにキューバ社会の全体に及ぶ改革となり、「経済モデルの更新、あるいは刷新」という範囲に留まらないであろう。

こうした討議の一つとして、キューバ共産党の青年組織であるキューバ共産主義青年同盟(UJC)の機関紙、『フベントゥ・レベルデ』に、12日、キューバのエコノミストの重鎮、ホアキン・インファンテのインタビュー記事、「指令の経済か、利潤の経済か」が掲載された。ホアキン・インファンテ博士は、60年代の革命初期、農業改革庁(INRA)総裁のカルロス・ラファエル・ロドリゲスとともに、財政問題専門家として農業改革を指導し、工業相のゲバラと激しい論争を展開しことで知られている。2000年にキューバ・エコノミスト賞を受賞し、現在は、キューバ・エコノミスト協会の顧問である。以下、同氏の主張を紹介しよう。

「キューバは、ソ連型の現存社会主義モデルを導入したが、それは物質的計画を重視するものであって、価値や財政的結果を重視するものではなかった。われわれは、国も、企業も、国民も成果があったかどうかが、また赤字、能力不足が隠されることに慣れてしまった。

財政を重視すれば資本主義が出てくると考えられ、計画と経済政策において過度の集権化が進められた。一つの例が、国営の経済部門における公式為替レートが、1ペソ=1ドルとなっていることである。この架空のレートでは、真の貨幣価値が考慮されず、生産原価も、輸出入品の原価もわからない。このレートでは、輸出の奨励、輸入の抑制もままならない。権限を分散してこそ、企業は、現実の原価を把握することができるが、そのためにはこの間違ったレートを修正しなければならない。(本ブログ2009年1月10日 (土)、「キューバについての7つの神話(5)6.賃金はわずか17ドル?」を参照)

企業への政府の補助金は、企業の赤字に対して補助するのではなく、本当に国民に原価以下で供給する必要がある品物のみを補助するようにしなければならない。

経済の中央管理が極端になり、外貨管理も外貨残高を管理するのではなく、外貨収入を管理するようになった。これでは、企業の単純再生産さえも保障できない。企業は、資材を使用したあと、国からの資材の供給を待たなければならないということがあっていいだろうか。権限を企業に委譲すれば、企業は収益性、効率を考えるようになる。

卸売価格は、財政価格省が決定するのではなく、収益性を考えて企業間で決定されるように自由化が必要だ。そうすれば企業の赤字も避けることができる。また、原価を正確に把握するようにした後で、小売価格の自由化も必要だ。

改革により2011-2012は、困難と犠牲が生じるであろう。しかし、こうした多くのことを矯正するには、他に方法がない。そうしなければ、社会主義を失ってしまうからである。2013年には成果が現れ始めると確信している。

経済が沈滞している中で、これまでの社会計画を堅持できるかという問題の背景には、近年あまりにも非生産部門が重視され、生産部門が顧みられなかったということがある。

これまで旧い観念で、労働者一人当たりの物質的単位で生産性を考え、財政的な側面を考慮せずに経済を運営してきたが、これは、経済の健康を悪化させている原因である。砂糖がポンド当たり6セントと30セントでは、あるいは砂糖の品質が二等級と三等級では問題が違うのである。

資本主義から社会主義への変革は、本来、何世代にもわたるものであるが、われわれは、短期間に変革することができると考えた。1967年原価の概念を廃止し、経済の諸法則を廃止すれば、(ゲバラが提唱した)「新しい人間」を実現することができると考えた。しかし、一般に人は、労働において刺激を受けなければならないものである。「社会主義の分配法則」を忘れてしまったのだ。社会主義は、権利と機会の平等であり、画一的平等主義ではない。この画一的平等主義では、労働のモチベーションが失われ、中途半端なものとなる。

未だ、理想的な社会主義が建設されたことはない。国民を幸せにしないような、物資を国民により良く再分配できないようなものが社会主義といえるのだろうか。資本主義企業と社会主義企業の違いはどこにあるのか?双方とも、収益を上げなければならないし、原価を考慮しなければならないし、独立採算でなければならない。しかし、資本主義企業では、富は経営者に入り、社会主義企業では国と国民のものとなる。しかし、社会主義企業は効率でなければならない。

「経済・社会政策路線案」では、企業は180度転換しなければならないとされている。労働者は、賃金を企業の経営の結果と結び付けて考えなければならない。企業は、政府との契約を履行したあと、その利益を、企業の発展、労働者への報奨金、外貨の自由使用ができるようにしなければならない。

集団においては、全員の収入は、成果にかかっているので、労働者が政策決定に参加できるようにしなければならない。企業が倒産することもありうるとなれば、労働者、企業幹部全員が影響を受けることとなる。これにより、企業は、経営を適切に行うようにしなければならないようになる。

官僚主義をなくすためには、われわれの経済の観念を変えなければならない。計画が市場よりも重視されるとしても、市場も認めなければならない。基本的な資材は、計画が管理し、供給する。しかし、たとえば、自営農は、特定の農産物の計画が達成されたならば、需要と供給のメカニズムの中で生産をおこなうようにしなければならない。

改革の中で最も困難なことは、二重通貨の廃止である。企業間ではペソとドルは1対1であるが、住民への外貨交換所では1対25である。企業間の交換レートはペソが過大評価されており、住民用の交換レートは、外貨が過小評価されている。したがって、まず初めに企業間の交換レートを改めなければならない。

農業改革庁(INRA)で、カルロス・ラファエル・ロドリゲス総裁の下で、私が財政・価格局長であったころを思い出す。1965年に農業改革庁では、原価を重視することを決め、いろいろなことが改善されたが、その後でたらめなことが行われ、それを現在われわれは、再び矯正しなければならないのだ。しかし、私は楽観している。この世から去る前に、経済が順調に進むようになると思う。」

(2010年12月18日 新藤通弘)

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