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2010年12月 2日 (木)

キューバ経済の十戒とある知識人の懺悔

キューバ経済の十戒とある知識人の懺悔
「重要なことは、ついにことが始まったということだ」という言葉が、現在、キューバ人の日常の会話で最も聞かれる言葉といわれている。

9月13日、キューバ政府は、職場の過剰人員という歴史的な問題の解決に取り組むことを発表した。国営企業・官庁の労働者490万人のうち、過剰といわれる100万人余を他の部門に、自営業、協同組合などの形で再配分しようというものである。タイム・スケジュールとしては、来年の3月末までに50万人を、12月末までに50万人を再配置することになっている。

引き続き、9月28に政府は、労働力の再配置に伴い、失業保険、社会保障の特別措置を発表した。そして11月8日、ラウル議長は、2011年4月後半に第六回党大会を開催すると発表。党大会は、経済問題に集中して討議が行われるとされ、「経済・社会政策路線案」が公表された。その後、政府関係者、研究者の様々な段階でこの路線案が討議され、12月1日から職場、居住区で一般労働者、市民の討議に付されている。80万人余の党員を擁するキューバ共産党の大会討議文書であるが、一般市民の間で討議されるというのは、キューバ独特の方法である。一般討議は、来年の2月28日まで続けられる。

ラウル議長の言葉を引けば、今キューバで最も重要で中心的な課題は、経済面でのたたかいである。また、満場一致はまやかしで、いろいろな意見があることは、討論の内容を豊かにし、より正しい結論を引き出すことができると、ラウルはことあるごとに力説している。

こうした討議の中で、最近、キューバ共産党中央委員会機関紙『グランマ』に、ジャーナリストであり、作家でもあるフェリックス・ロペス氏の興味深い記事が掲載された。それを紹介しよう。記者は、まず、キューバ社会に広く見られる経済面での罪状を告発する。

「もし経済学に、聖書が信者に与えているような数千年にわたる掟のような、十戒というものがあれば、なんと多くのキューバ人が経済の罪を犯したことであろうか。あるものは規則を破り、あるものは権限外のことを行い、多くのものは無知から罪を犯した。同時にこれら三つのことから罪を犯したものもいる。たしかなことは、大多数の人々が、経済の十戒はわれわれとは何の関係もないように考えているが、実際は毎日の生活で罪が犯されていることである。
 この瞬間にも、少なからずの罪が発見され、無知が分かり、国民の経済問題が無視されていることを悩んでしまう。そう、われわれキューバ人は、家庭内の計数では専門家である。あるものは本来生活費に大きく不足するはずの賃金だけで生活できるように奇跡を生みだし(職場で不正を行い)、あるものは海外からの家族送金に収入を頼り、あるいは『作りごと』によって、働かずに生活するずるいものは後を絶たない。幸いにも『生存の経済』ではあるが、完全にあるべき現実とはかけ離れているのだ」。

続いて、ロペス氏は、犯されている経済上の罪を具体的に描いている。
1. 経済のイロハは、計画、生産性、収益性、投資、効率、節約。これらは相互に密接に絡んでいる。しかし、この基本的概念が理解されていない。
2. 労働は、経済の源泉であるが、働いているもの、非効率に働いているもの、怠惰なもの、働かないものにも、同じ賃金が支払われている。これはキューバ経済のいたるところで見られる現象である。これは持続できない。社会主義の原則、「能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」を否定している。
3. 革命の50年にわたり経済の効率を議論してきたが、実現していない。経済学は、マルクスがいう生産諸関係の科学であることを理解していないし、軽視している。効率の文化を作ってこそ企業改革を進めることができる。
4. 経済には秩序が必要。節約し、貯蓄することが重要。種を播いたあとで、刈り取ることができるのだ。しかし、キューバでは、しばしば、種をまく前に収穫し、生産しないものを食べたがっている。
5. 生産諸力を刺激しない経済となっている。資本主義は、効率的でなければ破産するという信賞必罰の制度である。
6. 飛行機の飛行が精密な指針と規律を必要とするように、経済路線の現在の討議により規則と方向性が設定され、それを学習しなければならない。
7. われわれの社会主義では、非効率な企業が、主導権を握っている。国に貢献し、福祉と富を生みだしてこそ、企業の存在価値があるのである。
8. キューバは、経済モデルを更新するが、そのモデルは平等至上主義というものではない。労働者が、生産手段の運営により積極的に参加するモデルである。
9. 指導者及び一般国民が、経済の専門知識をもつようにして、生産諸力をより適切に組織しなければならない。

ロペス記者は、このように問題点を列記して、国民みんなが、経済問題について国技の野球のように関心を持ち、知識をもつようになれば、過剰雇用(労働者の25%)や、不要な投資が行われたり、途中で生産を止めて輸入しなければならなくなるといったことはなくなるであろうと述べている。

ロペス記者は、キューバ経済の十戒として列記はしていないが、その指摘から、キューバの経済の十戒として記せば、次のようになるであろうか。
1. 経済の基礎概念をよく理解しなさい。
2. 労働に応じた賃金を支払いなさい。賃金のみで生活ができない現状は、この法則の違反です。
3. 企業の生産の推進力として常に効率を考え、効率ある国の経済としなさい。
4. 国も企業も、収入に応じて支出し、赤字とならないようにしなさい。
5. 生産力を刺激する経済としなさい。
6. 精密で規律ある経済指針をもちなさい。
7. 企業では、効率性を重視しなさい。
8. 平等至上主義を止め、労働者が生産手段の運営に積極的に参加する経営としなさい。
9. 国民すべてが、特に政府幹部が経済の知識を深め、より適切に生産を組織しなさい。

と、ロペス記者の主張からすればここまでであるが、筆者は、記者の意向を敷衍(ふえん)して、10番目の戒めとして次のことを追加したい。
10. 過渡期社会であるキューバで、市場を恐れてはなりません。管理することを良く考えつつ、市場を活用し、効率ある経済、効率ある企業活動を達成しなさい。

しかし、キューバでは、「経済・社会政策路線案」に記載された291項目の方針を総称して、「経済(モデル)改革」とは呼ばれていない。政府指導部の間では、「改革」ということを避けて、公式には「経済モデルの更新」と呼ばれている。「改革」となれば、それまでのフィデルの政策をラウルが否定する構図となるからであろうか。しかし、内容からすれば、「経済改革」と呼んで差支えないであろう。また、「計画を市場よりも優先する」と述べられているが、新たな方針にはいたるところに市場機能の導入が見られる。効率ある経済とするためには、現実的には避けられないことであるからである。

ロペス記者は、この政策の国民的討議を通じて、「国民の大衆的経済識字化を進めよう」と結んでいる。経済の改革は、懺悔から出発し、経済の十戒を守りつつ進めなければならない。

(2010年12月3日 新藤通弘)

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