キューバ、第6回党大会討議文書:経済・社会政策路線案の問題点
第6回党大会討議文書:経済・社会政策路線案の問題点
来年度の4月16日~19日の間に開催されるキューバ共産党第6回党大会の討議文書が、11月9日発表された。ラウル・カストロ議長によれば、「ついに(経済改革)の列車が発車したのである」。「経済・社会政策路線案」は、全部で32ページに及び291項目の政策が提起されている。
全体は、次のように12章に分かれている。
I 経済活動モデル
IIマクロ経済政策
III対外経済政策
IV 投資政策
V 科学、・技術・イノベーション政策
VI 社会政策
VII 農工業政策
VIII 工業及びエネルギー政策
IX 観光政策
X 運輸政策
XI 建設・住宅・水資源
XII 国内商業政策
この中で、これまでキューバ提起されていなかった問題点で重要なものを紹介しよう。これらを見れば、もはやこれらの変革が「経済モデルの更新」であるか、あるいは「経済改革であるか」を議論することは、すでに意味がなくなっていることがわかる。なんとなれば、ラウル議長自身が、12月18日の国会閉会演説でこれらの政策を、「戦略的な変革」と述べているからである。たとえば、最近、数点の政府の農産物買付価格の改訂(値上げ)を行ったところ、それまでの36の政府決議を無効にしなければならなかったという。これらの改革は、キューバの社会経済構造を大きく変革するものであり、中には「革命の中の革命」と呼ぶアナリストもいるが、あながち誇張ではないといえよう。
これらの特徴をまとめれば、
1. これまで長い間放置されてきた歪んだ経済制度を大きく変更するものとなっている。
2. しかし、理念的には、過渡期の社会主義の建設を維持することを目的としている。
3. 計画を優先するが、市場を否定せず、管理した市場を活用する。
4. しかし、市場の管理方法については議論がされていない。
5. 改革を進めるも、所有面では社会的所有を譲らない。
6. 自営業、協同組合、私企業、自営農などを推進し、従来の国営企業を必要最小限にしつつ多様な所有形態を目指している。
7. 所有と経営の分離を図り、生産者の生産意欲を奨励する。
8. 国の過剰な保護主義を改め、企業への補助金、個人への物質への補助金、画一的な無料制度及び配給制度、生活保護を廃止する。
9. 医療、教育、社会保障も国の財政収入に見合った、身の丈に合せた制度とする。
10. 2015年までに180万人及ぶ労働者が再配置されるが、業務団体を新たに結成するか、労働組合の結成をどうするか議論されていない。
11. 180万人に及ぶ再配転者への失業保険期間、職業訓練などが不十分。
12. 新たな自営業、生産・サービス協同組合、農民に対する経営資金の援助を、困難な国家財政の中でどう行うか明確ではない。
13. 政府が、これらの新しい業務への資材の供給網を来年度3月末までに整備できるか、問題である。
第6回党大会討議文書:経済・社会政策路線案の新政策の重要点
経済モデルの更新においては、計画が市場よりも優先される。
協同組合は、生産の一部を自由販売できるようにする。
企業の倒産を認める。
企業への破産時の国の補助金を廃止し、代わりに企業は貸倒積立金を引き当てる。
通貨の発行を規制する。
非国営部門への融資を促進する。
二重通貨の漸進的廃止。
税制の再検討。
社会的支出は国の税収の範囲内で行う。
輸出補助金、輸入代替補助金を再検討する。
価格体系を総合的に再検討する。
国の価格決定は必要最小限にし、企業の価格決定権を増大する。
経済特区を開設する。
投資建設において報奨金、遅延罰金制度を検討する。
政府の投資には入札制度を設ける。
医療分野の不要な経費を削減する。
全国の医療サービス施設の配置の再検討。
国の予算において社会保障費の比率を削減する(年金生活者が増大)。非国営部門の労働者にも負担を求める。
労働に応じた賃金体系とし、賃金の購買力を回復する。
国営部門の過剰労働者を削減し、民間部門の労働者を増大する。
賃金の購買力を回復し、不要な無料制度、過剰な個人への補助金を削減し、真に必要な個人への保障とする。
配給制度を漸進的に廃止する。
障害者、家族支援がない人に対し生活保護を保障する。
土地の使用権を付与された農民の農産物は、大部分自由販売とする。
住宅の修繕、維持を優先的に行う。そのための資材の販売を非国営商店を通じて行う。
住宅の交換、売買、賃貸の手続きを簡素化する。
社会的所有の様々な経営形態を推進する。
卸売、小売制度の再編成を行う。
民間の新たな生産・サービス形態の要望に応えるために、卸売流通体系を再検討する。
配給生活必需品の小売価格を再検討し、補助金を廃止して国内ペソでの自由販売を増やす。
商業活動の諸規制の撤廃を検討する。
(2010年12月30日 新藤通弘)
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