« 経済改革に取り組むキューバ、労働力の再配置―歴史的課題― | トップページ | フィデル・カストロの去就について »

2010年11月21日 (日)

日本のTPP参加をどう考えるか。

10月に入ると、唐突に菅首相も、仙石官房長官も「第三の開国」とか言い始め、「開国」というキャッチフレーズによって、政策の進歩性、正当性を示すかのように、TPPに参加のための世論形成政策を推進しています。

メディア各社の報道によると、「内閣府は22日、日本が農業分野を含む関税撤廃や投資の自由化を進める『環太平洋パートナーシップ協定(TPP)』に加わると、実質国内総生産(GDP)が現状より年2.5兆~3.4兆円増えるとの試算をまとめた。域内の関税撤廃などで貿易や国内生産が増えるためで、成長率を年0.48~0.65%幅押し上げる」といいます。
内閣府の試算は、「TPP参加に伴う関税撤廃による貿易拡大などにより、日本の実質GDPが0.48~0.65%(2.4兆~3.2兆円)押し上げられる」としました。

また、「経済統合を推進する経産省は、日本がTPPなどに加わらず、米国、欧州連合(EU)など主要国との自由貿易交渉で韓国の先行を許した場合、自動車、電気電子、機械産業の3分野で韓国にシェアを奪われると分析。20年時点で実質GDPが1.53%(10.5兆円)、雇用が81.2万人押し下げられるとした」と報道しています。

あるいは、「内閣府は同時に、自由化圏をAPEC全域に広げる『アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)』に加われば、実質GDPで1.36%(約6.7兆円)の押し上げ効果が期待できるとする試算も初めて明らかにした」とも報道しています。

ここには、
① TPPに参加すれば、GDPは0.48~0.65%、2.4~3.2兆円増加する。
② FTAAPに参加すれば、GDPは1.36%、6.7兆円増加する。
③ この①②を止めれば、GDPは、1.53%、10.5兆円下落する。
との試算が引用されています。

内閣府は、試算の方法は、「内閣官房を中心に関係省庁と調整したシナリオに基づき、川崎研一氏(内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)が、WTOはじめ広く関係機関が活用している一般均衡モデル(GTAPモデル)を使用し、分析したもの」であると述べています。

奇妙なことには、同じ内閣で、内閣府は、TPPに参加することにより、GDPは0.48~0.65%、2.4~3.2兆円増加するといい、農水省は、農業関連産業も含めたGDPが年間7兆9000億円減少すると述べています。同じ内閣の計算で、上下11兆円の差があるということは、試算がかなり恣意的なものであることを想像させます。

現在、TPP、FTAAPに日本が参加すれば、不名誉にもG8の中でも群を抜いて食料自給率が低い日本の食料自給率(カロリー計算で40%、次いでイタリア60%)が、さらに大幅に低下することは必定です。国民への食料の安全供給を心配する側からは、厳しい反対が寄せられていることは当然でしょう。しかし、輸出する側の工業面での分析に対する批判は、ほとんど行われていないようです。

そこで、工業製品での影響を考えて見たいと思います。もし、内閣府の計算が、TPP、FTAAPでいわれている、関税がゼロになることから輸出が増える⇒輸出関連企業の生産が増加すると計算しているのであれば、あまりに単純な議論です。

まず、輸入先の輸入関税ですが、輸入の大半を占める米国もEUも、いわれている自動車、電気電子、機械産業の3分野での関税は、大半が10%以下です。

輸出の競争力は、輸出国での価格とともに、それを輸入する際の為替レート、商品の品質、販売国での販売代理店網、支払条件、アフターケア網、顧客のブランドの好みなども影響します。日本円の対ドル為替レートそのものが、この6カ月で対ドルで15%も変動しているのを見ると、関税が数%の差があっても、あるいは無税となっても決定的な意味はありません。円が対ドルで80円台前半というのも、購買力平価と経済のファンダメンタルズからすれば、長期的には疑問があります。韓国のウオンとドルの為替レートも不確定な要素があります。

日本から米国とEUへの輸出は、16兆円程度で、日本の輸出全体の54兆円の30%、ASEAN諸国への輸出は7兆円で、この三地域を足しても23兆円で、とても輸出が全体として10%以上増加するようには思われません。しかも、ASEANとは、日本はすでに東アジア共同体をめざしてFTAを締結することを視野に入れています。

さらに、現時点では韓国がTPPに参加することは、はっきりしていませんし、電気電子では、むしろ強力な競争相手は中国でしょう。しかし、中国もTPPに参加の意思をしめしていません。また、通貨、元のレートの切り上げの問題もあります。つまり、いろいろ複雑な国際的要素が多くあり、関税が下がった分に応じて、輸出が伸びるというものではありません。

「開国」という言葉から、日本の貿易制度が閉鎖されているかのように聞こえますが、日本において工業製品の輸入関税は、多くが無税、あるいは5%以下で、米国やEUよりも関税率は低くなっています。ですから、菅政権がいう「開国」とは、農産物を、あるいは外国人労働者に対する「開国」でしょう。いずれも、日本の財界にとって大きな利益となることです。

問題は、食料、農産物の輸入が保護されていることで、これは、食料安全保障からすれば、国際的にも当然の制度です。先進諸国G8の中で食料の自給率(カロリー計算)が日本は40%と飛びぬけて低く、次はイタリアの60%という実態を見ても、これ以上10%台に食料自給率を下げて、どうして国民に食料の安全供給を保障できるのでしょうか。それゆえ、近年の食料価格高騰の際に、各政党が、食料安全保障を議論し、国民の関心が高まったのでした。昨年の衆院選挙の民主党のマニフェストには、食料自給率を上げることが提案されていましたが、どのようにここに政策の整合性があるのでしょうか。

もう一つは、労働力の移動の自由、つまり外国人労働者の入国の自由の問題があります。現在、日本には日系外国人、研修外国人労働者が100万人弱います。例外を認めないというTPPでは、どのように処理されるのでしょうか。自民党・財界の一部には労働力の10%(600万人程度)を外国人労働者(賃金が30-40%低い)で雇用したいという意向があるようです。正社員の賃金の半分程度といわれる非正社員の比率が35%となっている現在、労働力市場に一層の困難をもたらすものとなります。

こうして見ると、弱肉強食の新自由主義にもとづくTPP、FTAAPは、強く推進している米国と、それに追随する財界の意向に沿ったものであることは明白です。韓国製品との競争は、日本の参加を進めるために、かなり恣意的に持ち出されているようです。米国は、1994年から推進したFTAA(米州自由貿易圏)が、ラテンアメリカ諸国の強い反対でとん挫した結果、その矛先を太平洋地域に向けてきているともいえます。同じ経済協定といっても、FTAは、相互に保護したい産業を理解して、交渉により妥協点を探ります。TPPは、日本の経済構造を新自由主義政策に基づいて大変革するもので、「1.5%の第1次産業の人びと」を保護するものでもありませんし、もちろん大多数の国民の利益になるものでもありません。「開国」の美名で、「外圧に弱い日本の伝統」を繰り返すことなく、真の国民の利益に立った自主的な判断が求められます。

2010年11月20日 新藤通弘

|

« 経済改革に取り組むキューバ、労働力の再配置―歴史的課題― | トップページ | フィデル・カストロの去就について »

番外編」カテゴリの記事