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2010年11月22日 (月)

フィデル・カストロの去就について

フィデルの去就について、内外で様々な報道が流されている。報道の概要は次の通りである。

時事通信=AFP:「カストロ前議長、完全引退を示唆。17日、ハバナでキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長は、学生に対し前議長は、第1書記としてではなく『意見を持った一兵卒』として語りたいと発言。共産党第1書記からの引退を示唆した。

朝日新聞(20日付):「フィデル・カストロ国家評議会前議長(84)が17日、ハバナ大学生との会合で『地位を捨てるのに一瞬たりとも迷うことはない』と発言した。病気療養のため2008年に議長を辞任した後も共産党第1書記の肩書は持っているカストロ氏が、党トップを辞任する可能性をほのめかしたとの観測が出ている。
 カストロ氏は会合で『私は病気になり、いくつかの権限を手放した。ずっと何かに専念できる状況にはない』と発言。さらに『私は理念のために戦う一兵卒に過ぎない』『この場で第1書記として話しているわけではない』とも語り、地位に執着しない姿勢を重ねて強調した。
来年4月、第6回共産党大会が予定されており、カストロ氏の去就は大きな焦点の一つだ。ただ、党のポストは自発的な辞任はできず、党大会で承認される必要がある。」。

ロイター通信(18日):「フィデル・カストロは、健康にすぐれないことからキューバ共産党の党首としての権限を委譲せざるをえなかったと述べ、恐らくは、指導者としての最後の地位をすでに辞任していることを示唆した」。

アルゼンチンのクラリン紙(18日):「フィデル・カストロ、すでにキューバ共産党の党首ではないことを認める。フィデル・カストロ前国家評議会議長は、活動的で、この数カ月何度も公衆の前に姿を現しているが、2006年に病気になったとき、共産党の最高指導者として活動する条件にはなく、権限を委譲した。学生との集会にはキューバ共産党第一書記の資格で出席してはいないと述べた」。

では、真相はどうなのであろうか。ニュースの出所となったのは、11月17日のグランマ紙、フベントゥ・レベルデ紙、政府系ウエブCubadebateに掲載された同文の記事である。17日の大学生との会合で、フィデルは、「学生へのメッセージ」を読み上げたあと、学生との自由な意見交換に移り、その中で、会話は次のように進行した。その該当部分を紹介しよう。

「ハバナ大学学生連盟副議長のヤスマニ・フォンセカは、『第6回党大会の経済・社会政策路線』の討論過程に参加する学生の意思について語り、最高司令官(フィデル)と同意見である、というのは、フィデルは『党第一書記である』からであると述べた。

フィデルは、この会合には党第一書記の資格で参加しているのではないと述べた。『私は、病気になり、行わなければならないことを行った。つまり、私の諸権限を委譲したのである。すべての時間を権限のために割くことができる条件にはなかったので、委譲せざるをえなかったのである。私自身、病気から回復できるかどうか分からなかった』。権限の委譲は、規則に基づくものであり、医師達に従ったものである。

フィデルは、笑い、『医師達の意見にもかかわらず、医師達指示と薬を忠実に守ったのである』。フィデルは、再び冗談をいって、『もし米国で治療を受けていたならば、恐らくは嘘ツキ雑誌フォーブスが、私がもっているとしたお金を全部必要としたであろう』と述べて、数年前にフィデルを世界の大富豪のリストに中傷して含めた記事に言及した。

フィデルは、『私は、満足している。というのは、キューバは、いろいろな課題があるが前進しているからである』と認めた。『私は、かつて書いたように(2008年2月18日のメッセージ)、思想の一兵卒であるにすぎない。私は、いろいろな地位を辞するにあたり、いささかもためらうこともなかった。まあ、しかし自己批判はしたくない。というのは、結局マスコミがそのことを望んでいるであろうから(斜体部分原文になく、ロイターから)』と述べた」。

この文章からは、フィデルが、キューバ共産党中央委員会第一書記の座を降りたとも、時期党大会で辞任するということも伺われない。このフィデルの発言の背景には、現在の改革は、フィデルの執政時代に生じた諸困難を克服する政策を探求することであるが、フィデルは一切国内問題には本年6月以降言及していないこと、そうしたラウルとの任務分担が存在しているらしいこと、しかし、大会文書の表紙裏には「革命とは、変革すべきすべてのことを変革することである」というフィデルの2000年5月1日の演説の一節が掲載されていること、さらに全国的な討論に際して、ラウル議長が、「提起された方針のひとつひとつにフィデルの思想が盛り込まれている」と発言したという事情がある。

したがって、そうした事情から、フォンセカ副議長が、現在の大会文書の討議に際し、党第一書記のフィデルの意見と一致すると述べたことに対し、フィデルは、いや、別に第一書記の資格でなく、(最高司令官)という個人として参加していると述べているのである。

ところで、党中央委員会第一書記は、キューバ共産党規約第47条により、中央委員会総会で任命されることになっている。党大会で任命されるのではない。5年に一度程度に開催される大会前に、健康上の理由などで第一書記の交代が必要となった場合、臨時党大会を開催するにしても、6カ月以上前に招集して、支部総会、地区委員会総会、県党委員会総会を開催し、代議員を選出しながら行わなければならず、緊急の迅速な対応ができない。したがって、中央委員会総会で任命されることになっており、中央委員会第一書記なのである。また規約は、第一書記の任期途中での辞任を禁止してはいない。昨年7月に第7回中央委員会総会が開催されて以来、開催されていないので、フィデルが辞任しているとすると、第一書記が不在となるので、フィデルが辞任したとは考えられない。またこうした重要な人事が報道されないとは思われない。

さらに、今後の中央委員会総会での再任を回避してほしいとの発言とも思われない。2008年2月18日フィデルは、2月24日に開催予定の国会議員選挙後の初国会を前にして、国民へのメッセージで、国家評議会議長、閣僚評議会議長、最高司令官を辞任すると発表した。重要な職責の進退は、口頭で示唆するものではないからである。

むしろ、老練な政治家であるフィデルは、役割分担の枠内で国内問題への発言を回避しつつ、「党第一書記の資格で参加しているのではない」と述べて、それがどのような反応を呼ぶか、観測気球をあげたようにも考えられる。フィデルの今回の発言の流れ全体の意味からすれば、健康が許せば、健康状態の範囲で権限を維持するとも解釈されるのである。なお、フィデルの公的地位は、中央委員会第一書記だけでなく、引き続き国会議員の地位も維持している。本年8月7日の国会での演説は、国会議員としてのものである。

また、フィデルは、2月18日の辞任メッセージにおいて、「思想の一兵卒としてたたかうことだけを望んでいる。・・・『同志フィデルの省察』という題のもとで引き続き執筆を続けるであろう」とのべていたが、最近の活動は、健康状態が回復する中で、メッセージ発表時以上に執筆活動、外交要人との会見、公衆の前での演説を行っていることは、広く認められているところである。

(2010年11月21日 新藤通弘)

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