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2010年11月

2010年11月28日 (日)

キューバのアヒアコは、まさに味覚の饗宴である

キューバのアヒアコは、まさに味覚の饗宴である
ティノ・マヌエル
森口舞訳

キューバ料理の多様性は、混交した民族性から来ている。キューバの民族性は、先ずはスペインとアフリカの融合に始まり、その後、中国、ユダヤ、アラブ、ドイツ、フランスなどが加わった。

この関係は、また、はるか15世紀にスペイン人の船乗りたちがキューバの島々を探検した時から、料理にも現れている。

このような料理として、アヒアコがある。アヒアコは、キューバ料理のすばらしい典型である。元々の食材は、いろいろな食材が使われている。しかし、時と共に付け加えられたものもある。

例えば、アヒアコは、コロンブスが遭遇した中では最も発達した先住民文化であるタイノー族の伝統から来た言葉である。タイノー族は、過度なほどピーマン(アヒ)を使った。そこから、「アヒアコ」という名前が由来しているのである。
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アヒアコの主な材料に「カサビ(カサベ)」がある。それは、すったユカイモを薄い皮状にしたものである。それを干してソースや肉など、好みのものと食べる。

しかし、アヒアコは、次第に変化していった。スペイン人たちは、元々のピーマン、葉野菜、木の根、根菜類、なんらかの肉が入っているスープに、さらに牛肉、馬肉、豚肉、大根やカボチャを料理して付けくわえたのである。

スペイン人達は、サトウキビ、米、レモン、オレンジ、家畜の牛をスペインから持ってきたうえに、野生の豚をと殺して肉を塩漬けにする習慣ももたらした。

トウモロコシの粉をその葉で包んだタマルは、インディオたちが作っていたものだが、黒人たちが、タマルに豚の皮のチチャロネスや豚の肉を加えた。

アフリカ人奴隷たちは、食事に新たな変化を持ち込み、「カラルー」と呼ばれるスープが現れた。カラルーは、アヒアコに似たスープだが、マランガ(サトイモ、キューバ人に非常に好まれる根菜)の葉、野菜、豚肉、塩漬け豚肉が入る。
アフリカ人たちは、また、油で揚げた肉が好きで、オクラ(暗黒大陸と間違って呼ばれるアフリカ大陸が原産地)、ニンニクを油いためしてまぶしたヤマイモ、鶏肉ご飯を料理した。これらは、現在どのキューバ料理レストランでも注文できる料理である。

干し肉とタラ、それにライスというのが、奴隷の主食だった。白米に目玉焼き、それにひき肉は、黒人の純粋な料理からスペイン人好みに変わり、現在はマドリードでも「キューバ風ライス」として注文できる程だ。

だが、まだ実に典型的なキューバ料理が残っている。焼き豚とアロス・コングリ(赤いインゲン豆を米に混ぜたもの)、青バナナフライ、冷えたビール、ニンニクを油いためしてまぶしたキャッサバイモ、それに自家製デザートのミルクライス、トレハス(キューバ風パンケーキ)や各種のジャムである。

濃密な味あり、スパイスが良く効いた味あり、あっさりした、あるいは柔和な味あり、トロピカル・フルーツ風の味あり、キューバ料理は、大いなる味のミックスなのである。

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2010年11月22日 (月)

フィデル・カストロの去就について

フィデルの去就について、内外で様々な報道が流されている。報道の概要は次の通りである。

時事通信=AFP:「カストロ前議長、完全引退を示唆。17日、ハバナでキューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長は、学生に対し前議長は、第1書記としてではなく『意見を持った一兵卒』として語りたいと発言。共産党第1書記からの引退を示唆した。

朝日新聞(20日付):「フィデル・カストロ国家評議会前議長(84)が17日、ハバナ大学生との会合で『地位を捨てるのに一瞬たりとも迷うことはない』と発言した。病気療養のため2008年に議長を辞任した後も共産党第1書記の肩書は持っているカストロ氏が、党トップを辞任する可能性をほのめかしたとの観測が出ている。
 カストロ氏は会合で『私は病気になり、いくつかの権限を手放した。ずっと何かに専念できる状況にはない』と発言。さらに『私は理念のために戦う一兵卒に過ぎない』『この場で第1書記として話しているわけではない』とも語り、地位に執着しない姿勢を重ねて強調した。
来年4月、第6回共産党大会が予定されており、カストロ氏の去就は大きな焦点の一つだ。ただ、党のポストは自発的な辞任はできず、党大会で承認される必要がある。」。

ロイター通信(18日):「フィデル・カストロは、健康にすぐれないことからキューバ共産党の党首としての権限を委譲せざるをえなかったと述べ、恐らくは、指導者としての最後の地位をすでに辞任していることを示唆した」。

アルゼンチンのクラリン紙(18日):「フィデル・カストロ、すでにキューバ共産党の党首ではないことを認める。フィデル・カストロ前国家評議会議長は、活動的で、この数カ月何度も公衆の前に姿を現しているが、2006年に病気になったとき、共産党の最高指導者として活動する条件にはなく、権限を委譲した。学生との集会にはキューバ共産党第一書記の資格で出席してはいないと述べた」。

では、真相はどうなのであろうか。ニュースの出所となったのは、11月17日のグランマ紙、フベントゥ・レベルデ紙、政府系ウエブCubadebateに掲載された同文の記事である。17日の大学生との会合で、フィデルは、「学生へのメッセージ」を読み上げたあと、学生との自由な意見交換に移り、その中で、会話は次のように進行した。その該当部分を紹介しよう。

「ハバナ大学学生連盟副議長のヤスマニ・フォンセカは、『第6回党大会の経済・社会政策路線』の討論過程に参加する学生の意思について語り、最高司令官(フィデル)と同意見である、というのは、フィデルは『党第一書記である』からであると述べた。

フィデルは、この会合には党第一書記の資格で参加しているのではないと述べた。『私は、病気になり、行わなければならないことを行った。つまり、私の諸権限を委譲したのである。すべての時間を権限のために割くことができる条件にはなかったので、委譲せざるをえなかったのである。私自身、病気から回復できるかどうか分からなかった』。権限の委譲は、規則に基づくものであり、医師達に従ったものである。

フィデルは、笑い、『医師達の意見にもかかわらず、医師達指示と薬を忠実に守ったのである』。フィデルは、再び冗談をいって、『もし米国で治療を受けていたならば、恐らくは嘘ツキ雑誌フォーブスが、私がもっているとしたお金を全部必要としたであろう』と述べて、数年前にフィデルを世界の大富豪のリストに中傷して含めた記事に言及した。

フィデルは、『私は、満足している。というのは、キューバは、いろいろな課題があるが前進しているからである』と認めた。『私は、かつて書いたように(2008年2月18日のメッセージ)、思想の一兵卒であるにすぎない。私は、いろいろな地位を辞するにあたり、いささかもためらうこともなかった。まあ、しかし自己批判はしたくない。というのは、結局マスコミがそのことを望んでいるであろうから(斜体部分原文になく、ロイターから)』と述べた」。

この文章からは、フィデルが、キューバ共産党中央委員会第一書記の座を降りたとも、時期党大会で辞任するということも伺われない。このフィデルの発言の背景には、現在の改革は、フィデルの執政時代に生じた諸困難を克服する政策を探求することであるが、フィデルは一切国内問題には本年6月以降言及していないこと、そうしたラウルとの任務分担が存在しているらしいこと、しかし、大会文書の表紙裏には「革命とは、変革すべきすべてのことを変革することである」というフィデルの2000年5月1日の演説の一節が掲載されていること、さらに全国的な討論に際して、ラウル議長が、「提起された方針のひとつひとつにフィデルの思想が盛り込まれている」と発言したという事情がある。

したがって、そうした事情から、フォンセカ副議長が、現在の大会文書の討議に際し、党第一書記のフィデルの意見と一致すると述べたことに対し、フィデルは、いや、別に第一書記の資格でなく、(最高司令官)という個人として参加していると述べているのである。

ところで、党中央委員会第一書記は、キューバ共産党規約第47条により、中央委員会総会で任命されることになっている。党大会で任命されるのではない。5年に一度程度に開催される大会前に、健康上の理由などで第一書記の交代が必要となった場合、臨時党大会を開催するにしても、6カ月以上前に招集して、支部総会、地区委員会総会、県党委員会総会を開催し、代議員を選出しながら行わなければならず、緊急の迅速な対応ができない。したがって、中央委員会総会で任命されることになっており、中央委員会第一書記なのである。また規約は、第一書記の任期途中での辞任を禁止してはいない。昨年7月に第7回中央委員会総会が開催されて以来、開催されていないので、フィデルが辞任しているとすると、第一書記が不在となるので、フィデルが辞任したとは考えられない。またこうした重要な人事が報道されないとは思われない。

さらに、今後の中央委員会総会での再任を回避してほしいとの発言とも思われない。2008年2月18日フィデルは、2月24日に開催予定の国会議員選挙後の初国会を前にして、国民へのメッセージで、国家評議会議長、閣僚評議会議長、最高司令官を辞任すると発表した。重要な職責の進退は、口頭で示唆するものではないからである。

むしろ、老練な政治家であるフィデルは、役割分担の枠内で国内問題への発言を回避しつつ、「党第一書記の資格で参加しているのではない」と述べて、それがどのような反応を呼ぶか、観測気球をあげたようにも考えられる。フィデルの今回の発言の流れ全体の意味からすれば、健康が許せば、健康状態の範囲で権限を維持するとも解釈されるのである。なお、フィデルの公的地位は、中央委員会第一書記だけでなく、引き続き国会議員の地位も維持している。本年8月7日の国会での演説は、国会議員としてのものである。

また、フィデルは、2月18日の辞任メッセージにおいて、「思想の一兵卒としてたたかうことだけを望んでいる。・・・『同志フィデルの省察』という題のもとで引き続き執筆を続けるであろう」とのべていたが、最近の活動は、健康状態が回復する中で、メッセージ発表時以上に執筆活動、外交要人との会見、公衆の前での演説を行っていることは、広く認められているところである。

(2010年11月21日 新藤通弘)

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2010年11月21日 (日)

日本のTPP参加をどう考えるか。

10月に入ると、唐突に菅首相も、仙石官房長官も「第三の開国」とか言い始め、「開国」というキャッチフレーズによって、政策の進歩性、正当性を示すかのように、TPPに参加のための世論形成政策を推進しています。

メディア各社の報道によると、「内閣府は22日、日本が農業分野を含む関税撤廃や投資の自由化を進める『環太平洋パートナーシップ協定(TPP)』に加わると、実質国内総生産(GDP)が現状より年2.5兆~3.4兆円増えるとの試算をまとめた。域内の関税撤廃などで貿易や国内生産が増えるためで、成長率を年0.48~0.65%幅押し上げる」といいます。
内閣府の試算は、「TPP参加に伴う関税撤廃による貿易拡大などにより、日本の実質GDPが0.48~0.65%(2.4兆~3.2兆円)押し上げられる」としました。

また、「経済統合を推進する経産省は、日本がTPPなどに加わらず、米国、欧州連合(EU)など主要国との自由貿易交渉で韓国の先行を許した場合、自動車、電気電子、機械産業の3分野で韓国にシェアを奪われると分析。20年時点で実質GDPが1.53%(10.5兆円)、雇用が81.2万人押し下げられるとした」と報道しています。

あるいは、「内閣府は同時に、自由化圏をAPEC全域に広げる『アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)』に加われば、実質GDPで1.36%(約6.7兆円)の押し上げ効果が期待できるとする試算も初めて明らかにした」とも報道しています。

ここには、
① TPPに参加すれば、GDPは0.48~0.65%、2.4~3.2兆円増加する。
② FTAAPに参加すれば、GDPは1.36%、6.7兆円増加する。
③ この①②を止めれば、GDPは、1.53%、10.5兆円下落する。
との試算が引用されています。

内閣府は、試算の方法は、「内閣官房を中心に関係省庁と調整したシナリオに基づき、川崎研一氏(内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官)が、WTOはじめ広く関係機関が活用している一般均衡モデル(GTAPモデル)を使用し、分析したもの」であると述べています。

奇妙なことには、同じ内閣で、内閣府は、TPPに参加することにより、GDPは0.48~0.65%、2.4~3.2兆円増加するといい、農水省は、農業関連産業も含めたGDPが年間7兆9000億円減少すると述べています。同じ内閣の計算で、上下11兆円の差があるということは、試算がかなり恣意的なものであることを想像させます。

現在、TPP、FTAAPに日本が参加すれば、不名誉にもG8の中でも群を抜いて食料自給率が低い日本の食料自給率(カロリー計算で40%、次いでイタリア60%)が、さらに大幅に低下することは必定です。国民への食料の安全供給を心配する側からは、厳しい反対が寄せられていることは当然でしょう。しかし、輸出する側の工業面での分析に対する批判は、ほとんど行われていないようです。

そこで、工業製品での影響を考えて見たいと思います。もし、内閣府の計算が、TPP、FTAAPでいわれている、関税がゼロになることから輸出が増える⇒輸出関連企業の生産が増加すると計算しているのであれば、あまりに単純な議論です。

まず、輸入先の輸入関税ですが、輸入の大半を占める米国もEUも、いわれている自動車、電気電子、機械産業の3分野での関税は、大半が10%以下です。

輸出の競争力は、輸出国での価格とともに、それを輸入する際の為替レート、商品の品質、販売国での販売代理店網、支払条件、アフターケア網、顧客のブランドの好みなども影響します。日本円の対ドル為替レートそのものが、この6カ月で対ドルで15%も変動しているのを見ると、関税が数%の差があっても、あるいは無税となっても決定的な意味はありません。円が対ドルで80円台前半というのも、購買力平価と経済のファンダメンタルズからすれば、長期的には疑問があります。韓国のウオンとドルの為替レートも不確定な要素があります。

日本から米国とEUへの輸出は、16兆円程度で、日本の輸出全体の54兆円の30%、ASEAN諸国への輸出は7兆円で、この三地域を足しても23兆円で、とても輸出が全体として10%以上増加するようには思われません。しかも、ASEANとは、日本はすでに東アジア共同体をめざしてFTAを締結することを視野に入れています。

さらに、現時点では韓国がTPPに参加することは、はっきりしていませんし、電気電子では、むしろ強力な競争相手は中国でしょう。しかし、中国もTPPに参加の意思をしめしていません。また、通貨、元のレートの切り上げの問題もあります。つまり、いろいろ複雑な国際的要素が多くあり、関税が下がった分に応じて、輸出が伸びるというものではありません。

「開国」という言葉から、日本の貿易制度が閉鎖されているかのように聞こえますが、日本において工業製品の輸入関税は、多くが無税、あるいは5%以下で、米国やEUよりも関税率は低くなっています。ですから、菅政権がいう「開国」とは、農産物を、あるいは外国人労働者に対する「開国」でしょう。いずれも、日本の財界にとって大きな利益となることです。

問題は、食料、農産物の輸入が保護されていることで、これは、食料安全保障からすれば、国際的にも当然の制度です。先進諸国G8の中で食料の自給率(カロリー計算)が日本は40%と飛びぬけて低く、次はイタリアの60%という実態を見ても、これ以上10%台に食料自給率を下げて、どうして国民に食料の安全供給を保障できるのでしょうか。それゆえ、近年の食料価格高騰の際に、各政党が、食料安全保障を議論し、国民の関心が高まったのでした。昨年の衆院選挙の民主党のマニフェストには、食料自給率を上げることが提案されていましたが、どのようにここに政策の整合性があるのでしょうか。

もう一つは、労働力の移動の自由、つまり外国人労働者の入国の自由の問題があります。現在、日本には日系外国人、研修外国人労働者が100万人弱います。例外を認めないというTPPでは、どのように処理されるのでしょうか。自民党・財界の一部には労働力の10%(600万人程度)を外国人労働者(賃金が30-40%低い)で雇用したいという意向があるようです。正社員の賃金の半分程度といわれる非正社員の比率が35%となっている現在、労働力市場に一層の困難をもたらすものとなります。

こうして見ると、弱肉強食の新自由主義にもとづくTPP、FTAAPは、強く推進している米国と、それに追随する財界の意向に沿ったものであることは明白です。韓国製品との競争は、日本の参加を進めるために、かなり恣意的に持ち出されているようです。米国は、1994年から推進したFTAA(米州自由貿易圏)が、ラテンアメリカ諸国の強い反対でとん挫した結果、その矛先を太平洋地域に向けてきているともいえます。同じ経済協定といっても、FTAは、相互に保護したい産業を理解して、交渉により妥協点を探ります。TPPは、日本の経済構造を新自由主義政策に基づいて大変革するもので、「1.5%の第1次産業の人びと」を保護するものでもありませんし、もちろん大多数の国民の利益になるものでもありません。「開国」の美名で、「外圧に弱い日本の伝統」を繰り返すことなく、真の国民の利益に立った自主的な判断が求められます。

2010年11月20日 新藤通弘

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2010年11月13日 (土)

経済改革に取り組むキューバ、労働力の再配置―歴史的課題―

10月27日、現代キューバ研究所主催の定例研究会で、キューバ研究家の新藤通弘さんが、「経済改革に取り組むキューバ、労働力の再配置―歴史的課題―」と題して発表を行いました。以下その要点です。

「10.11.12 キューバ経済改革.pdf」をダウンロード

続きを読みたい方は、添付のPDFをご参照ください。

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2010年11月 8日 (月)

科学的社会主義と軍備撤廃

科学的社会主義と軍備撤廃

先月10月15日、フィデルが核戦争に反対するメッセージで、「われわれは、核兵器あるいは通常兵器、すべての戦争に役立つものを廃棄すべきだと宣言する勇気をもとう」と呼びかけたことは、11月1日付、「キューバと核廃絶」で紹介した。

核兵器廃絶、通常兵器廃絶は望ましいことだけに、少なからずの人々がこの提案を善意あるものとして高く評価しているであろう。

しかし、科学的社会主義の創始者たちは、軍備撤廃、常備軍の廃止について、どう考えていたのであろうか。

エンゲルスは、1845年『エルバーフェルトにおける二つの演説』において、未来社会の共産主義社会では、常備軍は財政の面からも不要で、廃止されると、次のように述べている。

「今日の社会になくてならない、きわめて費用のかかる施設の一つは、常備軍である。常備軍は、住民中のもっとも強壮で有用な部分を国民から奪い、このようにして不生産的にされたその部分を養うことを、国民に強制する。・・・共産主義社会では、常備軍のことを考えようとする人間などは、一人もいないであろう。・・・防衛戦争をやるためにか? そのためなら常備軍はいらない。なぜなら、軍務に耐える社会の全成員に、日常の仕事のかたわらで、国土の防衛に必要な範囲で、観兵式用ではなく、実戦用の兵器の扱い方をならわせることは、たやすいことだからである。・・・文明国民が軍隊によって奪われているこの無数の労働力は、共産主義的組織のもとでは労働に返還されるであろう」(全集第2巻)。

マルクスは、1871年、パリ・コミューンの経験から、資本主義から社会主義への過渡期の社会では、国民軍が存在すると述べている。

「旧政府の抑圧的な諸機関は取り除かれ、正当な諸機能は取り戻される。常備軍を解体し、国民軍を創設する」(全集17巻)。

レーニンも、1916年12月レーニン、「『軍備撤廃』のスローガンについて」において、軍備撤廃は、社会主義の理想ではあるが、現実の社会の歴史的条件のもとでは、軍備が必要であることを力説している。

「軍備撤廃のための基本的な前提の一つは、・・・われわれは、戦争に反対であり、およそあらゆる戦争に反対である。そして、われわれのこの見かたをもっとも明快に、はっきりと明瞭に表現したものこそ、軍備撤廃の要求である、というのである。
この考えは、まちがっている。社会主義者は、社会主義者であることをやめないかぎり、あらゆる戦争に反対することはできない。・・・
軍備撒廃は社会主義の理想である。社会主義社会には、戦争はないであろうし、したがって、軍備撒廃が実現されるであろう。だが、社会革命とプロレタリアートの独裁をほかにして、社会主義の実現を期侍する人は、社会主義者ではない。・・・『軍備撤廃』を綱領にいれることは、われわれは武器の使用に反対だ、と一般的に言うことを意味している。ここには、われわれは暴力の行使に反対だ、というばあいと同様に、マルクス主義のひとかけらもない!」(全集第23巻)。

しかし、レーニンは、軍備撤廃と軍縮とを区別して考えた。1922年、レーニンは、ジェノバ会議でソ連代表として活動しているゲ・ヴェ・チチュリンに指示して、通常兵器の削減を提案すると同時に、毒ガスなどの大量殺戮兵器については、廃絶を提案した。チチュリンへの手紙で、レーニンは次のように述べている。

「私には、平和主義的なプログラムを、君自身この手紙のなかでみごとに述べたように思われる。
(六)われわれは、わが国で、共和国革命軍事会議いらい定まっているテーゼから出発して、全般的軍備縮小を提案する。
(七)われわれはさらに、ハーグ条約、ジュネーヴ条約の伝統を発展させて、戦争法規を、さまざまな禁止条項、潜水艦の廃止、毒ガス、迫撃砲、焼夷弾、空中戦の廃止などで補足するよう提案する」(『ゲ・ヴェ・チチュリンへの手紙』全集第45巻)。

このソ連の代表の道理ある提案は、世界政治に非常に大きな影響をあたえ、三年後の1925年には「窒息性、毒性またはその他のガスおよび細菌学的方法を戦争に使用することを禁止する議定書」が結ばれることになった。以降、大量殺戮兵器を通常兵器と切り離して、廃止するということは、科学的社会主義の立場となり、それはまた歴史のうえで実証された理論となっている(吉岡吉典『戦後軍縮交渉と核問題』(新日本新書、1985年)。

一つの例は、1959年にフルシチョフ・ソ連首相が提案した軍備全廃案である。同首相は、同年9月、突然、国連総会において三段階四ヵ年で軍備を全廃するという全面完全軍縮を提案した。第一段階では通常兵器を削減する、第二段階で通常兵力を解散全廃する、第三段階で核兵器を全面廃絶するという内容であった。しかし、それを実施すると、第三段階では既存の核保有国のみ(米ソ英)が、核兵器という軍備をもつことになる。この提案は、こうした矛盾した内容をもつもので、実現性の薄いものであり、結局は世界の世論の同意を得られなかった。

現在の核廃絶問題でも、まずは、大量破壊兵器の核兵器を緊急問題として廃絶し、通常兵器は、段階的に削減交渉で廃止するというのが、科学的社会主義の原則となっている。

(2010年11月7日 新藤通弘)

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2010年11月 1日 (月)

キューバと核廃絶

キューバと核廃絶

気になるニュースがある。9月27日付の朝鮮中央通信(KCNA)によると、キューバ訪問中の北朝鮮のキム・ヒョン・ジュン外務次官が、24日フィデルと会談し、その席上、フィデルが次にように述べたと報道されていることである。

「キューバは、キム・ジョン・イルの先軍政治を、米国の核脅迫から国家主権と社会主義を守るために核兵器を含む強力な戦争抑止力を持つにいたったことを、全面的に支持すると、フィデル・カストロ、キューバ共産党第一書記は述べた」

なお、奇妙なことに、9月22日の朝鮮代表団のキューバ訪問については、キューバ国内で報道されているが、この件については、会談の事実さえ報道されていない。もちろん、朝鮮中央通信の虚偽の報道と考えることはできない。

キューバは、核不拡散条約(NPT)は核保有国の核独占に問題があるとして、批准しなかったが、2002年11月、同条約を批准した。また、2008年11月には、ロシアとの共同声明で、NPT再検討会議の成功を期して核拡散に反対で一致したと述べている。さらに、本年5月5日には、キューバは、国連のNPT再検討会議で、具体的な行動計画として、2025年までに核兵器の全廃、中東での非核地帯の創設、イスラエルのNPT加盟を提案した。また、その後、5月末までのグランマ紙でのNPT再検討会議についての報道も、それを積極的・肯定的に評価するものであった。こうした従来のキューバの非核政策は、世界の多くの人々の関心と賛同を呼ぶものであった。

こうしたキューバの従来の政策からすれば、北朝鮮の核保有を全面的に支持するという態度は、どのように整合するのであろうか。NPTには、既存の核保有国に核保有を許しつつ、新たな核保有国を禁止するという矛盾点はあるが、世界の流れは、その矛盾を克服するために再検討会議が開かれ、核保有国も核廃絶に向かうことを承服せざるをえなくなっているところである。米国の核脅迫を受ければ、核保有はやむをえないという論理が通れば、次々と核保有国が増え、核兵器の廃絶に向かって議論している世界の世論の流れと、またNPTそのものと矛盾するのではないだろうか。

6月以降、フィデルが独自の核問題の意見を主張するようになってから、NPTについての肯定的言及がグランマ紙にみられなくなっているのも気になるところである。

最近(10月15日)、フィデルは、「核戦争に反対するメッセージ」を発表した。そこでは、次のように述べている。

「今日、核兵器の使用による戦争の差し迫った危機が存在している。米国とイスラエルによるイランに対する攻撃が、不可避的に世界核戦争になることはいささかの疑いもない。
各国国民は、生存する権利をそれぞれの政治指導者に要請する義務がある。一刻の猶予もなく生存の権利の尊重を要求しなければならない。明日では遅すぎるのだ。
われわれは、核兵器あるいは通常兵器、すべての戦争に役立つものを廃棄すべきだと宣言する勇気をもとう」。

フィデルは、今回も、期日を示さないものの、持論の「核戦争緊迫論」を展開している。これまで、フィデルは、オバマが核戦争の引き金を握っているので、オバマを説得することが重要だと述べていたが、ここでは、各国国民がその国指導者を動かすことが必要だと、論点が変わってきている。願わくば、「各国でまた世界で政治指導者も含め、大きな反核運動を展開して」と述べてほしいものである。

また、フィデルは、今回は、通常兵器の廃棄も提案している。もちろん、核兵器のみならず、通常兵器の廃棄も望ましいものであるが、段階的な通常兵器廃棄の軍縮の提案でなく、一気に通常兵器の廃棄の宣言となるとどれだけ現実性があるだろうか。キューバが米国の様々な干渉政策に直面している現在、果たして、キューバが率先して通常兵器の廃棄を宣言し、実行できるであろうか。

フィデルが、核兵器の廃絶、通常兵器の廃絶を提唱することは、評価されることである。しかし、世界の運動の現実を背景にして、綿密な、現実的な論理の展開によって、その内容がより大きな意味をもつであろう。

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