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2010年10月 3日 (日)

エクアドルで起きたこと

エクアドルで起きたこと

9月30日午前、エクアドルで、一部の警察官部隊が、首都キトを始め、各地の警察本部を占拠し、前日国会で承認された「公共サービス法」の廃止を要求して蜂起した。各地で蜂起した警察官部隊は、公共施設、都市治安警備などの警察業務を放棄し、キトでは、さらにラファエル・コレア大統領追放を叫びながら国営TV局の制覇をはかり(最終的に失敗)、国会も制圧した。また一部の軍隊が呼応してキト空港を閉鎖した。最大の商業都市グアヤキルでは、警官隊は、重要な市内の橋の交通を制限し、市内でタイヤを燃やすなど騒乱状態を作りだした。その機に乗じて一部の市民は、暴徒化し、商店の略奪などを行った。

首都では、コレア大統領は、すぐさまキト警察第一連隊本部に向かい、反乱警官部隊の説得に乗り出し、武力によらず、話し合いで解決するように呼びかけた。しかし、警官隊は、催涙ガスを大統領にめがけて数発発射し、大統領は足と肩に被弾して、近くの警察病院に連行された。そして同病院で反乱警官隊により拘束され、公共サービス法の廃止を3度にわたり、交渉団により迫られた。

午後になると、ゴンサーレス、エクアドル軍統合司令部長官が、大統領の支持を表明するとともに、各地で警官隊の武力行動に反対した市民が警官と対峙し、警官隊は市民に催涙ガスを発射したり、取材中の新聞記者に暴力をふるうなど、騒然とした状態が各地で起きた。エクアドル政府は、非常事態を宣言した。

同日午後、「愛国協会党」党首ルシオ・グティエレス元大統領は、コレア大統領の政策を社会主義的として批判しており、大統領のリコール署名を集める運動を展開していたが、混乱した事態の責任はコレア大統領にあるとして、危機の解決のために、国会の解散、大統領選挙の前倒し実施を要求した。先住民原理主義を主張して、コレア政権の社会・経済政策に反対して、グティエレスと同盟を組んでいるパチャクティク運動も、コレア大統領の辞任を要求した。

コレア大統領は、「暴力や圧力のもとでは話しあいはできない、公共サービス法は、警察官の賃金を切り下げるものでなく、ボーナスは廃止するがその分は月給に回され、初任給の増額、賃金の平均80%の増額を規定しているもの」と反論し、一貫して交渉を拒否した。また、「この反乱は、クーデターを企図するもので、賃金問題は口実で、実際は、コレア政権の社会政策、米州ボリーバル同盟(ALBA),南米諸国連合(UNASUR)統合政策に反対する勢力が内戦を目的として起こしたものであり、その背後にはグティエレス元大統領がいる」と非難した。午後9時前、軍の特殊部隊600名がコレア大統領の救出に向かい、病院を急襲して、大統領を奪還した。この混乱で9名が死亡、274名が負傷した。

国際社会の反応も素早く、UNASUR加盟の12カ国、ALBAのホンジュラスを除く7カ国、インスルサ米州機構(OAS)事務総長は、こうした警官隊の行動をクーデターだと断定して、一斉に非難した。

米国国務省は、「警官隊の暴力は批判し、コレア大統領を支持する」と発表したが、クリントン国務長官も、クロウリイ報道官も、警官隊の行動をクーデターだとは述べていない。むしろ、バレンスエラ西半球担当国務次官補は、「警官隊の無規律な行動」と述べるに留まり、ラテンアメリカ諸国のひんしゅくを買っている。日本政府も、米国政府同様に「警察関係者による全国規模のストライキが発生し,同国政府が非常事態宣言を発出したことを懸念している」としつつ、「民主的に選ばれた(現)政権を支持する」としているが(添付書類参照)、警官隊の無法行為を批判しておらず、いわば喧嘩両成敗の立場にたっている。これでは、毅然と暴力行為を批判していないとして、国際社会から、民主主義に対する態度を問われることになるであろう。
「10.10.01 クーデター未遂事件.pdf」をダウンロード

日本のマスコミ報道においても、事態の核心を指摘しているのは、『しんぶん赤旗』の菅原啓特派員の見識ある報道ぐらいである(添付書類参照)。

以上の経過を見ると、昨年6月にホンジュラスで、軍部がマヌエル・セラヤ大統領を誘拐し、国外に追放し、セラヤの最低賃金引き上げなどの経済政策、ALBA加盟政策などの自主的な外交政策を覆したクーデターの亜種であるとみなすことができよう。この時も米国は、国務省とCIAの2車線の政策を適当に操作してクーデターの黒幕であるとの批判をかわした。現在のホッジス在エクアドル米国大使は、2008年にブッシュ大統領に任命された人物であり、ルシオ・グティエレスは、CIAとの関係が密接であることは、いろいろなところで指摘されているところである。

今回の問題の核心は、民主的に選ばれた国会で民主的に承認された法律を、承服できないとして武力で廃止を要求したことにある。警官隊といっても自動小銃で武装している武力組織である。その組織の一部が、全国で計画的に一斉に蜂起し、示威行為を行ったことは、どんなに強弁しても弁解できない無法な行為であり、中南米諸国でクーデター未遂事件と判断されているのは当然である。もし、日本の警官隊が、公務員給与削減法が国会で承認され、それに承服できないとして、警視庁本部を占拠し、首相に向けて催涙ガスを直接発射し、警察病院に12時間も拘禁した場合、「全国規模のストライキが発生したことを憂慮している」と政府も、マスコミも発表するであろうか。

(2010年10月3日 新藤通弘)

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