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2010年9月11日 (土)

フィデルの言動から目が離せない(3)

フィデルの言動から目が離せない(3)

9月7日、8日とゴールドバーグ記者がフィデルとの会見を掲載した記事が、国際通信社を通じて配信され、物議をかもしているが、それらに対して、フィデルは、10日、発言が誤解されているとして、真意を説明している。フィデルによれば、「ゴールドバーグは、優秀な記者で、発言を捏造せず、そのまま伝えている」とのことである。

それでは、どこに誤解があり、フィデルの真意はどうであろうか。先ずは、質問:「あなたは、今もキューバ・モデルを、輸出する価値があると思っているのか」に対して、「キューバ・モデルは、キューバにとってさえも機能していない」と答えたことから、検討しよう。

フィデルのこの発言は、「社会主義型のキューバ経済モデルは、もはやキューバでも機能していない」、とか、「これはラウルの現在の改革路線を後押しするものである」とか解釈されて報道された。あるいは、筆者が、心配したように、フィデルのこの表現は、フィデルが社会主義、共産主義そのものを否定したとの解釈まで出され、『ニューヨーク・タイムズ』には、フィデルが、「わが国は完全に破産し、共産主義を放棄せざるをえない」と述べる風刺漫画アニメまで掲載されるにいたった。フィデルのあいまいな短い発言が、経済のあり方の問題でなく、体制全体のあり方の問題として、問題が拡大され、反共攻撃に使われる恐れを筆者は感じていたのである。http://thelede.blogs.nytimes.com/2010/09/09/fidel-castros-doubts-about-cuban-communism-and-iranian-anti-semitism/

しかし、フィデルは、ゴールドバーグの「キューバ社会主義経済モデルが機能していない」という解釈も、ジュリア・スウィグの「中央集権経済が機能しないので、ラウルの分権化改革路線を後押しするものである」という解釈も、自分の意図とは、正反対のものであると説明している。フィデルは、「資本主義体制は米国でも、世界でも役にたたず、重大な問題が一層悪化している。したがって、資本主義的なシステムが、キューバのような社会主義国にとってどうして役立つであろうか」というのが真意であると、今回、新たに述べている。

しかし、「キューバ・モデルは、キューバにとってさえも機能していない」というフィデルの回答を、ゴールドバーグが捏造せず、適切に報道しているとすれば、はたして最初の回答から、今回の説明が引き出されるであろうか。少なからずの外国新聞記者が、フィデルは論旨を変更したと指摘しているところである。

もう一つは、フィデルが、ミサイル危機の際に先制核攻撃をフルシチョフに進言したという問題である。ゴールドバーグによれば、記者の質問とフィデルの回答はこうであった。

質問:「ある時点では、あなたが、ソ連に米国を核攻撃するように進言したのは正当であったと思われるが、その考えは今でも正しいと思うか」。
回答:「その後いろいろなことを見て、いろいろなことが分かってみると、まったくその考えは間違っていた」。

今回、フィデルは、前回の発言を否定はしていないが、この問題を「もし米国が、ロシア(ママ)の核兵器が装備されているキューバに侵攻するなら、こうした状況においては、1941年6月22日にドイツ軍とヨーロッパ諸国軍がソ連を攻撃したように、ソ連を攻撃する先制攻撃を許すべきではないということである」と補足した。フィデルは、続けて述べる。「ここからわかるように、もし米国がロシア(ママ)の核兵器が装備されているキューバに侵攻するならば、その場合に敵が先制攻撃をするのを阻止するように進言したことを読者は読み取ることはできなかったであろう。また、『いろいろなことが分かってみると』という私の厳しい皮肉も読み取ることはできなかったであろう。その皮肉とは、アルコール中毒のロシアの大統領が、自国の重要な軍事機密を米国に手渡した裏切り行為を述べたものである」。

ここでも、「その後いろいろなことを見て、いろいろなことが分かってみると、まったくその考えは間違っていた」という前回の言葉からは、今回の発言は読み取れないことはもちろんである。しかし、フィデルは、ナチスのソ連攻撃を例として、米国のキューバ侵攻が予定されれば、キューバ側から核先制攻撃をするように提案した事実を否定してはいない。ここには、やはり、通常兵器の戦争の例を引きながら、核先制攻撃を進言するという問題があるのである。

その他にも問題はあるが、フィデルは、「7月9日の国連安保理決議1929に基づく報告書は、わずか『ヤンキーの手先』、日本人の天野之弥国際原子力機関(IAEA)事務局長の異例の報告があるだけである」と、天野事務局長を罵倒していることは、問題である。筆者は、天野事務局長の短期間の活動を評価する十分な資料をもちあわせないが、こういう国際組織は、一人の事務局長が独裁的に運営するものではない。いわんや、9月5には、天野事務局長はイスラエルにNPTに参加するよう批判をしている。まさかこれも「ヤンキーの手先」としての行動だとフィデルはいわないであろう。キューバの政府系電子版新聞『ペリオディコ26』は、当然のことながら、この行動を肯定的に報道している。フィデルが自らの考えを中心にとはいえ、反核運動を世界に広めようと希望するとき、こうした一面的な個人攻撃で、はたしてキューバは外交的に何を得るのであろうか。

フィデルの言動は、隠居老人の長屋談義ではない。キューバ共産党第一書記の発言である。国際通信社のなかには、何かの機会にキューバの社会主義は失敗だとか、そもそも社会主義は役に立たないとか、反社会主義的な立場から、指導者の失政、失言を待っているものもいる。そのことを考慮して、フィデルは、従来は論理的かつ慎重に発言してきたはずだが。

(2010年9月11日 新藤通弘)


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