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2010年9月16日 (木)

第7期第5回通常国会(人民権力全国議会)報告

キューバ政府は、今月13日、歴史的な職場の過剰人員問題の解決に取り組むことを発表しました。これは、来年の第一四半期までに、過剰といわれる国営企業・官庁の労働者100万人余のうち、50万人を他の部門に、自営業、協同組合などの形で再配分しようというものです。この問題は、法的、社会的、金融的、経済的な様々な内容を含んでおり、国と政府をあげての議論が進められる大改革となります。この方針は、8月に開催された第7期第5回通常国会で、その基本線が提起されています。以下、西尾幸治さんの国会活動報告を掲載します。

キューバで、第7期第5回通常国会(人民権力全国議会)が開催される。
西尾幸治

8月1日、キューバの首都ハバナで第7期第5回人民権力全国議会(ANPP国会に相当)が開催されました。この制度は、革命後最初のキューバ共和国憲法が制定された1976年に創設されています。任期は5年なので、現在が第7期目です。第7期の国会議員選挙は2008年1月に実施されました。国会は、通常1年を2期に分けています(憲法第78条)ので、今回が第5回になります。現在の議員数は611名です(国会のHPより)。
これに先立って、7月の28、29日には12ある常設の作業委員会で討論があり、30、31日には各省の大臣からの所轄報告が行われました。1日の本会議では、2つの法案(交通安全法規と政治・行政区分法の修正案)が可決され、ラウル・カストロ国家評議会議長(以下、ラウル)が閉会の演説を行いました。
ラウルは、今年の第1四半期(1~3月)の国内経済は回復し始めていると述べながらも、今後の大きな課題として、国営分門の過剰労働力(100万人余)を削減するために労働者の再配置を段階的に実施する考えを明らかにしました。これは、全労働人口の約2割に相当します(統計では労働人口は約515万8000人)。
この課題については、7月16、17日に拡大閣僚会議が開かれて話し合われています。この会議には閣僚の他、国家評議会副議長、その他の共産党中央委員会の政治局・書記局員、党の県委員会第一書記、県行政のトップ、労働組合(CTC)・大衆組織・共産主義青年同盟(UJC)の幹部などが参加しています。
この会議で一連の削減措置について決定がなされました。来年の第1四半期が第一段階の予定で、主な再配置部門として、農業や建設分野が想定されています。これにより、働いていない者にも保証される「平等主義的支給」を含めた「非生産的な支出」の削減を目指しています。この計画が成功するためには、人事に関して不公平がないように透明性と適切な情報に基づいた対話が必要であるとラウルは指摘しています。とくに誰がその職に適しているかを判断する際に、えこひいきや、ジェンダー差別などを避けて、適格性を厳格に見極めることが重要であるとも述べています。
この措置と同時に、閣僚評議会は、自営業の業務拡大でも合意しました。これは過剰労働者の配置転換に伴う措置でもあります。そのため、新しい許可や、特定の生産物の販売を可能にするため、現在の様々な制限をなくしたり、雇用契約を柔軟にしたりするとしています。同時に、自営業向けの税制度も承認されました。この事業に参入した者が社会保障費を負担し、個人所得税や売上税を支払うことや、雇用者が労働力使用税を支払うことなどを取り決めています。まもなく開催される予定のCTCの全国拡大会議で、これらの「構造的・概念的変革」となる重要な決定を行うとしています。
ラウルはこうした政策を推進しても、憲法に規定されたキューバの社会システムの社会主義的性格、社会・政治システムの内実は変わらないこと、社会主義的国家の役割として、当然、働くことのできない人には社会扶助制度を通して、尊厳ある生活のために必要な援助を提供すると述べる一方で、「キューバが世界でただ一つ、働かなくても生きていくことができる国であるという観念を永久になくさなければならない」と訴えました。
さらに、革命記念日にあたる7月26日の記念式典で自ら演説しなかったことが海外で様々な憶測(指導部内の方向性の違いなど)を呼んでいることに触れながら、「団結」の意義を次のように強調しています。
「革命家同士、革命指導部と大多数の国民との団結は、我々の最も重要な戦略的武器」であり、「これによって、我々はここまで来ることができ、将来に渡って社会主義を完全なものにしていくことができる」。そして、「団結は誠実な意見の相違を排除するものではなく、異なる考えによる議論を前提とするが、社会正義や国の主権といった最終的な目的は同じである」と述べています。
次に、常設の作業委員会のうち、経済問題、農業・食料に関する委員会での討論を見ておきたいと思います。
マルガリータ・ゴンサレス労働・社会保障相の報告によると、今年の第1四半期で、労働生産性は約4・3%上昇したものの、平均賃金は約0・9%減少しています(昨年同時期比)。この数字について大臣は、「肯定的な兆候」と見なしうるが、「まだ不十分である」と評価しています。
キューバ政府は、労働者の賃金と、提供する労働の効率性や質の向上を結びつける政策を模索しています。つまり労働生産性の向上と賃金の上昇をうまくリンクさせることで経済全体の効率性を実現し、国民の生活水準のレベルアップを図りたいと考えているのです。
昨年の労働生産性は、マイナス1・1%でした。その原因は、先にあげた人員過剰にあると言われています。しかしこれは今に始まった問題ではなく、いわばキューバ経済の長年の課題です(詳しくは参考文献③をお読み下さい)。
他のテーマでは、ALBA銀行が活発に、農業・医療分野へ資金調達を行なっていること、ALBA加盟国で始まった統一通貨決済システム「スクレ」の将来についても話し合いが行われたと伝えられています。
農業食料分野では、コーヒーの生産が6万トンの目標を大きく下回り、6000トンと歴史的に最も低い数字を記録。結果、1万8000トン、金額にして約5000万ドル分を国内消費のために輸入しなければならなくなっています。対策として、買取り価格の引上げや収穫期の働き手の確保、人材育成における科学技術の適用などが挙げられています。コーヒー以外では5月の新聞報道で、砂糖生産が同じように歴史的に低い数字を記録したと伝えられています。最近、統計局が公表している数字によると、農牧畜生産は今年前半期で約7・5%の減少(昨年同時期比)となっています。
ラウルの演説でも、「砂糖や農牧畜生産の計画不履行」の原因として、「指導方針の誤り」があったことを認めています。
砂糖生産については、国際価格の低下に伴い、02年に全製糖工場の半分以上を閉鎖した結果、現在の価格の上昇傾向(バイオ燃料の需要増など)においても、昨年の急激な輸入削減に伴う資材の大幅な不足、施設の老朽化、管理不足などから計画どおりに進んでいないのが現状です。
先にあげた自営業の拡大についても、今年に入ってすでにいくつかの分野で改革が始まっています。タクシー運転手、美容院・理髪店の勤務員、小型バス運転手に対する固定賃金制度を改めて、それぞれの生産手段であるタクシー、営業施設や器具、小型バスを貸し出す形にして、売上げから一定の賃貸料や税金を納めた残りが、使用者の収入になるシステムに転換しました。これ以外にも、製造業とサービス関連の小企業の協同組合化を推進しようと計画されています。
農業に関しては、国有地の未使用部分を希望者(個人及び法人)に期限付きで耕作する権利を認める措置が08年に法制化され、実行されています。7月中旬の報道では、100万7000ヘクタールを超える未使用地(割合にして57%)が、13万3000名の申請者(個人・法人を含む)に引き渡されています。
新しく農業に従事する人は、信用サービス協同組合を通して基本的に必要な資材を調達していると、ペドロ・オリベラ・グティエレス全国土地管理局局長が報告しています。
但し、実際に生産している状態にあるのは全体の46%で、原因として、資材の調達に伴う困難や雑木の多さなどが言われています。また、新しい農業従事者の知識や技能などの問題、すでに引き渡された土地に対する検査システムの遅れなども実際の生産が遅れている原因として挙げられています。
今のところ、キューバ政府が進めようとしている経済政策は、所有制の転換を軸とした大幅なシステムの変更ではなく、賃貸契約による所有と経営の分離に基づいた一種の「生産請負制」であると指摘されています。
 国民生活に大きな影響を与える経済政策の「失敗」は許されないがゆえに、急激な改革よりも、一歩一歩、その成果を見極めながら進んでいく必要があることは確かです。
しかしその一方で、国民の生活水準が向上していくプロセスが実感されないと、社会的不満が高まっていくことも否定できないと思います。政府が国民の意向(不満や期待)から乖離せずに社会経済的な改善を実現していくことで、将来に希望をつなぐ社会へと進んでいけるのかが問われているのではないでしょうか。
ラウルは、演説の最後を「我々の唯一の道は、勝利へのゆるぎない信頼を持ち、楽観的に闘い続けることである」と締めくくっています。

参考文献
① キューバ共産党機関紙グランマ(Granma)http://www.granma.cubaweb.cu/
② 全国人民権力議会HPhttp://www.parlamentocubano.cu/
③ 現代キューバ経済史 新藤通弘 大村書店(2000年)

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