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2010年9月 9日 (木)

フィデルの言動から目が離せない

フィデルの言動から目が離せない
このところ、キューバ・ウオッチャーは、フィデルの言動から目が離せない。フィデルは、8月28日米国のネオコンで親イスラエルの雑誌記者、ジェフリー・ゴールドバーグをキューバに招き、懇談した。目的は、8月中旬に雑誌『ジ・アトランティック』に掲載されたゴールドバーグの記事「イスラエルがイラン爆撃を準備している」をフィデルは注目し、持説の補強のために彼を呼んだのであった。

しかし、ゴールドバーグが招待されフィデルと会談した記事は、8月30日政府系のウェブ、「クーバ・デバーデ」に紹介されたが、会談した事実と水族館を訪問したことに限定され、会談の中身は、キューバのメディアでは明らかにされなかった。

ところが、9月7日なって、ゴールドバーグが、雑誌『ジ・アトランティック』に会見の記事を掲載し、内容が明らかとなった。その記事によると次の3点が新たな点として、直ちに世界の通信社によって報道された。

一つは、ユダヤ人のゴールドバーグに対して、「ユダヤ人ほど迫害を受けた民族はなく、アフマディネチャド大統領が、ユダヤ人虐殺のホロコーストを否定しているのは誤りである。イラン政府は、反ユダヤ主義を止めて、イスラエル国の存在を認めてイスラエルの恐怖を取り除き平和の大義に奉仕するほうが良い」と述べたことである。

ゴールドバーグが、「あなたは、それをアフマディネジャドに話すのか」とフィデルに聞いたところ、「今、これをいっているので、君がそれを彼に伝えてくれてもいい」とフィデルは答えたという。正論であるが、キューバの友好国であるイラン政府、アフマディネジャド大統領を批判したことにもなる。こうした微妙な問題についての見解は、通常では、正式な外交ルートに乗せて意見が交換されるものである。

二つ目は、かつて、1962年のミサイル危機の際、フィデルが、米国への核先制攻撃をフルシチョフに提案したが、ゴールドバーグは、フィデルに、「その考えは今でも正しいか」と質問した。その質問の背景には、当時、以下のようにフィデルとフルシチョフの間に書簡が交わされたことがあったからである。

フィデルは、ミサイル危機の真最中の62年10月27日、フルシチョフ首相宛てに、
「24~72時間以内にアメリカのキューバ攻撃が差し迫っている。もしアメリカのキューバ上陸攻撃あるならば、帝国主義者に核先制攻撃を許してはならない」
と進言した。
それに対し、フルシチョフは、フィデル宛ての10月30日の書簡で、
「貴下は、敵の領土に核兵器による第一撃を加えるようわれわれに提起している。しかし、それは、世界的な熱核戦争の始まりとなっていたであろう。ソ連、社会主義陣営全体、キューバもまたひどい損害をこうむるであろう」
と戒めた。
 すると、フィデルは、10月31日のフルシチョフ宛ての書簡で、
「帝国主義の攻撃の後に、ソ連は、騰膳せずに、そのように行動し、敵が、ソ連に先制核攻撃を加えるという状況を許すという過ちをけっして犯すことのないよう進言したのである。それは、特定の状況についての現実的かつ正当な評価であった」
と自説を正当化した。フィデルは、
「一度戦争が開始されれば、いつ核兵器を使用しなければならないかということさえ決定する特権を、侵略者に譲渡すべきではない。この兵器の破壌力が、非常に大きく、その輸送手段の速度が非常に速いので、侵略者は、著しい先制攻撃の有利さを得ることができる」
という現実主義的考えをもっていたのである。ゴールドバークが行った質問は、こうした先制核攻撃論を、フィデルは現在も維持しているのかということであった。
 フィデルは、こう答えた。
「その後いろいろなことを見て、いろいろなことが分かってみると、まったくその考えは間違っていた」
フィデルは、ミサイル危機後、48年にして、当時の主張の誤りを認めたのであった。なお、筆者は、1992年にカストロとフルシチョフの往復書簡が公開された際、この核先制攻撃論を批判したことがある(『世界政治―論評と資料』1992年12月上旬号、No.874)。

三つ目は、ゴールドバーグが、フィデルに「あなたは、今もキューバ・モデルを、輸出する価値があるか」と質問したことに対し、「キューバ・モデルは、キューバにとってさえも機能していない」と答えたことである。すぐさま、このニュースは、フィデルが、自らが指導してきたキューバの「社会主義」体制全体が機能していないと述べたものとして、ニュースが世界を駆け巡っている。キューバ経済が、深刻な困難を抱えており、構造的変革が必要なことは、ラウル議長も再三再四述べていることである。しかし、ここは、「過度な中央指令経済は、ソ連や、中国や、ベトナムでも機能しなかったように、キューバでも機能していない」と意味であったろう。誤解を生む、舌足らずな表現であった。
 ラウル体制は、最近、国営の製造業、サービス業を協同組合に再編成することを決め、改革にさらに一歩踏み出し始めているところである。所有は、国有のままであるが、経営は組合員にゆだねるという、所有と経営の分離である。所得税の問題、生産手段のリース料の問題、資材の供給の保障、流通・販売網の整理、雇用者の賃金制度などいろいろな問題が解決されなければならない。しかし、この改革は小さくない意味をもっている。さらに、経済の分権化も進められている。「キューバ・モデルは、機能していない」という表現は、こうした危機の克服の努力に触れるものではなく、現状を正確に表しているものではない。
(2010年9月9日 新藤通弘)

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