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2010年9月 1日 (水)

最近のキューバの新聞は何を報道しているのか

最近のキューバの新聞は何を報道しているのか

キューバには、全国紙として最大発行部数の日刊紙では『グランマ』(キューバ共産党中央委員会機関紙、日曜日は発刊せず、通常8ページ。発行部数50万部)、『フベントゥ・レベルデ(反乱する青年)』(キューバ青年共産同盟機関紙、月曜日は発刊せず、日曜日が8ページ、残りの日は4ページで発刊。発行部数20万部)、週刊版で『トラバハドーレス(労働者たち)(キューバ労働者センター機関紙、月曜日発刊、8ページ)。他に地方紙がある。ハバナの場合は、『トゥリブーナ・デ・ラ・アバーナ』。すべてタブロイド版である。かつてはグランマ紙、フベントゥ・レベルデ紙とも、タブロイド版の倍の大きさの8-12ページ建てであったが、1993年にまず、ページ数が半分となり、さらにその後大きさもタブロイド版となった。ニュース量としては、かつての4分の1となっている。

テレビでは、『クーバ・ビシオン』、と『教育テレビ1』が午後1時から1時間、夜8時から35分間同じニュース番組を放送する。

代表的なグランマ紙では、8月5日は、表紙はフィデルの言葉、マイアミに収監中の5人の一人ヘラルドのメッセージ。2、3、8ページと国内ニュース、4、5ページと国際欄、6ページが文化欄、7ページがスポーツ欄であった。一般の国々に比較すると、50ページ程度のページ数で半分以上が広告というのは論外だが、ニュース量はやはり少ない。しかし、それなりに読者の関心、社会の必要性に応じた紙面構成といえるだろう(添付の8月5日グランマ紙参照)「10.08.05 Granma.pdf」をダウンロード

しかし、8月になると、党第一書記、革命の最高指導者であるフィデルが、健康を回復し、旺盛な執筆活動、国会の出席、会談、インタビューを精力的に行うようになった。するとそれらを報道するのに最大の全国紙『グランマ』紙の紙面では足りないようである。

フィデルは、今年に入り、『省察』を1月4、2月1、3月3、4月3、5月3、6月7本のペースで執筆してきたが、7月7日に全国科学調査センターCENICを訪問して、公衆の前に姿を再び現すと、会談、執筆活動が飛躍的に増えるようになった。省察は、7月は5本であったが、8月には17本と急増した。しかもそれらが、A4(80字x40行)で10ページから14ページ(日本語に直すと400字詰めの原稿用紙で40-55枚)という長いものが多くなった。長いといっても、ほとんどは、外電か、他人の著作の引用が80パーセント程度を占める。

その上、長時間の会談、インタビューを行っている。その中には、8月7日には国会での発言、8月10日はベネズエラ人記者団とのインタビュー、8月22日はテレビ座談会、8月23日にはキューバ人科学者との懇談、8月26日には作家のダニエル・エスチューリンとの対談、8月30日にはメキシコの『ラ・ホルナーダ』紙とのインタビューなどがある。これらも、紙面の1-3ページを使って報道されている。

そうすると、8月10日の『グランマ』は、フィデルの国会での演説とベネズエラ記者団とのインタビューが重なって、全体の8ページのうち、国内・外信・文化・スポーツは合せて1ページということになった(添付のグランマ8月10日参照)。「10.08.10 Granma.pdf」をダウンロード

しかし、8月のグランマ紙一般は、8月10日号まではいかないが、2日に一度はフィデルの省察が8ページのうち2-3ページを占め、国内ニュースはわずか1ページとなっている(グランマ紙8月19日、8月28日参照)。外貨節約と緊縮財政にあるキューバでは、そのために増ページされることもままならない。現在キューバは、国内で経済問題、汚職問題など数々の課題をかかえており、その克服のために国民が大いに議論し、積極的に取り組む時期である。これらのニュースを国民は待ち望んでいるのではないであろうか。「10.08.19 Granma.pdf」をダウンロード

「10.08.28 Granma.pdf」をダウンロード

なお、テレビニュースでも、これらの省察が全文読まれることが多く、ニュース番組の半分以上占めることもある。各新聞とも電子版がインターネットに掲載されているが、ネットは、一般に職場で見る程度で、メールが精いっぱいで、とてもニュースを見るまでにいたらない。一般に個人でネットを利用している国民は極めて少ない状況である。

それでは、意気軒昂になったフィデルは、最近なにを主張しているのであろうか。次に、それらを見てみよう。

8月22日、フィデルはテレビ座談会で次のように、米国あるいはイスラエルによるイラン核攻撃と北朝鮮による先制攻撃を述べている。「いずれにせよ、イスラエルにとって、極めて近いイランが核兵器をもつことは、許しがたいことである。それが、もし米国がイランを攻撃しなければ、イスラエルが攻撃する理由である。
オバマは、引き続き引き金に指をかけており、決定を下すのに長い時間をかけないであろう。そうするのを避けるようにしよう。現在できるすべてのことを、しなければならない。
北朝鮮は、自分たちが天安艦を沈没させたのではないと、中国に真実を述べた。しかし、北朝鮮に責任があるというと、北朝鮮は、北朝鮮を破壊させないと反論する。北朝鮮は、ソウルを火の海にすることができるのである。北朝鮮は、イランで戦争が勃発したならば、北朝鮮への最初の一撃を許さない。なぜなら、北朝鮮は、即座に彼らを攻撃してくることを知っているからである。それは、まったく疑いのないことである」。

8月22日には、省察『引き続き議論する用意がある』において、今度は、オバマのみが核戦争を回避できるように強調している。
「なぜ、戦争か平和が、オバマにかかっているのか。ただ一つ重要な事実は、米国において憲法は、同国では戦争の指令を出すことができる唯一の人間が存在していることを規定していることである。そのことは、かつてなく重要である。というのは、世界核戦争は一分で開始され、おそらく一日しか継続しないからである。
この2010年という最後の段階で、もし国連安保理の指示を遵守するならば、おそらくそれを韓国人のバン・キムーンという人物(訳注:国連事務総長)が確実に呼びかけるだろうが、オバマが人類の消滅に責任があるであろうという私の考えを誰も想像しなかったし、オバマももっと想像しなかったであろう」。

また、フィデルは、8月23日には、核の危険についてのキューバ人科学者と意見交換し、世界核戦争が勃発する危険性を強調する。「これは、世界で最初の核戦争となるように思われる。人類史は、このような戦争を経験したことがない。つい最近までだれが戦争の危険を知っていたであろうか。だれがそれについて話したであろうか。だれが、世界のすべての通信手段を支配しているのであろうか。
ここに、すべては、一人の人間(オバマ大統領)にかかっているのだ。それは、強大であるからというのではない。それは、彼が、引き金をひく権限をもっている唯一の人間であるからである」。

8月28日には、フィデルは、省察『憂慮する238の理由』において、国連安保理決議1929の報告切れの9月7日以降に核戦争が必至であると主張するようになる。
「9月7日以降、国連安保理は、イランが核計画を停止したかどうかを検討するであろう。もし、決議1929の文言に合致するならば、米国あるいはイスラエルは、公海でイランの商品を検査しようとするであろうし、武力を行使しなければならなくなるであろう。これが、現在われわれが、明らかに不確実な点である。
ジェフリー・ゴールドバーグの重要な論文、『アトランティック』誌の「後戻りできない地点」を注意深く読んだなら、この史上まれな矛盾が意味すること、双方の国の間で、核の時代において、ほとんど解決できないことがわかる」。

そして8月30日には、フィデルは、『ラ・ホルナーダ』紙とのインタビューにおいて、9月9日には世界核戦争が勃発するかもしれないと具体的に警告している。
「このところ、私は、表舞台に出ないわけにはいかない。世界は、最も興味深く、存在が危険な段階にあり、私には、勃発しようとしていることに対し、行うべき義務がある。
その義務は、全面的な反核戦争運動の結成のようなものである。そうした巨大な脅迫が実行されるのを避けるために、国際的な説得力を作ることである。
私は、最初、北朝鮮への核攻撃が行われると考えた。しかし、すぐさま修正した。というのは、中国が安保理において拒否権でそれを止めさせたからである。しかし、イランに対してはだれも止めない。中国も、ロシアも拒否権を使わなかった。
われわれは、バラク・オバマ米国大統領に核戦争を避けるよう説得するために世界を動員しなければならない。彼だけが、ボタンを押すかどうかできるのである。
100発の核爆弾だけでも世界全体を暗闇にする核の冬を作ることができる。
こうした残酷なことは数日以内の問題として、より正確にいえば来る9月9日に起こりうる。その日が、イラン船舶の検問を開始するために、国連の安保理が与えた90日期限が終了する日だからである。
イランは、譲歩しないことは確実だ。アメリカが譲歩するだろうか。どちらも譲歩しないとしたら、どうなるだろうか。このことが、来る9日に起こりうることなのだ。
爆発後の1分間で、人類の半分以上が死亡し、灰と炎の中で諸大陸の噴煙が太陽の光をさえぎり、暗黒の闇が世界を支配し始めるであろう」。

フィデルの主張をまとめれば、①米国、イスラエルは、帝国主義で侵略的で、イランの核武装を許せない、②イランはイスラム原理主義で譲歩しない、③米国、イスラエルは、核攻撃でイランの核武装を阻止、④米国は、北朝鮮にも攻撃を行う、⑤北朝鮮、核攻撃で韓国に先制攻撃、⑥そこで、世界核戦争になる、⑦核の冬で世界は滅亡、⑧一方、米国では憲法上、大統領が軍最高司令官であるので、オバマが人類滅亡のカギを握っている、⑨したがってオバマに核の引き金を引かないように自分が先頭に立って国際的に呼びかける、という筋書である。

しかし、日本でも、欧米でも主要紙は、まったくこの世界核戦争の勃発の可能性について報道していない。一体どうなのだろうか。ここで、まず国連安保理決議第1929をよく読んで見る必要がある(別添決議訳文参照)。「10.06.09 国連安保理決議1929全文.pdf」をダウンロード


そこには、第15条で船舶の船籍国の同意を得て初めて検問が公海上でできることになっている。その場合、決議文では武力行使は排除されている。そして、36条、37条で決議後90日経過したところで、イランが決議を順守した状況を国際原子力機関(IAEA)と国連で検討することになっている。したがって、90日経過すれば、いきなり米国、イスラエルが検問、イランが拒否、米国、イスラエルが武力行使、核攻撃という展開になるようには、決議文からは伺われない。そうであるから、一般に報道されないのであろう。

また、フィデルの主張は、すべて①から⑨までのそれぞれの要素の本質を理論的に展開しており、それぞれの要素が具体的な情勢、条件の中で、中東諸国、ロシア、中国、韓国、日本政府などの重大な利害関係国が自国の維持のために、どういう態度をとり、米国政府やイスラエル政府が平和勢力とどう対峙し、どういう制約を受け、どういう実際の行動をとるかという分析にもとづいていない。状況は、大変複雑な問題となるのである。

たとえば、米国大統領とて、一方的に一人で核戦争開始という重大な政策を決定するのではない。米国自体の軍事的、経済的安全性、米国民の反応、議会の反応、政権内部のコンセンサス、国家安全保障会議での議論、自らの陣営にも影響する核兵器の絶大な破壊力、大量な人命の犠牲についての考慮、同盟国の協調、同意の可能性などいろいろな要素がある。

あるいは、前にも指摘したが(8月10日付「国際情勢が変わったのか、それとも・・・」)、世界における50年代からの様々な国際的な反核運動(それにはキューバも積極的に参加してきた歴史がある)、核軍縮の歴史、「核戦争に勝利者はいない」、「核兵器には軍事的に使い道がない」という軍人たちの経験、国際反核運動の高揚も、現段階では、核使用を抑えている重要な一因である(たとえば、ジョナサン・シェル『核のボタンに手をかけた男たち』川上洸訳(大月書店、1998年)参照)。フィデルがいう今オバマに核を使用させない運動を国際的に作るという善意も評価されるが、主観主義的な危機感に立たず、むしろこうした反核世論・運動と一緒になって世界において核使用禁止、核廃絶の世論を高めることが有効ではないだろうか。

フィデルの核戦争勃発の予告は、すでに7月4日の予測が外れて、その後7月9日に自己批判するものとなっている。今回、9月9日に核戦争が起きなくても、それは、現在の反核運動・反核意識の高まりの結果ではなかろうか。
(2010年9月1日 新藤通弘)

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