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2010年8月 5日 (木)

はたして核戦争は迫っているのか?

キューバ国家評議会は、8月7日に臨時国会を召集することを決定した。議題は、いろいろな国際問題と報じている。これは、7月26日、フィデルが、キューバ人芸術家、知識人、米国人友好運動活動家たちとの対話で、独自の見解である、米国のイランと北朝鮮への核兵器攻撃の可能性、核戦争の危険を強調し、この問題で近々特別国会を開催するように要請すると述べたことからきている。フィデルは、現在も国会議員であり、党第一書記であるので、その要請となれば、国家評議会も開催に同意したのであろう。

この臨時国会では、今回の通常国会でも空席となっていたフィデルの席に、フィデルは座り、議論を展開するものと思われる。

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ラウルの左側が空席となっているフィデルの席

では、国際問題とは、何が議論されるのであろうか。フィデルは、8月3日、オバマ大統領に回答を求めた省察『米国大統領への要求』を発表し、現在の国際問題について所見を述べた。フィデルは、AFP、EFE、DPAなど外電を駆使して引用しつつ、時系列で持論を展開している。したがって、テーマと論理が飛躍しているところが散見されるように思われる。その大要は下記の通りである。

BPの石油漏出事件の背景には、オバマ大統領が、中東への石油依存から脱却するために深海石油掘削技術を過信して、開発を許可したことがある。環境擁護の科学者や市民がこの米国の消費主義社会を批判していたものである。

第一の緊急の問題は、天安艦沈没事件後の核戦争の危険である。これは韓国政府の主張である北朝鮮の旧式ソ連製潜水艦の魚雷によるものではなく、米国の諜報部隊が天安艦の船体に爆薬を仕掛けたことによるが、即座に北朝鮮政府の仕業とした。

この事件の数日後、国連安保理決議第1929号が採択され、90日間以内のイラン船籍の商船の検問を命じた。

第二に気候変動の問題で、破滅的な影響をすでにもたらしつつある。この上、メキシコ湾で石油の大量漏出事件が起きているのである。現在メキシコ湾の海底に27000の放置された由井があるとのことである。米国政府が、生産を停止している油井から石油が漏出する危険を公式に述べたのは初めてである。油田の地下構造が損傷されており、岩盤の間から原油が漏出する危険を米国政府は指摘している。この問題はどうなのか。

アフガン戦争関連の24万点という大量の秘密文書がウイキリークスによって漏出されたことである。その文書には、米軍によって犯された戦争犯罪の証拠がある。オサマ・ビン・ラディンは、米国の諜報員だったことがこの文書の中に出てくる。ソ連のアフガン占領反対のたたかいの中で、ビン・ラディンは、米国と協力した。しかし、彼は、ソ連のアフガン占領が終わると外国の干渉を拒否し、米国とたたかうためにアルカイダ組織を作った。アルカイダは、米国との戦いの中で生まれたものである。アルカイダは、アフガン政府が作ったものであった。

イスラエル国防相は、「国連の制裁は、イランに原爆製造用のウランの濃縮作業を停止させるにいたっていない」と述べた。一方イラン軍の高官は、「米国のイランに対する攻撃に反対する。イスラエルはイランの核武装計画を停止させるため、イランへの軍事行動を否定していないと」警告した。

米国をはじめ国際社会は、最近イランに対する圧力を強化し、民生用核開発計画に偽装して核兵器開発しようとしていると非難している。8月1日マイケル・ミューレン米軍統合参謀本部長は、イランが核武装する計画を持っているので、それを止めさせるイラン攻撃計画があることを認めた。

8月2日、アフマディネジャド大統領は、9月にニューヨークでオバマと会い、直接、対等平等の立場で話し合いたいと述べた。イラン政府は、米国とイスラエルがイランを封鎖し、イランの商船が検査を受けるやいなや、それらの船舶にミサイルを発射すると通告した。

したがって、オバマが安保理決議の実行を命令するならば、同地域のすべての米国軍艦が沈没させられることになる。いかなる米国の大統領もこうした劇的な決定をする場面におかれたことはない。彼は、それを予見すべきだった。

この機会に米国のバラク・オバマ大統領にいう。あなたの手のみが、人類に平和という現実性を与える。あなたには、発射する命令を行う権限の行使は、ただ一度だけであろう。

貴下に、キューバ国民の名前において送るこうした抗議に耳を貸すようにお願いする。これまでと同じく、貴下の回答は期待できないと思う。良く思慮され、専門家と相談し、同盟国や敵対国の意見を聞いてほしい。

現在の最悪の可能性は、核戦争であり、それはすでに実際上避けられないものとなっている。それを避けるように。

以上が省察の論旨である。フィデルは、6月1日の省察「帝国と戦争」以来、独自の見解である米国・イスラエルによるイラン核攻撃、また同時に米国による北朝鮮核攻撃を、その他の省察や、テレビ・インタビュー、世界経済調査所や外務省でのキューバ大使会議での講演、キューバ人知識人との対話において、繰り返し論じている。今回の省察では、断定的な表現は弱まっているが、中心の論理と結論は、「現在の最悪の可能性は、核戦争であり、それはすでに実際上避けられないものとなっている」という点にある。

果たして、その主張の妥当性はどうであろうか。

フィデルが、天安艦事件を米国の諜報活動によるものとして断定して、イランの核開発疑惑とその制裁措置を結びつけ、米国とイスラエルのイラン攻撃、また北朝鮮への攻撃を予測するのは、その可能性について異論はかなりあるであろうが、ありうる議論かもしれない。しかし、いずれの側からの応酬にも核兵器による攻撃は述べられていない。あくまで通常兵器の問題としての応酬だ。ここに論理の飛躍が見られないであろうか。

ペルシヤ湾、ホルムズ海峡、あるいは朝鮮半島における戦争は、通常兵器であっても、この地域の国々のみならず、世界のエネルギー事情、経済事情全体に破滅的な被害をもたらすであろう。イラク戦争とは比較にならない戦争である。いわんや核兵器を使用した攻撃となれば、米国やイスラエルの海外施設、国内の重要施設は、過激派による無差別の報復目標となるであろうし、核の使用は、世界の膨大な人びとによる厳しい非難を受けるであろう。これは、世界支配を目的として米国指導者が誤った政策を行うとしても、国の内外で自らの支配を失ってしまいかねない蛮行であろう。筆者には、そこまでイスラエルと米国の指導者が愚かとは思えない。

フィデルが、現実政治の立場、核戦争を非難する立場から、核戦争に触れることは悪いことではない。しかし、現在の世界の趨勢は、オバマ大統領自身による昨年4月の核廃絶希求宣言、今年の核不拡散条約(NPT)再検討会議での「核兵器のない世界の実現」の決議、核兵器廃絶条約交渉の開始を求めるパン・ギムン国連総長の提唱、2012年の中東非核化会議の決定など、紆余曲折はあっても核不使用、核廃絶に向かって国際世論は、着実に前進している。本年度の原水禁世界大会の国際会議宣言は、核戦争が差し迫っている危険を論じてはいない。今年の広島平和記念式典には、初めて駐日米大使ジョン・ルース氏も出席する。米国を代表しての同大使の出席にはいろいろな見方があるが、核兵器使用を推進する立場からでないことは明らかである。

核兵器使用反対、核廃絶はいくら声高に叫んでもよい。しかし、核の現実的な使用の可能性についての批判は、事実に基づいた冷静かつ慎重な発言が必要だ。オバマ大統領が現実に核兵器の使用を考えているのであれば、ルース大使を平和記念式典に派遣することは、二重人格者となるであろう。

もうひとつ心配なことは、7日開催のキューバの特別国会では、フィデルの歴史的権威、国民一般の尊敬、もっている情報量の差、説得力などで、フィデルの議論が支配的となろう。国会では、上記のフィデルの主張の線で特別決議が行われるかもしれない。しかし、それは国際的な核廃絶の取り組みからすれば、かなりの乖離があるものとなるであろう。
(2010年8月5日 新藤通弘)

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