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2010年7月10日 (土)

日本政府の対キューバODA政策

日本政府の対キューバODA政策

先日、日本とキューバの友好活動に携わっているある友人から、「日本政府は、米国政府の顔色を伺って、対キューバ政府開発援助(ODA)を積極的には行っていないのが実情だ」という意見があるが、実際はどうなのかという質問を受けた。日本政府の一般的な対米従属的な態度からすれば、さもありなんと思われる見解である。

単にキューバと仲良くしたいという程度の友好であれば、この程度の認識でもいいかもしれないが、相互の国民にとって共通の課題に取り組み、課題を解決して進歩と繁栄を実現するという友好であれば、今少し現実を科学的に分析しなければならない。実際はどうであろうか。

まず、日本の対ラテンアメリカODA政策はどうであろうか。これについては、前田恵理子さんの優れた論文、「日本のODAの現状とラテンアメリカ」(雑誌『経済』2010年1月号掲載)があるので、参照こう。

日本のODA全体をみると、1997年をピークに近年、財政困難を理由に減少している。2008年度は、日本のODAは、供与純額が93億6200万ドルで経済協力開発機構(OECD)開発援助委員会(DAC、22カ国加盟)において米国、ドイツ、フランス、イギリスについで第5位であった。日本の国民総所得(GNI=GNP)に占める割合は、0.18%で(国連の目標値、GNIの0.7%には程遠い)、DAC中、不名誉なことに米国と並んで最下位であった。しかも、日本は返してもらうことに重点を置き、贈与比率(無償援助・技術協力)は、52.2%(DAC全体では90.2%)で最下位であった。

こうした日本のODA供与の政策は、「わが国ODAの目的は、わが国の安全と繁栄に資する、・・・国民の利益の増進」という国益優先の政策から来るものであり、国際的に少なからず批判されている点である。

その中で、ラテンアメリカ諸国は、5.6 億人に及ぶ人口(世界の8.5%)をかかえ、わが国にとって輸出の4.2%、輸入の3.1%を占める地域である。2006年ラテンアメリカが受け取ったODA総額のうちで日本のODAのシェアは、米国、スペイン、ドイツに次いでわずか8%を占めるにすぎない。2007年、日本のODA全体(総額57億7,815万ドル)の中で、ラテンアメリカ向けODAの総額は、2億2,558万ドル 3.9%であった。ほぼ貿易が占める位置に相当するものであったともいえる。

さて、そうした全般的な文脈の中で、日本政府の対キューバODAの現状はどうであろうか。外務省の資料によれば、90年代半ばまで、日本の対キューバODAは、年間1億円は超えず、一般に毎年3,000万円止まりであった。上記の発言が言う通りであったかもしれない。

しかし、92年対キューバ経済封鎖を強化するトリセリ法が制定され、同年11月に行われた第47回国連総会における米国の対キューバ経済封鎖解除の決議において日本は棄権に回った。米国の重要な対キューバ政策において、日本は米国に追随しなかったのである。さらに、97年3月ペルー大使館人質事件において、キューバ政府が「人道的見地」から武装勢力の受入れを表明して、日本政府との関係も改善し始めた。同年の国連総会で、前年に施行された経済封鎖を一層強化したヘルムズ=バートン法に日本政府は同調せず、経済封鎖解除決議において、賛成に転じた。98年4月にはキューバと日本の大手企業との間に約1,000億円の累積債務の繰り延べについて基本合意が成立した。

そうした両国の関係改善の中で、98年には無償経済協力787万ドルがキューバに供与され、技術援助とあわせて援助総額は870万ドルとなった(対中南米ODA総額の1.6%)。その後、日本の対キューバODAは、2000年に200万ドル(0.3%)と下がったが、2003年には579万ドル(1.2%)と回復し、2005年581万ドル(1.4%、ラテンアメリカ33カ国中で受取上位13位)、2006年339万ドル(0.8%、上位16位)、2009年401万ドル(1.5%、上位14位)となっている。キューバは、人口1,100万人で、ラテンアメリカで第10位の国である。人口比からすれば、今少し、供与額が増え、3-4番程度位置が上昇してもよいかもしれない。しかし、とても「米国の顔色を伺い、積極的ではない」、というような単純なものではない。

問題はそこにはない。なんとなれば、実は、キューバが受け取っているODAの供給国の中で、米国は常に2~3位を占めているのである。たとえば、OECDのデータによれば、2008年度最大の供給国はスペインで3,500万ドル、続いて米国1,200万ドル、カナダ800万ドル。日本は300万ドルで第9位である。米国自身が、日本を上回る4倍の額のODAをキューバに供与しているのであるから、別に日本が米国の顔色を伺う必要はない。

問題は、日本政府が「我が国は、キューバにおける民主化及び経済自由化の促進、人権状況の改善を支援することを目的としてODAを実施している」として、ODAの供与をキューバの内政問題と絡めていることである。また、政府は、「2003年にヨーロッパ連合(EU)がキューバの政治犯大量逮捕を著しい人権侵害として、ハイレベルの交流の自粛等の制裁措置を講じたことにも留意してODAを実施する」としている。こうした自分たちの価値観・民主主義の基準を一方的に押し付けて、経済援助をちらつかせている日本政府の態度は、さもしいものと言わなければならない。このことこそ、問題とされなければならないのである。
(2010年7月10日 新藤通弘)

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