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2010年5月23日 (日)

キューバの最近の改革をどうみるか。

最近の改革をどうみるか

今年になって、タクシー運転手、美容院・理髪店勤務員、小型バス運転手に対して、固定賃金制を止め、タクシー、営業施設・器具、バスを貸して、一定の賃貸料を取り、残りの収入はすべて使用者のものとなるという改革が行われている。いずれも、収入は月収2000ペソ近くになるように設定されている。実際には、これらの人びとは、チップや不正などにより、この程度の水準の収入を得ており、キューバ特有の現実の別な制度による追認と取ることもできよう。

しかし、08年7月からは、国有地の未利用地部分を希望者に期限付きの耕作権を与え、農業の増産を図る政策も取られ、現在までに11万7000人と92万ヘクタールが契約されている。もっとも、この制度は、契約者の多くが農業経験をもっていなかったり、政府の農業指導が未確立であったり、農業資材の供給が不十分であったり、販売ルートの未整備などがあり、未だ半分の耕地も生産体制には入っていない。農業の増産に本格的に寄与できるようになるには、かなりの時間が必要であろう。

ちなみに、5月15・16日に開催された第10回キューバ小農協会(ANAP)大会で、食料の増産が真剣に議論された。食料自給率が40%で、年間20億ドル程度も(輸入の20%程度)輸入しなければならず、外貨事情がひっ迫しているキューバにとって、食料の増産は焦眉の急であるからである。大会では、近郊農業を促進すると討議はされたが、有機農業を推進して食料問題を解決しようという論法での議論は皆無であった。閉会演説を行ったムリリョ経済・企画相は、食料増産のために「自然肥料の供給とともに国産化学肥料の増産を図る」ことが必要であるとして、当然のことであるが、現実的な政策を表明している。有機農業は、農法の一部であり、本年度1-3月期で13パーセント生産が減少したキューバ農業の不振からの脱却は、農業制度そのものに存在する諸問題を解決しなければならないからである。

それはともかく、これらの諸改革をどのように解釈すればよいのであろうか。

キューバは、1990年に、貿易の85%を占めるソ連・東欧圏の経済困難が深まり、石油や資材の輸入が激減し始め、「平和時の非常時」を宣言し、緊縮政策に入った。そのため、未曽有の経済困難に対処するために、また80年代末にすでに問題とされていた経済の非効率を克服するために、いろいろな経済改革を模索し始めた。それらの主なものを列記すれば、下記のようになる。

          キューバ経済改革年表          
1990 8  「平和時の非常時」始まる。緊縮政策開始。
1991   観光業の推進
1991 10  コーヒー、タバコ、米作用に国有地の未利用地の使用権を付与。
1993 8  外貨所持の全面合法化。
1993 9  個人営業の認可を135の職種に拡大
1993 9  国営農場の協同組合農場(UBPC)への改編。使用権のみ付与。
1993 11 銀行制度改革開始
1994 8 個人・企業所得税等の新税制制定。
1994 9  農産物の自由市場の承認。
1994 10  工業・手工業製品の自由市場の承認。
1994 12  外貨交換ペソ(CUC)発行。
1995 6  飲食サービス業の個人営業承認。
1995 9  新外国投資法、法律第77号制定。外資を積極的に推進。
1997 5  「住宅賃貸について」の政令第171号制定。住宅の賃貸を認める。
2008 2 決議2008年第9号、労働の成果に応じた賃金とし、国家公務員の生産部門の賃金の上限を撤廃
2008 7 政令第259号、未使用の国有地の使用権を農業・牧畜生産用に個人あるいは法人に認める。
2009 9 キューバ政府、個人運送業者に営業ライセンスを与える。
2010 3 試験的に一部のタクシー運転手の固定給制度を廃止し、賃貸システムを採用。
2010 4 3席以下の理容院、美容院は、従業員に貸出、賃貸システムを採用。
2010 5 試験的に10-20人乗りの中型バスの賃金を廃止、運転手の管理に委託し、賃貸システムを採用。

これらは、海外投資と個人営業の認可を除いて、いずれも生産の分配(賃金・年金の引き上げ、協同組合基礎組織UBPCの創設、タクシー、美容院、小型バス、国有地の未使用地の利用)、交換(自由市場の創設)、消費(外貨店、観光)に限定されているのが特徴である。キューバの既存の生産設備への外国企業の参入は、50パーセント以上の資本参加は例外的で、経営権は、政府側が掌握している。個人営業は、80年代末までも2万人程度いたが、サービス業がほとんどで、自らの生産手段で営業するものであり、政府から与えられたものはない。93年度認可拡大当時は20万人以上従事した自営業者も、政府の消極的な政策で減少し、現在は9万人余となっている。

つまり、キューバの経済改革の特徴は、国側が、所有の枠から頑として踏み出さない改革で、分配、交換、消費に限られているのである。自由市場機能の規模の小さいこととともに、ここが中国や、ベトナムの改革と決定的に違う点である。政府内部では、製造業の協同組合化も検討されている。キューバの経済改革が、真にキューバの経済困難の解決策になるかどうかは、所有の変革にどれだけ踏み出すかにかかっているように思われる。それは、社会主義への過渡期にあるキューバにとって、社会主義建設を放棄することにはならないはずであるが。

新藤通弘 (2010年5月23日)

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