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2010年4月

2010年4月19日 (月)

石橋純編『中南米の音楽―歌・踊り・祝宴を生きる人々』紹介

中南米音楽についての待望の本が出版された。ベネズエラ音楽の専門家として知られる石橋純さんが編集したこの本である。
石橋純編『中南米の音楽―歌・踊り・祝宴を生きる人々』(東京堂出版、2010年)
四六判 358頁
定価:1890円(本体1800円+税)
ISBN978-4-490-20667-8
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本書は、次の章建てとなっており、それぞれ専門の第一級の執筆陣による中南米音楽全般にわたる紹介であり、音楽のみならず、文化、生活の紹介ともなっている。

第1章 概説・中南米の音楽―その歴史と特徴 石橋純
第2章 サルサと北米ラティーノの音楽 岡本郁生
第3章 米墨、ボーダーランドで鳴り響く音楽―ハリウッド産ラテン・エンターテイメントとは異なるチカーノ/メキシコ北部音楽、その歴史とトピックス 宮田信
第4章 キューバの音楽をめぐる継続性と断絶性―祝祭のリズムからレゲトンまで 倉田量介
第5章 ダブ―南国ジャマイカ発の人工的音響 鈴木慎一郎
第6章 ベネズエラ―更新されつづける伝統 石橋純
第7章 ペルー大衆音楽の発展略史 水口良樹
第8章 ボリビア音楽―その歴史と地域性 木下尊惇
第9章 ムジカ・セルタネージャ―ブラジルの田舎(風)音楽 細川周平
第10章 鉛色時代の音楽―独裁政権下(一九七六~八三)のアルゼンチン・ロック 比嘉マルセーロ

「サンバ、タンゴ、サルサだけじゃない!多民族・複数文化が共鳴しあう音楽大陸=中南米の現場の鼓動を伝える、達人たちによる鮮烈な案内書!」と銘打ってあるが、誇張ではない。

「陽気なダンス音楽の歌詞に鋭い批評がこめられる。生活の喜びと悲しみをリズムとともに表現し、音楽を通じて社会変革を夢見る・・・南米の人々が音楽を『生きる』姿を現地における調査・研究・演奏・制作の現場に精通した専門家たちが、多岐に渡るテーマで幅広く紹介」と案内されているとおり、中南米音楽、文化、生活、人びとの息づかいを楽しむことができる本である。

石橋 純
東京大学教養学部教員。スペイン語教育とラテンアメリカ地域文化研究を担当。1985年、東京外国語大学スペイン語学科卒業。家電メーカー駐在員として1996年までのべ8年間ベネズエラに居住。現地で祭りと宴の現場に「100万回」立ち会う。2000年東京大学大学院博士課程修了、ベネズエラのバリオを舞台とする民族誌で学位取得。主著『熱帯の祭りと宴』(柘植書房新社、2002年)、『太鼓歌に耳をかせ』(松籟社、2006年)。

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2010年4月18日 (日)

反体制派ブロガー、ヨアニ・サンチェス

ヨアニ・サンチェスのブログ
2010年4月18日

キューバにヨアニ・サンチェスという反体制ブロガーがいる。彼女のブログは、同時に18カ国語に訳され、世界で読まれている。折りに触れてキューバ政府の政策、キューバの社会事情を鋭く批判し、少なからずの海外の人びとの関心を呼んでいる。彼女によれば、毎月1000万件以上のアクセスがあるという。

そのせいか、キューバでもあまり知られておらず、また世界でも一般にはさほど知られていない彼女だが、2008年には雑誌『タイム』誌により、ブッシュ大統領、胡錦濤主席などとともに、世界で最も影響力のある人物に、またCNNにより世界のベスト25ブログに選ばれている。さらに同年、スペインの保守系有力紙『エル・パイス』によりオルテガ・イ・ガセット、ジャーナリズム賞を受賞し、1万5000ユーロの賞金を得ている。2009年11月にはオバマ大統領にブログで質問を行い、翌日大統領から回答を送られている。

 その彼女に、米玖関係の専門家であるソルボンヌ大学のサリム・ラマラニ教授がインタビューを行っている。テーマは、2009年11月6日のキューバ当局による彼女の「拘束・暴力」事件、2002年のキューバ移住出国から2004年のキューバ帰国にいたる経緯、米国の対キューバ経済「制裁」、数々の国際的受賞とオバマ大統領からの彼女への返書、5人のキューバ人政治囚と反体制派、米国によるキューバ人反体制派への資金援助、キューバにおける社会的成果、ルイス・ポサーダ・カリーレス及びキューバ人地位調整法と移民、という多岐にわたり質問が行われている。

 ラムラニ教授は、実に精緻にヨアニの議論の矛盾をつき、インタビューが進む。ヨアニは、さすがに国際的にもてはやされるだけあり、論理の展開は巧妙であるが、ラムラニ教授は、彼女の説明の矛盾、論理の飛躍を逃がさず、克明に彼女の立論の根拠に迫っていく。息をつかせぬ丁々発止のやりとりの迫力に、A4で31頁の長さが気にならない。

 ヨアニは、その回答で、米玖関係の悪化の原因を、キューバの米国資産の接収に見て、キューバの教育・医療改革の成果は、マイナス面が多く積極面を見いだせず、むしろ革命前とあまり違わないとまで述べ、米国政府による反体制派への資金援助の事実の提示には言葉が詰まり、ポサーダ・カレーラスのキューバ航空爆破テロ行為には、政治には関心がないと言明を避け、キューバ人地位調整法(詳細は本ブログにあり)は望ましいものと弁護し、オバマ政権とラウル政権との関係ではオバマが一定の関係改善措置をとったが、ラウル政権は改善を望んでいないと批判し、米国のキューバ国内への変革の要望は正しいので、それは内政干渉には当たらないと述べ、最後にキューバは資本主義社会に変革しなければならないと結論付ける。

 なんのことはない。彼女は、時機をえたブログを発信するものの、彼女独自の分析、見解、世界論はなく、米国政府の意見を代弁しているだけである。キューバ国内からそれに応えることにその価値があり、そこに国際的評価の基盤があるのである。

スペイン語であるが、関心のある方は、http://www.rebelion.org/noticia.php?id=104205&titular=conversaciones-con-la-bloguera-cubana-yoani-sánchez-
をご参照こう。

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2010年4月10日 (土)

オッペンハイマーのたわごと

アンドレス・オッペンハイマーというラテンアメリカ問題専門の新聞記者がいる。アルゼンチン出身で(1951年生まれ)、1985年からマイアミに居住し、現在は、マイアミの保守系有力紙「マイアミ・ヘラルド」のコラムニストである。かつて1987年イラン・コントラ事件のスクープでマイアミ・ヘラルドの一員としてピューリッツァー賞も受けたことがある。筆が立つことから、彼のコラムは、米国、ラテンアメリカの60紙以上に掲載されているといわれる。日本でも愛読者がいることであろう。

この彼が、1992年キューバで5カ月余取材した後、『カストロの最後のとき』というセンセーショナルな本を出版し、世界の注目を集めた。1991年ソ連が崩壊し、貿易相手の85%を占めるソ連・東欧圏が消滅し、キューバは経済的に大打撃を受け、「平和時の非常時」を宣言、緊縮政策をとり、深刻なモノ不足、石油・電力不足に陥ったときである。

その本の最後で、オッペンハイマーは、大要このように書いている。
「フィデル・カストロは、改革への扉を鎖したので、医療、教育、民族の尊厳という革命の綱領が継続できなくなった。時間とともに革命を救うあらゆる改革は不十分となり、手遅れとなるであろう。カストロの90年代当初の現状への対策の無能力さから、革命は倒壊するであろう。フィデルの革命の神聖な基本原則は、すでに破壊されてしまった。カストロが政治的開放を拒否しているので、キューバ国民の改革への希望は、葬り去られている。カストロが、『社会主義か死か』というスローガンにしがみつけばしがみつくほど、民主主義への平和的移行はより困難となるであろう。カストロは、歴史のなかで、キューバの社会改革を開始した理想主義的なゲリラ戦士として残るのではなく、革命を破壊した人物となるであろう。私のキューバ滞在の最後のころ、街頭である男が私にいった。『彼はもう倒壊している。われわれは今や後処理をしているところだ』と」。

マイアミの亡命キューバ人社会は、帰国用のスーツケースを用意して、カストロ政権の崩壊に備えようとはしゃいだものであった。

それから20年近くが経過した。キューバは、熱烈なキューバ礼賛者がいうような世界の模範となるような医療や、教育水準は、経済事情から維持できないではいるが、少なからずの困難や歪みを抱えながらも基本的な無料医療制度、教育制度を維持している。そしてなによりも、民族の主権・尊厳、独立を堅持し、昨年は、米国さえも米州機構からのキューバ除名措置の過ちを撤回せざるをえなくなり、満場一致でキューバの米州機構への復帰が決議された。10数カ国にのぼるラテンアメリカにおける左派政権のなかで、50年にわたり米国の干渉に屈しなかったことが、高い敬意を受けていることは、キューバを憎悪で見る人以外はだれも否定できないこととなっている。

周知のように、オッペンハイマーの予見は見事にはずれた。主観的な願望を基礎とした分析は、キューバの真実を認識できなかったのである。その彼が、現在のキューバの困難な経済状況から、カストロ政権打倒の好機とみて、再び勢いづいて、現在キューバの自宅でハンスト中の「反体制派・人権派ジャーナリスト」のギジェルモ・ファリーニャス(4月6日付、キューバの人権問題参照)と電話インタビューを行い、次のようなコラムを書いている。
「私がもっとも感動したのは、ファリーニャスの要求が謙虚であることと、かれの予想が現実的であることだ。彼は、独裁者ラウル・カストロの降板や、選挙、200人の政治囚の釈放を要求しているのでない。最低限、健康を害している26名の釈放を要求しているのだ」。

さらにオッペンハイマーは、ファリーニャスの主張を次のように紹介している。
「カストロ兄弟が生きているかぎり、いかなる改革もありえない。政府は、われわれの活動を米国の傭兵によるものだと決めつけ、キューバと外国との紛争にしようとしているが、これはキューバ人内部の問題だ。
改革は、次のカストロ一族の世代となったときに開始されるであろう。これはカストロ一家の専制政治だ。彼らはラウルの息子であるアレハンドロ・カストロ・エスピン大佐とフィデルの息子であるアントニオ・カストロ・ソト・デル・バジェ医師が権力を掌握する準備をしている。
二人ともよく公式行事でラウルの隣におり、ラウルに耳打ちしている。また、閣僚達はもはやラウルとは会わず、アレハンドロやアントニオと会っている。二人は、今や一種の官房長官である。次回の党大会では、二人は最高の地位に着くだろうし、アレハンドロは、父親のラウルの署名だけで将軍になるだろう」。

こうしたインタビューの内容から、オッペンハイマーは、次のように結論付けている。
「ファリーニャスの力、親族の政治犯の釈放を要求して定期的にハバナ市でデモ行進をする『白い貴婦人たち』の力は、崇高な理想に基づくのではなく、その要求の謙虚さに基づいている。彼らは、カストロ体制は軍事独裁制であり、その正統性に確信がないので、死につつある政治犯の数人を自宅に帰すのも許すことができないことを明らかにしているのだ」。

まず、政治囚の釈放であるが、2003年3月米国に扇動された違法な強行出国事件の際に逮捕された75人の政治囚については、キューバのトローバのシンガーソング・ライターで、最も国民的な人気のあるパブロ・ミラネス、シルビオ・ロドリゲスとも、拘置に異論をもっているが、まったく違法な逮捕と批判してはいない。キューバの国内法に従ったものであるからである。この点は複雑な問題となっている。パブロ、シルビオとも自らの考え方から違った意見をもっており、それを公然と表明しているのであって、それでもって政府からの弾圧を受けたことはないとパブロ・ミラネス自身が語っている。

ファリーニャスが、自らの政治的要求を、第三者の同情を引きやすいハンストという方法で要求することと、「政治囚」の釈放を求めることの関連性の正統性はどうであろうか。ファリーニャスは、これまで20回以上も、さまざまな理由でハンストを行ってきた人物である。もし、米国で、アルグレイブ刑務所やグアンタナモ刑務所の無実の政治囚の釈放を求めてハンストを行った場合、「テロリスト」と見られ、逮捕されないであろうか。また米国政府はその要求に譲歩するであろうか。ファリーニャスや「白い貴婦人たち」の要求が、決して謙虚なものではないことがわかるであろう。

さらに付け加えておけば、キューバ政府は、その国民皆医療制度のもとで、「反体制派」のファリーニャスの自宅看護のために専門の医師を常時派遣し、彼の症状を毎日チェックするともに栄養剤注射を続けている。ファリーニャスは隔絶した状態でハンストを行っているのではないのである。

また、ファリーニャスなどの反体制活動家、「白い貴婦人たち」にハバナにある米国利益代表部を通じて、経済的・物質的支援、政治的扇動が行われていることは米玖両政府が認めているところであり、ファリーニャスがいうように、問題は、「彼とラウルの問題」でもなく、「単なるキューバ国内の問題」でもない。4月8日に駐スペイン米国大使、アラン・ソロモンが、「米国は、スペインが対キューバ政策を変えていないことに失望してはいない。米国やスペインのような民主主義国家が、キューバの反体制勢力を支援しないのは、恥である」と述べて、スペイン政府に米国政府の政策に同調するように主張した。しかし、たちまちこの干渉主義的態度に批判が高まっている。米国の干渉主義政策によって、問題が複雑になっているのである。ニワトリか卵かという問題ではない。

後半部のファリーニャスがいう、カストロ一家の専制政治というのは、キューバ人の9割以上が感じていない滑稽なものだし、それを盲目的に信じるオッペンハイマーの主張は、もはやキューバの権力構造を全く把握していない非科学的認識というほかはない。

キューバの権力構造からすれば、指導者としての判断は、憲法などからして、まずはキューバ共産党の政治局員であるかどうか、中央委員であるかどうか、また、国家評議会議員であるかどうか、国会議員であるかどうかである。アレハンドロも、アントニオも、またフィデルの9人の子息いずれも中央委員でも、国会議員でもない。キューバ革命軍・内務省の階級制は厳格で、アレハンドロの上には数十名の将軍がおり、ラウルの署名で将軍になることはありえない構造となっている。ファリーニャスの見通しは、現実的でもないのである。ファリーニャスのいうことは、空腹のためか妄想の域に達しており、それを事実と照合しないで報道するオッペンハイマーの態度は、知的怠惰をいうよりも、政治的主張のためなら、ウソでもなんでもかまわないという極めて危険なものである。

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2010年4月 6日 (火)

キューバの人権問題をめぐって

2月下旬以降、キューバ国内の「人権問題」をめぐって、米国、一部のEU諸国、一部のラテンアメリカ諸国、国際メディア、国際人権団体から、キューバ政府批判が集中して行われている。この問題は、いろいろな要素を含んでおり、複雑な問題となっている。問題を時系列的にたどってみよう。

発端は、昨年12月2日にカマグエイの刑務所内でハンストを開始したオルランド・サパタが、本年2月13日、反政府ブログとスペインのEFE通信により突然「政治犯」として報道され始めたことである。サパタは、同月17日、容態の悪化によりカマグエイの刑務所病院からハバナの刑務所病院に移送されたあと、23日にはキューバで最高の病院、ハバナのアメイヘイラス病院の集中治療室に移され、栄養剤投与などの集中看護を受けたが、同日、死亡した。国際メディアは、一斉に「政治犯」が政治囚の釈放を要求して、ハンストで死亡したと報じた。

すると翌日24日、サンタ・クララの自宅でギジェルモ・ファリーニャスが、2003年に逮捕され服役中の73名の「政治囚」のうち、健康状態が悪化している26名の釈放を要求してハンストを開始した。すぐさまスペインのサパテーロ首相は、キューバの政治犯の釈放を要請し、クリントン国務長官は、200名の政治犯の釈放を要求した。フランス、カナダ政府も、政治犯の釈放を要求し、ピネイラ、チリ大統領は、キューバのあらゆる種類の弾圧の停止を訴えた。これに対し、フィデル・カストロ前議長は、サパタの死亡を遺憾とするも、死亡には米国に責任があると批判した。

3月になると、11日EU議会は、サパタ死亡とキューバの人権事情について非難決議を圧倒的多数で採択した。同日、米国務省は、2009年国別人権事情を発表し、「キューバは、全体主義国家で、反政府活動を許していない。194名の政治囚がおり、5000名以上が危険分子とみなされている。表現の自由、新聞出版の自由、宗教の自由などについて厳しい制限がある」と非難した。

同月15日には、ハバナ市の中心街で、反政府グループ「白い貴婦人」50名近くが、73名の「政治囚」の釈放を求めて行進。この行進は3月22日まで連日続いた。この行進には、米国利益代表部の政治・経済担当書記ローエル・デール・ロートン、ドイツ大使館員、チェコ大使館員も参加した。24日には、オバマ大統領が、異例ともいえる短い声明を発表し、「サパタの死亡、白い貴婦人への弾圧の状況について深く憂慮している」と述べた。

一方、マイアミでは、25日、歌手のグロリア・エステファン、ウイリー・チリーノなどが先頭に立ってデモを行い、そこには国際テロリストとしてベネズエラ政府が引き渡しを要求している、1976年のキューバ航空機爆破事件の首謀者ポサーダ・カリーレスも参加した。キューバ国内では、「白い貴婦人」も、このデモに呼応して、デモを再開した。
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マイアミで「白い貴婦人」を支持するデモに参加したポサーダ・カリーレス。


しかし、このオルランド・サパタという人物はどういう人物であろうか。EU議会の非難決議も、各種メディアも、「反体制派政治囚」として扱っている。しかし、サパタは、家庭内暴力(1993年)、軽傷害罪(2000年)、詐欺罪(2000年)、傷害・銃刀法不法所持罪(2000年)、公共秩序紊乱罪(2002年)など、14の刑事事件を繰り返し引き起こし、懲役3年の罪で服役中であった。EU諸国も非難した2003年4月に逮捕された政治囚73名のリストにはもちろん入っていない。いうならば、単なる社会的無頼漢であった。12月のハンストの要求も、個人用電話、TV、調理器の設置を要求したもので、まったく個人的動機であり、「政治囚」の釈放や、刑務所内の人権改善を要求したものではなかった。

もう一人の、「ジャーナリストで心理学者」といわれるギジェルモ・ファリーニャスは、1995年勤務先の女医病院長傷害罪・脅迫罪で3年の自由権はく奪、罰金600ペソの刑を受けた。その際、それに抗議してハンストを行い、反体制派の一員とみなされるようになった。そして自らの主張を海外のラジオを通じ度々報道した。2002年にはポサーダ・カリーレスが派遣したテロリストの活動を阻止しようとした70歳の老人に暴力をふるい傷害罪で逮捕、5年10カ月の自由権はく奪の刑を受けた。その際、それに抗議して、また看護室へのテレビ設置を要求してハンストを行った。今回も、国際的なマスコミを自宅に呼び、携帯電話を駆使しながら、「反体制人権活動家」としてのパフォーマンスを行っている。かれも、また、とても誠実な人権活動家といえるものでなく、社会的無頼漢ともいう人物である。米国政府も、もっとまともな人物を、利用できないのであろうか。

「白い貴婦人」グループとはどういうものであろうか。彼女たちは、2003年以降、折りにふれて、白装束で身をまとい、「政治囚」の釈放、言論の自由、集会の自由を叫びながら、ハバナ市中心街を行進している。モノ不足社会のキューバで、おそろいの白いユニフォームをそろえるのは、それなりに資金が必要であり、米国国際開発庁(USAID)の資金が供与されていることが指摘されている。なお、米国政府は、ハバナにある米国利益代表部を通じ、キューバの「反体制派」にパソコン、携帯電話、テレビ、現金などを供与していることを認めている。このグループのデモ行進に、米国利益代表部の職員が一緒になって行進しているのは、あまりにもむき出しの内政干渉行為ではないであろうか。
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ハバナのミラマール地区をデモする「白い貴婦人」グループ。


現在、キューバ社会は、外貨不足から輸入物資が4割近く減少し、モノ不足が目立っている。食料も輸入肥料、農薬の不足による農業の不振でハバナ市では農産物の流通は昨年比4割近く減少している。ラウル・カストロ議長も認めているように、少なからずの市民が現状に不満をもっており、現状を批判している。そのことから、米国政府は、「カストロ兄弟政権」打倒の好機とみて、いろいろな揺さぶり政策をとっているようである。しかし、国民の批判は、生産を伸ばし、モノが潤沢に供給されるように望む、より柔軟な経済活動を求める、改革への批判であり、体制打倒の批判ではない。したがって、ハンスト行動、「白い貴婦人」のデモ行進に、多くの市民が同調する様子は見られないのである。

人権については、キューバの人権政策にたいして、従来から、国際社会の中で批判も見られる。もともと近・現代社会において人権の概念には、経済活動の自由、精神活動の自由などの自由権と、生存権、教育を受ける権利、労働の権利などの社会権がある。米国などがキューバを非難しているのは、いわば結社、集会、出版なの自由権に属する概念である。この自由権においては、米国の絶えざる内政干渉に直面しているキューバにおいて、主権擁護の観点からとはいえ、一定の制限があることは否めない。

一方、キューバは、米国の選挙制度における投票率の低さ、金権選挙的性格(政治資金の問題)、人種差別、低い水準の社会保障制度、失業者の無保障状態などの生存権の不徹底を指摘するとともに、キューバにおける充実した社会保障制度、医療制度、教育制度などの社会権を誇示しており、人権問題における双方の議論はかみあっていない。キューバが主張している生存権に属する人権は、確かにキューバ革命における社会主義思想がもたらしたものであり、それは第三世界の中では際立ったものとなっている。しかし、一方で自由権に属する人権では、キューバが、米国のキューバ干渉政策に対抗して総動員体制を敷いているとはいっても、半世紀もこうした人権が制限されているのは好ましいことではない。キューバにおける人権問題が米玖関係の対立構造に巻き込まれてしまっているのは、キューバ国民にとって大変不幸なことである。

4月4日、ラウル議長が、キューバ共産主義同盟(UJC)大会での演説で「ファリーニャスが、ハンストを止めず、不幸なことになってもそれは後ろで操っている米国の責任である」と述べた。これに対し、クロウリイ米国務省報道官は、「各国の刑務所内の問題、市民の問題は、国際法に照らしても各国政府の責任である」と反論した。しかし、国際法を持ち出すのであれば、まずは米国が、キューバの「反体制」グループへの資金援助や扇動、キューバ国内での共同行動を止めるべきではないであろうか。

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