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2010年2月17日 (水)

「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」の開催

「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」の開催が呼びかけられる。
前田恵理子

2010年の年明け早々に、ボリビアのエボ・モラレス大統領は、本年4月20日から22日に同国で、「第1回気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」を開催することを発表した。モラレス大統領は、地球環境への望ましい合意に至らなかった昨年12月の第15回国連気候変動枠組み合意条約締約国会議(COP15)の後にこの国際会議の実現を決意して提案したものである。以下、簡単にこの会議開催のもとにある考え方を紹介したい。

南米初の先住民大統領であるモラレス大統領は、たびたび国連総会などの国際会議でパチャママ(「母なる大地」)に言及し、地球環境への憂慮を表明している。その政治哲学「安寧に生活する」は、アンデス先住民の文化と伝統に基づき、地球環境とわれわれ人類の発展のありかたを考え、自然、宇宙、宗教、共同体、家族などとの「調和」を重視する生き方である。

パチャママ(Pachamama)とは、南米先住民のことばで、「母なる大地」を、ひいては地球を意味する。さらに広く自然、環境、世界、宇宙、そして神という意味までもが含まれる。ボリビア社会では、日常の様々な場面でパチャママに感謝を表わす慣習がある。例えば、乾杯の前には必ず床や地面に少しだけ杯から酒をこぼしてパチャママに捧げられる。モラレス大統領は、人間に人権があるようにパチャママにも諸権利が、すなわち地球には地球の諸権利があり、その権利を認識して擁護することによってのみ、地球環境を回復させることができると述べている。

昨年10月にボリビア外務省が発表した文書『安寧に生活する―世界的危機への回答』は、ボリビアと地球を救い、ボリビアと地球で安寧に生活する社会を建設するには、「母なる大地」を回復することなしには不可能であると指摘している。パチャママこそ、すべての基盤なのである。

「安寧に生活する」(Vivir Bien)とは、母なる大地や他者と「調和」して生きることで、決して物質的に「より良い生活をする」ことを意味しない。健全に生きる、善く生きる、正しく生きる、安寧に生きる、という日本語で表わすことができるかもしれない。

2007年にモラレス政権により制定された新憲法(国家政治綱領)の第8条第1項には、先住民の言葉とともに、「国は、次のことを倫理的・道徳的原則として定め、推進する」と述べられている。その原則とは、「アマ・キジャ(怠けないこと)、アマ・ジュジャ(ウソをつかないこと)、アマ・スワ(盗まないこと)、スマ・カマニャ(安寧に生活すること)、ニャンデレコ(調和のとれた生活)、テコ・カビ(善き生活)、イビ・マラエイ(悪のない土地)、カパフニャン(気高い道や生活)」である。

そして第2項で、国は、「安寧に生活する」ために、団結、平等性、包摂、尊厳、自由、連帯、互恵、尊敬、補完性、調和、透明性、均衡、機会の均等、参加における社会的及び両性間の平等、公共の福祉、責任、社会正義、生産物と財産の社会的分配と再分配といった諸価値を基礎とする」と明記されている。つまり、「安寧に生きる」とは、持続可能な地球の発展を願い、人びとの平等、社会の公正、精神的豊かさを求め、連帯して生きることを求める考え方であり、新自由主義政策や、資本主義の中に見られる非人道性への鋭い批判を含んでいる。

また、2008年に制定されたエクアドルの新憲法でも、「経済制度は、社会的,連帯的であり、人間こそ主人公で目的である。国と市場は、自然と調和して、安寧に生活することを可能とするように物質的・非物質的条件の生産と再生産を保障することを目的としている」として、安寧に生活することが経済発展の目的にすえられている。

ボリビアの外務大臣であり、アンデスの世界観に精通したダビッド・チョケワンカは、「われわれは『安寧な生活』に立ち帰りたい。今、われわれは自分たちの歴史、音楽、衣服、文化、言語、天然資源を評価し、そのあとで、われわれがかつてそうであったあり方に立ち帰ることを決意した」と述べている。また彼によると、「安寧に生活する」ことは、始まったばかりで、少しずつ普及されていく過程にある。ボリビア政府が実行しようとする「安寧に生活する」は、地域の文化と祖先の行動原理を再評価し、自然との調和の中に生きることと要約されるであろう。

ボリビアの先住民、アイマラのコミュニティーは古来より「安寧に生活する」ことを切望していた。ケチュアの人々も同様に「安寧に生活する」人間を願い、豊かさとは経済的なことではないと考えていた。グアラニーも自然との調和に努力する人間であることを願っていた。ボリビアには他にも複数の先住民族が住んでいることから、2009年3月にその国名がボリビア共和国からボリビア多民族国と変更されたのであった。

昨年2009年4月の国連総会では、60カ国以上の賛同で、モラレス大統領が提案した4月22日を「国際母なる大地の日」として記念することが承認された。この決議は、国連決議なくしてこれまで祝われていた「アースデー」とは違って、地球環境を維持すること、人類の発展のあり方をも考える日にしようというものである。デスコト議長は、各国や国連、国際機関に毎年この日に、地球保護の大目標を忘れずに尊守するよう強調し、「地球と生態系がわれわれの命を育み、自然との調和を促進することに責任がある」と述べている。

前述したように、本年4月20日から22日「国際母なる大地の日」に、ボリビア第3の都市コチャバンバ市で、「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」が、政府関係者の他に先住民、環境、社会運動のグループやNGO、科学者や法律家などを招いて開催される。会議の目的は、次の6つにあると要約されている。
① 気候変動の構造的・体系的な原因の分析と根本的な対策の提案
② 「世界母なる大地権利宣言」
③ 京都議定書、及び気候変動に関する国際連合枠組条約のための新たな義務の合意
④ 「気候変動に関する世界の諸国民の国民投票」の組織化
⑤ 「気候裁判所」設立推進の行動計画の分析・立案
⑥ 気候変動から生命を守り、母なる大地の権利を擁護するための戦略

チョケワンカ外務大臣はこの会議が、全人類の幸福が自然と調和して実現されるための基礎になると確信していると強調している。

会議のプログラム、参加登録や関連情報など詳細が、会議のウェブサイトhttp://cmpcc.org/に記されている。ここには会議への招請状が日本語でも表記されていることから、日本からの参加者が期待されているものと思われる。


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