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2010年2月

2010年2月21日 (日)

米玖移民協議をめぐって

2月19日、ハバナで、米玖間の移民問題協議が行われた。これは、昨年7月に合意され、9月17日にラテンアメリカ担当国務次官補ビサ・ウイリアムズが訪玖して、両国が郵便サービスについて交渉したことを引き継いで、再開されたものである。

外交交渉の常として、それぞれが何を提起し、何が合意されたかは、それぞれの発表や共同声明で知るしかないが、何を発表するかには、それぞれの外交方針と国益がからんでおり、交渉の実態を全面的に知ることは簡単ではない。今回の米玖間の移民問題協議も、その点では実に興味深いものである。

米国側は、クレイグ・ケリー西半球問題担当国務副次官補が団長となり、キューバを訪問した。オバマ政権下では最初の国務省高官の訪玖であった。キューバ側は、ダゴベルト・ロドリゲス外務副大臣が団長となって会談に臨んだ。19日、両政府とも、「相互尊重の雰囲気」で話し合われたと発表した。また、国務省の高官筋の話では、「協議は、明らかに多くの争点があるものの、生産的で大変実践的であり、いろいろな問題を解決するための実際的な方法が話し合われた」。つまり、双方が評価した内容であった

いろいろなニュースを総合すると、双方の主張は次の通りであった。

キューバ側の主張は、19日の外務省声明では、①ワシントンのキューバ利益代表部の人員の増大の承諾、②現存移民協定の厳格な実行と継続の確認、③キューバ人地位調整法の廃棄、であった。さらにキューバ政府は、20日の外務省声明で、①麻薬取締対策での協力(協定締結の意思を示し、1月10日に協定案をキューバが提案)、テロ対策、人身売買、環境保護、自然災対策、②さらに本質的な問題として、経済封鎖の解除、テロ支援国家リストからのキューバの削除、キューバ人地位調整法の廃止、経済封鎖による経済的人的損害の賠償、グアンタナモ基地の返還、キューバ向けラジオ・テレビ宣伝放送の中止、国内反体制派への財政支援の停止、5人の拘留キューバ人の釈放の要請が、話しあわれたと発表した。

米国側の主張は、19日の国務省のニュース・リリースでは、①利益代表部事務所の機器類の迅速な輸入許可、②送還移住希望者の取り扱い状態についての事後調査、③米国への移住犯罪人のキューバ送還の承諾の要請、④12月にキューバで逮捕、拘留されているアラン・グロスの即時釈放の要求であった。さらにその後、国務省筋の話として、①米国の国境警備艇の非常時のキューバ寄港許可を要請(そのために代表団の一員がキューバに残留することになった)、②ハイチの支援活動での協力が話し合われた。

ところが、米国代表団は、午後遅く、米国の利益代表部主席公邸で、エリサルド・サンチェス、マルタ・ベアトリス、オスワルド・パヤ、フアン・アルメイダなど反体制派40名と会見した。キューバ側は、「ケリー代表団長に事前に会見をしないように警告していたにも関わらず、キューバ政府との会談の午後に反体制派と会談したことは、米国が対キューバ撹乱活動を継続していることを示すとともに、キューバ政府と真に関係改善の意思があるのか疑わせるものである」と非難した。アラルコン国会議長は、「これで協議が、中断するとは思われないが、オバマ政権は、ブッシュ政権の政策をあまり変えていない」と批判している。

米国側は、「米国政府は、キューバにおいてだけでなく、どの国においても、政府のみならず、すべての勢力とも話し合う政策だ」と反論した。しかし、さすがに同じ代表団が、同日に反体制派と会い、反体制活動を激励するというのは、内政干渉になるだけに、信義にもとることである。さすがに、AP通信も「米国政府代表が訪問するときに、こうした会見をもつことは異常である」と疑問を投げかけている。

一方、キューバ側の発表において注目されるのは、キューバが現在国の内外で強く推進している、米国で長期に拘置されている5名のキューバ人の釈放要請をこの交渉の中で行ったことを、第一回目での声明で触れなかったことである。米国側は、グロスがスパイではなかったとして即時釈放を要求したと第1回目のプレスリリースで明らかにしている。この5名は、現在米国で11年間に及ぶ不当な長期拘置を受けているが、微罪は犯しており完全な冤罪ではなく、それに米国側の恣意的な審議が加わり、複雑な問題となっている。キューバ政府は、一昨年から5人の釈放とキューバ国内の政治犯の釈放を米国政府に提案しており、二国間の政府交渉の問題となっている。今回の第1回目の政府声明で触れられなかったのは、そうした交渉も関連しているからかもしれないと推測させるものである。こうした問題では、透明性ある提案こそ、世界の世論の支持をえられるのではないであろうか。

いずれにせよ、キューバ外務省がいうまでもなく、対等、平等、主権の尊重、相互尊重、内部問題不干渉の立場に立ってこそ、関係改善の交渉は進展するのである。
(2010年2月21日)

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2010年2月17日 (水)

「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」の開催

「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」の開催が呼びかけられる。
前田恵理子

2010年の年明け早々に、ボリビアのエボ・モラレス大統領は、本年4月20日から22日に同国で、「第1回気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」を開催することを発表した。モラレス大統領は、地球環境への望ましい合意に至らなかった昨年12月の第15回国連気候変動枠組み合意条約締約国会議(COP15)の後にこの国際会議の実現を決意して提案したものである。以下、簡単にこの会議開催のもとにある考え方を紹介したい。

南米初の先住民大統領であるモラレス大統領は、たびたび国連総会などの国際会議でパチャママ(「母なる大地」)に言及し、地球環境への憂慮を表明している。その政治哲学「安寧に生活する」は、アンデス先住民の文化と伝統に基づき、地球環境とわれわれ人類の発展のありかたを考え、自然、宇宙、宗教、共同体、家族などとの「調和」を重視する生き方である。

パチャママ(Pachamama)とは、南米先住民のことばで、「母なる大地」を、ひいては地球を意味する。さらに広く自然、環境、世界、宇宙、そして神という意味までもが含まれる。ボリビア社会では、日常の様々な場面でパチャママに感謝を表わす慣習がある。例えば、乾杯の前には必ず床や地面に少しだけ杯から酒をこぼしてパチャママに捧げられる。モラレス大統領は、人間に人権があるようにパチャママにも諸権利が、すなわち地球には地球の諸権利があり、その権利を認識して擁護することによってのみ、地球環境を回復させることができると述べている。

昨年10月にボリビア外務省が発表した文書『安寧に生活する―世界的危機への回答』は、ボリビアと地球を救い、ボリビアと地球で安寧に生活する社会を建設するには、「母なる大地」を回復することなしには不可能であると指摘している。パチャママこそ、すべての基盤なのである。

「安寧に生活する」(Vivir Bien)とは、母なる大地や他者と「調和」して生きることで、決して物質的に「より良い生活をする」ことを意味しない。健全に生きる、善く生きる、正しく生きる、安寧に生きる、という日本語で表わすことができるかもしれない。

2007年にモラレス政権により制定された新憲法(国家政治綱領)の第8条第1項には、先住民の言葉とともに、「国は、次のことを倫理的・道徳的原則として定め、推進する」と述べられている。その原則とは、「アマ・キジャ(怠けないこと)、アマ・ジュジャ(ウソをつかないこと)、アマ・スワ(盗まないこと)、スマ・カマニャ(安寧に生活すること)、ニャンデレコ(調和のとれた生活)、テコ・カビ(善き生活)、イビ・マラエイ(悪のない土地)、カパフニャン(気高い道や生活)」である。

そして第2項で、国は、「安寧に生活する」ために、団結、平等性、包摂、尊厳、自由、連帯、互恵、尊敬、補完性、調和、透明性、均衡、機会の均等、参加における社会的及び両性間の平等、公共の福祉、責任、社会正義、生産物と財産の社会的分配と再分配といった諸価値を基礎とする」と明記されている。つまり、「安寧に生きる」とは、持続可能な地球の発展を願い、人びとの平等、社会の公正、精神的豊かさを求め、連帯して生きることを求める考え方であり、新自由主義政策や、資本主義の中に見られる非人道性への鋭い批判を含んでいる。

また、2008年に制定されたエクアドルの新憲法でも、「経済制度は、社会的,連帯的であり、人間こそ主人公で目的である。国と市場は、自然と調和して、安寧に生活することを可能とするように物質的・非物質的条件の生産と再生産を保障することを目的としている」として、安寧に生活することが経済発展の目的にすえられている。

ボリビアの外務大臣であり、アンデスの世界観に精通したダビッド・チョケワンカは、「われわれは『安寧な生活』に立ち帰りたい。今、われわれは自分たちの歴史、音楽、衣服、文化、言語、天然資源を評価し、そのあとで、われわれがかつてそうであったあり方に立ち帰ることを決意した」と述べている。また彼によると、「安寧に生活する」ことは、始まったばかりで、少しずつ普及されていく過程にある。ボリビア政府が実行しようとする「安寧に生活する」は、地域の文化と祖先の行動原理を再評価し、自然との調和の中に生きることと要約されるであろう。

ボリビアの先住民、アイマラのコミュニティーは古来より「安寧に生活する」ことを切望していた。ケチュアの人々も同様に「安寧に生活する」人間を願い、豊かさとは経済的なことではないと考えていた。グアラニーも自然との調和に努力する人間であることを願っていた。ボリビアには他にも複数の先住民族が住んでいることから、2009年3月にその国名がボリビア共和国からボリビア多民族国と変更されたのであった。

昨年2009年4月の国連総会では、60カ国以上の賛同で、モラレス大統領が提案した4月22日を「国際母なる大地の日」として記念することが承認された。この決議は、国連決議なくしてこれまで祝われていた「アースデー」とは違って、地球環境を維持すること、人類の発展のあり方をも考える日にしようというものである。デスコト議長は、各国や国連、国際機関に毎年この日に、地球保護の大目標を忘れずに尊守するよう強調し、「地球と生態系がわれわれの命を育み、自然との調和を促進することに責任がある」と述べている。

前述したように、本年4月20日から22日「国際母なる大地の日」に、ボリビア第3の都市コチャバンバ市で、「気候変動と母なる大地の権利に関する世界諸国民会議」が、政府関係者の他に先住民、環境、社会運動のグループやNGO、科学者や法律家などを招いて開催される。会議の目的は、次の6つにあると要約されている。
① 気候変動の構造的・体系的な原因の分析と根本的な対策の提案
② 「世界母なる大地権利宣言」
③ 京都議定書、及び気候変動に関する国際連合枠組条約のための新たな義務の合意
④ 「気候変動に関する世界の諸国民の国民投票」の組織化
⑤ 「気候裁判所」設立推進の行動計画の分析・立案
⑥ 気候変動から生命を守り、母なる大地の権利を擁護するための戦略

チョケワンカ外務大臣はこの会議が、全人類の幸福が自然と調和して実現されるための基礎になると確信していると強調している。

会議のプログラム、参加登録や関連情報など詳細が、会議のウェブサイトhttp://cmpcc.org/に記されている。ここには会議への招請状が日本語でも表記されていることから、日本からの参加者が期待されているものと思われる。


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2010年2月15日 (月)

インスルサ米州機構事務総長の再選をめぐって

昨年来みられる米国のラテンアメリカ政策が、再び傲慢かつ巧妙になっていることから(クリントン国務長官のいう、スマート・パワー外交)、オバマ政権は、ホンジュラス、コスタリカ、パナマ、コロンビア、ペルーを抱き込んだものの、その政策は、ことあるごとにラテンアメリカ諸国から強い批判を受けるようになっている。

15日の『しんぶん赤旗』にメキシコ特派員の菅原啓さんの時宜を得たニュースが掲載れた。ワシントン・ポスト紙が、4月14日に「OAS(米州機構)がこの数年、二つの最重要の目的のうちのひとつである「代議制民主主義の強化と促進」において失敗を続けているのは、インスルサ事務総長にその責任があると非難し、同事務総長は、OASの民主主義憲章をしばしば無視する中南米の左派指導者に「迎合」していると批判。また、カストロ独裁体制から解放されていないキューバの同機構からの除名決議の解除を推進したとして同氏を糾弾した。しかし、ブラジルをはじめ、ラテンアメリカの国々はこれに反論している」ことを紹介している(別添記事参照)。

 ワシントン・ポスト紙は、さらに「インスルサ事務総長は、地域の国々への内政干渉を拒否し、OASは加盟国の内部問題に関与できないといいつつも、ホンジュラスでは、左派のセラヤ大統領が不法にも憲法を改正のための国民投票を推進しようとしたとき、セラヤを支持した。OAS事務局の経費の60%を提供している米国は、同事務総長の再選を認めるべきでない。しかるにオバマ政権はマヒしており、態度を決定していない」という乱暴な見解を展開している。

 しかし、ワシントン・ポストは、昨年の7月26日付の自紙の記事を忘れているようである。そこには、「クリントン国務長官は、インスルサのクーデター批判、セラヤ支持の態度に業を煮やして、インスルサを通り越して、アリアス・コスタリカ大統領にホンジュラスの双方の側を仲介するよう依頼した。インスルサの出身国のチリ政府筋は、クリントンが来年の事務総長選挙にはインスルサの再選を支持しないと通告してきたと述べている」と報道している。しかし、選挙により選出された大統領をクーデターで放逐するという民主主義を蹂躙したクーデター派とその被害者を同列において、双方が和解することは、結局クーデターを許すことになり、ありえないことであり、結局はこの仲介は失敗した。

 インスルサ事務総長が、6月28日のクーデター勃発後に大多数のラテンアメリカ諸国と米州機構決議・国連決議の見解を受けて、不当なクーデターを批判し、セラヤ大統領の即時復帰を主張し、クーデター派のミチェレッティと懸命に交渉していた時、7月6日、突然、ノーベル平和賞受賞の平和主義者、アリアス大統領が双方の仲介を名乗り出た(かに見えた)背景には、米国のチリ社会党出身のインスルサへの不信と、翌年のOAS事務総長再選問題がからんでいたのである。

 このことに関して思い出されるのは、当時(7月12日付)、チリの有力紙メルクリオ紙、メキシコのホルナーダ紙でも報道されていたことである。同紙は、「民主党の関係筋の話として、クリントンは、キューバの無条件のOAS復帰にさいしてのインスルサの態度と、ホンジュラスの軍事クーデターの危機後のインスルサの態度から、来年度の同事務総長再選を支持しないこと、ホンジュラスの解決の唯一の交渉人としてアリアス大統領を指名したと、バチェレ大統領に通告した」と報道していた。オバマ政権の方針は、すでに規定の方針であり、ワシントン・ポスト紙が案じることではないのである。

「10.02.15 OAS議長選挙をめぐって 『しんぶん赤旗』.docx」をダウンロード

(2010年2月15日記)

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2010年2月 4日 (木)

オマール・エベルレニ・ペレス「キューバ経済:現状分析と変革への提言」

これまでに、何度か紹介したオマール・エベルレニ・ペレス、ハバナ大学教授の最新の英文論文、『キューバ経済:現状の分析と新たな政策の変更のための提言』を紹介します。これは、教授が日本に滞在中にアジア・経済研究所の求めに応じて執筆したものです。

http://www.ide.go.jp/English/Publish/Download/Dp/217.html
The Cuban Economy: A Current Evaluation and Proposals for Necessary Policy Changes
by Omar Everleny Pérez Villanueva

教授は、90年代以降のキューバ経済の困難が、単に外部っ要因から来るものではなく、国内の政策そのものにもその要因があるとして、問題点を建設的に指摘します。

以下、概要と本文を掲載します。「09.12 Omar Perez, the Cuban Economy.pdf」をダウンロード

ABSTRACT
Politicians, social scientists and general readers have noted in both Cuban and international academic forums and periodicals that the well-being enjoyed by the Cuban people in the 1980s has been seriously compromised since the economic crisis of the 1990s. Even for the most skeptical of observers it is clear that this worsening of conditions can be attributed not only to external factors, such as the breakup of the international socialist system, the tightening of the US blockade, and the worldwide economic crisis suffered by underdeveloped countries, but also to internal factors that have kept the country from taking full advantage of the human and material potential available on the island.

Although Cuba is currently experiencing an economic recovery from the collapse in GDP in the mid 1990s following the collapse of its ties with the Socialist Bloc, it continues to maintain high import coefficients due to longstanding structuraldifficulties. The country is highly dependent on food imports as a result of a deficient agrarian policy. It imports energy to a lesser but still significant extent, and it still requires many intermediate inputs for the productive process. Cuban industry and agriculture continue to suffer from low levels of efficiency and productivity.

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