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2009年12月31日 (木)

『ニューズ・ウィーク』誌による2010年の世界の10大事件の予測

『ニューズ・ウィーク』誌による2010年の世界の10大事件の予測
『ニューズ・ウィーク』誌の予測
師走も押し詰まった12月23日、日本でも発行されている著名な雑誌『ニューズ・ウィーク』英語版に2010年の世界の10大事件の予測が掲載された。経済の予測、政治の予測は、大枠の予測でも難しいものであり、慎重に行わなければならない。年初にエコノミストたちがその年度の経済の予測を行うが、当たり外れの多いことはよく知られているとおりである。いわんや、政治のかなり具体的な展開までは、天才的な学者やジャーナリストでも無理であろう。真摯な人なら、それを避けるであろう。

しかし、『ニューズ・ウィーク』は、大胆にというか、乱暴にというか、狡猾にというか、10大事件の予測を行っている。その中には、②中国経済が破綻するとか、⑨ヨーロッパが新たな金融危機に見舞われるとか、という予測とともに、ラテンアメリカに関しては、④チャベスが、新たなクーデターで放逐される、⑦ブラジルが新たな「中国」となる、⑩フィデル・カストロが死亡し、米国との関係が改善されるというものがある。

来年一気に、ブラジルが新たな「中国」となるとは、だれも信じないが、ブラジル経済のファンダメンタルズの良さから、かなりの経済成長が予測される。このことが、ラテンアメリカ経済全体に少なからず貢献することは十分予考えられ、ラテンアメリカの経済統合の進展のためには好ましいことである。しかし、問題は、キューバとベネズエラに関する記事である。記事は、センセーショナルなタイトルから読者をひきつけ、雑誌の販売の増加に寄与するかもしれないが、内容は具体的な政治的予測となっており、当たるも八卦、当たらぬも八卦といって無責任に済ますわけにはいかないものがある。

まずは、ニューズ・ウィークの趣旨を紹介しよう。

同誌の予測⑩キューバの事例
キューバについては、「フィデル・カストロ前議長は、病症が悪化して死亡する。フィデルの死亡により、キューバに急激な変化はないが、フィデルの硬直した政策(新聞の自由の欠如、国外への移住の制限、個人崇拝、同性愛者への迫害)は、失われる。ラウルは、米国との関係改善による経済的可能性を認識しており、反米的言辞を弱める。オバマ政権は、国務省、国防省、商務省の次官補からなる代表団を派遣し、年度末までにはクリントン国務長官が、2013年までにキューバとの国交を回復すると発表する」というものである。

まず、フィデルの健康については、1927年生まれ*のフィデルも83歳となり、高齢ではある。しかし、彼は、本年9月以降でも毎月、5~8本の論文を執筆し、チャベスや呉邦国、中国共産党中央政治局常務委員などと長時間会見していることからも、体調の急激な悪化は現時点では予測されえない。
*http://estudio-cuba.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-ebcc.html

孤立しているのはだれか
重要なことは、ここには、米国の対キューバ政策は絶対に正しく、キューバ側の変化によってのみ、両国の関係改善が行われるという論理の陥穽があることである。しかし、国際的には、米国の経済封鎖には国連の192カ国のうち187カ国が反対し、賛成なのはイスラエルとパラオの3カ国のみである。また、米国内でも70%の国民が経済封鎖に反対している。むしろ孤立しているのは米国政府なのである。キューバ側は、ラウルも含めて、常に対等、平等、相互尊重、内部問題不干渉を基礎とした包括的交渉を呼びかけており、これはフィデル個人が指示している政策ではない。ラテンアメリカでも最も強い国民意識をもつキューバの原則なのである。米国との経済関係では、すでに農産物の輸入では毎年5億ドル程度が米国から輸入されており、経済的利益から交渉の原則をキューバ側が放棄するというのは浅薄な見方である。

キューバ国内で様々な改革が必要であることは、現指導部によっても十分認識されている。問題は、改革の速度と範囲であるが、改革により混乱が生じた場合、それに便乗した米国の介入が予測されることから、失敗しないためには、あせることなく着実に、よく議論をしてから進める必要があるとラウルは述べている。米国政府が、キューバに改革を望むなら、何よりも拱手傍観(手も口も出さずにただ見ておくこと)する方が適切であるという論理をオバマ政権もジャーナリズムも理解しなければならない。

両国の関係改善は、オバマ政権が、ラテンアメリカに対して目下の「パートナー」としての見方が通用しないことを理解したとき、伝統的な「裏庭」意識を拭いさり(それは簡単なことでなく、本当の意味でのチェンジであるが)、キューバに対し無条件の対等、平等の話し合いが当然と悟ったときのみ、可能となろう。

同誌の予測④ベネズエラの事例
ベネズエラに関しては、「これまで、原油価格の高騰でチャベスは、政策を維持できた。しかし、不況から、政策の維持は不可能となり、『ラテンアメリカの21世紀の社会主義』も失墜しつつある。過大な財政支出と価格凍結が、30%以上にのぼる高いインフレを招き、2010年もその傾向は続く。公共投資はできなくなり、政府財政赤字が増大し、コロンビアとの冷戦が始まり、経済はマヒし、工場は閉鎖され、スーパーは空になる。牛乳、牛肉、床上用扇風機は贅沢品となる。GDPは二年連続して急落し、2010年は2%成長となる。国民の支持が激減し、貧困層、中間層の支持を失う。軍部が立ち上がりチャベスを放逐し、秩序を回復する」というものである。

ここには、インフレの真の原因、その対策、チャベス政権の社会政策が、詳細に吟味されることなく、単にポピュリズム的な過大な財政支出⇒政府財政の赤字急増⇒インフレの増大⇒国民の不満増大⇒秩序回復のための軍事クーデターという、かつてラテンアメリカに典型的に見られた図式を提示し、その中にベネズエラの事象を当てはめるという、よくある非科学的な、時代錯誤的な、あるいは自らの期待を込めた主観主義的な考え方である。

インフレが年率30%に上るのは、確かに生活に厳しく影響する。もとより、このインフレは、消費物資の輸入依存度が極めて高いベネズエラが抱えている歴史的な構造的問題である。世界の経済危機の中で、食料価格の高騰、石油関連資材の高騰も、財政支出の拡大とともにインフレに大きく作用していることも忘れてはならない。しかし、政府の援助により市価の5-6割で生活必需品が買えるメルカル・スーパー、2割程度の価格で買えるペデバル・スーパー、20%に上る最低賃金・年金の増額などにより、貧困層へのインフレの影響の軽減が図られている。

こうしたチャベス政権の社会政策は、貧困率の劇的な低下となって現れており、かつて60%あった貧困率が30%余に激減している。国民の不満は、むしろ失業、社会暴力、汚職にある。90年代末に15-16%あった失業率は昨年6%台まで下がったが、本年は再び上昇し7%台となっている。社会暴力と汚職は、政府がキャンペーンを行っているが著しい改善は見られない。今後の課題となっている。

したがって国民のチャベス政権に対する支持率は、比較的信頼度の高いイバッド社の世論調査によると本年度8月、12月の調査ともに60%近い支持を示している。

2010年度は、国会議員選挙が予定されている。反チャベス勢力は、前回の選挙では敗北が濃厚と見て、投票2日前に支持率40%を投げ捨てて選挙をボイコットするという誤りを犯した。反対派は、チャベス政権に対する不満があれば、この国会議員選挙でそれを示せばいいのである。それが、反政府派が強調する民主主義というものである。

クーデターを起こすのはだれか
軍部によるクーデター勃発の危険性は、確かにある。しかしそれは、国民の不満を代表してというよりも、現在ラテンアメリカで失地回復を懸命に図っている米国の指図のもとに起こる可能性があるのである。それは、本年6月のホンジュラスによるクーデターで示された。米国のシナリオのもとで、民主的に選ばれた大統領を軍部クーデターで放逐し、ありようもないクーデター派と合法政権の統一和解政府樹立を掲げつつ、その後大統領選挙を「民主的に」行い、みそぎをすませて、親米文民政権を発足させる方法である。そのマニュアルがベネズエラやボリビアで実行されようとしていると、チャベスやモラーレスが繰り返し述べている。ニューズ・ウィーク誌の予測は、こうした可能性について、メディアによる地ならしかもしれない。

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