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2009年1月31日 (土)

米国に収監中の5名のキューバ人政治囚の問題について

米国に収監中の5名のキューバ人政治囚の問題について

1998年「スパイ容疑」で逮捕され、現在米国の各地に収監中のキューバ人5名の裁判が、近く米国の最高裁判所で審理される予定です。この問題を考える資料として、下記に問題の概要を紹介します。

まず、本件は、いわゆる冤罪事件(完全無罪のでっち上げ事件)ではありません。告訴内容にはIDカードの偽造、外国情報機関のエージェントあることの事前の報告義務(これは、奇妙な内容としても法は法で存在しています)の違反など、確かに5名は米国内法に違反する行為を犯しています。そのことを、逮捕時に5人とも検事に対してこの罪を認めています。

しかし、これらはいわば微罪であり、1998年からの10年間の長期拘留を正当化するものではありません。10年間の拘留の理由とされている米国の国家安全保障に関する情報の漏洩については、被告側はそういう要件を構成しないと反論しています。事実を審査すると大きな疑問があります。この点は不当な裁判結果といってよいでしょう。また、マイアミで裁判を行うなど、裁判のあり方も公正でないことが指摘されています。

昨年12月17日、ラウル議長は、オバマ次期政権との関係改善のための行動として、キューバ国内の200余名の政治囚とマイアミで長期収監中の5名のキューバ人との交換を申し出ました。米国政府は、即座にこれを拒否しました。しかし、この提案には法的側面からすれば複雑な問題が含まれており、釈放の可能性は見られません。この問題は、双方が政治的な要素を絡めないで、純法律的に処理し、即座に釈放することが求めらます。

▽突然5名がスパイ容疑で逮捕される

ヘラルド・エルナンデス・ノルデロ、ラモン・ラバニーニョ・サラサール、フェルナンド・ゴンサーレス・ジョル、レネ・ゴンサーレス・シワラート、アントニオ・ゲレーロ・ロドリゲスの5名は、1998年9月12日、突然マイアミでFBIによって逮捕され、拘留されました。実は、同年7月キューバ内務省は、ハバナで開催された米連邦調査局との会議で、マイアミでキューバの破壊活動の準備が行われていることについて詳細な資料と提供しており、それが逆に使用されたのでした。

 98年9月15日、5名の当初の起訴容疑は、破壊謀議、スパイ謀議、外国諜報機関のエージェント隠蔽、IDカード偽造というものでした。5名とも検察に対して、外国諜報機関のエージェントであることは認めましたが(Rodolfo Dávalos Fernández, Estados Unidos VS. Cinco Héroes, Editorial Capitán San Luis, La Habana, 2005, p.6)、米国に対する国家機密の諜報活動は否定しました。しかし、翌年99年5月、検事側は突然ヘラルドを「殺人謀議」で告発しました。

実は、3年以上も前の96年2月24日、マイアミの亡命キューバ人過激派組織「エルマーノス・アル・レスカーテ(救援のための兄弟)」の民間機4機が、事前のキューバ側の度重なる警告にもかかわらず、キューバ領空を侵犯し、そのうち2機がキューバ空軍機により撃墜され、4名が死亡するという事件がありました。ヘラルドの容疑は、彼が「救援のための兄弟」の飛行計画をキューバ諜報機関に通報したというものでした。

▽不当な裁判指揮

その後、5名は、2000年2月3日まで17ヶ月間、独房(懲罰房)に収監されるという異常な処置を受けました。一般には、懲罰房は、服役態度が刑務所の規則に著しく違反した場合、それも最長60日とされています。5名は照明がほとんどない懲罰房に収監の間、弁護士や家族との面会や通信が制限されたり、不当な扱いを受けています。

2001年6月8日、フロリダの連邦裁判所法廷で12人の陪審員は、5名を有罪と認めました。しかし、陪審員の多くはマイアミいる全米キューバ系アメリカ人財団(CANF)、アルファ66、コマンドF-4などの亡命キューバ人過激派組織の近くに居住しており、かれらの圧力を受けています。また陪審員の選定の過程で、アメリカの対キューバ経済封鎖について賛成かどうかという、事件とは直接関係のない問題が選定の基準とされるという不当な運営が行われました。2001年12月11日-18日、レナード判事は、5名に次のような判決を下しました。

▽5名の容疑と判決

ヘラルド・エルナンデス・ノルデロ:1965年ハバナ生まれ、キューバ外務省国際関係大学卒業。容疑:殺人謀議、スパイ謀議、外国諜報機関のエージェント隠蔽、IDカード偽造。判決:2期分無期懲役+懲役15年。
ラモン・ラバニーニョ・サラサール:1963年ハバナ生まれ、ハバナ大学経済学部卒。容疑:破壊謀議、外国諜報機関のエージェント隠蔽、スパイ謀議、IDカード偽造。判決:無期懲役+懲役18年。
フェルナンド・ゴンサーレス・ジョル:1963年ハバナ生まれ、キューバ外務省国際関係大学卒業。容疑:破壊謀議、外国諜報機関のエージェント隠蔽、IDカード偽造。判決:懲役19年。
レネ・ゴンサーレス・シワラート(アメリカ国籍を所有):1956年シカゴ生まれ、パイロット、飛行機操縦インストラクター。容疑:破壊謀議、外国諜報機関のエージェント隠蔽。判決:懲役15年。
アントニオ・ゲレーロ・ロドリゲス(アメリカ国籍を所有):1958年マイアミ生まれ、ソ連のキエフ工科大学飛行場建設工学科卒業。容疑:破壊謀議、スパイ謀議、外国諜報機関のエージェント隠蔽。判決:無期懲役+懲役10年。

▽5名は容疑を否定し、控訴

5名は、ジョーン・レナール、マイアミ連邦裁判所判事に、マイアミでは、検事、陪審員、弁護側証人が亡命キューバ人過激派諸組織からいろいろな圧力を受けるので、裁判を行う場所としては不適切だとして、マイアミ以外での裁判を要求していますが、レナール判事は、これを拒否しています。また、同判事は、弁護士に検事側提出の証拠類の閲覧を許可しなかったり、あるいは書類の部分的閲覧しか認めないという不公正な裁判指揮を行っています。他方で、検事側により、裁判書類の一部が、過激派キューバ系アメリカ人グループに漏洩され政治宣伝の材料にされるという異常なことも起きています。

5名は、殺人謀議、破壊謀議、スパイ謀議、アメリカの軍事基地への侵入を全面的に否定し、90年代初めにキューバからアメリカに派遣されたのは、アメリカの過激派による対キューバテロ活動についての情報を事前に入手し、キューバ側がそれを防ぐ体制をとることによって、テロ活動を避け、両国の関係の悪化を防ぐ目的であったと反論しています。また、5名は、もはやキューバは、アメリカの安全保障にとって脅威とはなっていないという、元米南方軍司令官チャールズ・ウイルヘルム将軍やクリントン政権のキューバ担当補佐官リチャード・ヌシオ氏などの証言からも、アメリカの安全保障を脅かす情報を手に入れる必要がないと弁論するととともに、誰をも殺傷していないことは明白であると主張しています。5名は、近く、最高裁判所で審理される予定です。

▽問題の核心

この逮捕・裁判については、次の点を銘記する必要があると思われます。
1. この背景に、キューバの民族自決権を認めない、アメリカの対キューバ敵視政策、テロ政策が行われているという状況があること。キューバでは、アメリカの破壊テロ工作によって、革命勝利後42年間で3478人が死亡、2099人が負傷しています。細菌テロでは、344,203人が被害、158人が死亡したと報告されています。カストロ議長への暗殺未遂テロは、637件に上ると言われています。したがって、何よりも、アメリカのキューバ干渉政策を一日も早く止めさせなければなりません。

2. キューバがもはやアメリカの安全保障にとって脅威ではないということは、アメリカの少なくない元高級軍幹部や議員によっても主張されています。さらに5名がアメリカの安全保障に関わる情報を漏洩したことは、証明されていません。

3. マイアミという亡命キューバ人の過激派の諸組織が存在している場所で裁判が強行されていることをはじめ、今回の一連の裁判指揮には、多くの不公正がみられること。
4. 未決の5名の拘留者に対する非道な人権侵害が行なわれていること。

 以上の点から、5名に対する正当な裁判が行わなければならないと思われます。

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