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2009年1月11日 (日)

キューバについての7つの神話(6)

7.キューバは社会主義国? 1/12 追加版。

 さて、7つの神話も最後のテーマになった。今回は、少し論争的で複雑なテーマだが、ご辛抱願いたい。面倒な方は、適当に端折っていただいて結構。

キューバに関心を持っている人々のうち、少なからずの方々は、社会主義に関心や共感をもっている人々であろう。キューバ本やテレビでは「社会主義国キューバは・・・」と語られ、報道されている。そのような人々に、「キューバは、社会主義国だろうか?」と聞くと、「決まっているだろう」といわれるかもしれない。

ある社会が歴史の発展段階のなかで、どの位置にあるのか、どういう社会であるかということは、その社会を、またその社会で行われている政策を理解するために極めて重要である。

1. マルクスの発展段階論
いろいろな歴史の発展段階を区分する意見もあるが、だれしもキューバ革命とマルクス主義の関連は深いと思っているだろうから、マルクスがどういう歴史の発展段階を考えていたかをみるのがよいだろう。マルクスは、人類史の発展諸段階を、①原始共産制社会→②古代奴隷制社会→③封建制社会→④資本主義社会→⑤共産主義社会と五段階に位置づけて、壮大な展望を示している(『経済学批判』)。この①から②、②から③、③から④、④から⑤に発展する間には、当然のことながら、それぞれの移行の期間(「過渡期」、百年単位の長く複雑な期間)があると、マルクスは述べている。これは常識でも分かることであろう。フランスでは1788年で封建社会は終わり、1789年のフランス市民革命でその年から資本主義社会が始まるというほど、歴史は単純ではない。そしてマルクスは、その移行期間は革命を遂行するために労働者が中心となって権力を握る必要があると述べている(『ゴータ綱領批判』)。これも常識で理解できることであろう。

2. キューバ共産党の発展段階論
では、当事者のキューバでは、この問題はどう考えられているのか。キューバで最大の政治勢力であり、革命の中心勢力であるキューバ共産党が、革命を推進するにあたり、どのように自らの社会を考えているか、見なければならない。キューバ共産党の綱領は、1991年の第4回党大会で国際情勢の変化から廃止されていらい、その後制定されていないが、共産党幹部や知識人の間でキューバ社会自体の規定は変わっていない(例えば、Revista Temas No.50-51 abril-septiembre 2007)。同党の1975年政策綱領では、「現在のキューバ社会は、社会主義(社会)の建設期にある。そのための目標は、マルクス・レーニン主義の科学的基礎の上で社会主義建設を継続し、共産主義の第一段階に到達することである」と述べている。
そうか、現在キューバは、「マルクスがいう④から⑤、資本主義から社会主義に移行する時期で、社会主義を作っている段階」ということか。

移行期間についてはどうか。同政策綱領は、「この期間には、歴史的にはプロレタリアートが権力を握る必要がある。その権力は、少数の搾取者に対する多数の労働者の権力によって、またすべての勤労者、知識人を含む一層拡大される民主主義によって支えられる」と規定している。これも常識的な規定であろう。

3. でもキューバ憲法では・・・
 しかし、ここで、キューバの憲法を読んだことがある人は、「そうはいっても、憲法第1条には『キューバは、勤労者の社会主義国家であり、独立・主権国家である』と書いてあるのではないか、憲法に書いてあるのだから、はやり社会主義社会だ」と強力に反論するだろう。
 
なかなか鋭い指摘だが、そこで、レーニンが述べた次のことばを思い出してほしい。レーニンは、国名の表現と社会の実態との違いを明確に指摘している。
「『社会主義ソヴェト共和国』という表現は、社会主義への移行を実現しようという決意を意味するものであって、けっして新しい経済体制が社会主義であることを意味するのでない」と述べている(レーニン、「『左翼手的』な児戯と小ブルジョワ性とについて」、全集第27巻338-339ページ」)。

そうか、レーニンの言い方を借りると、キューバは社会主義社会に移っていく移行期にあり、その意気込みを示すために、「社会主義国」という表現をとっているのか。なら、分かったが、それは、レーニンが言っていることであって、旧くはないか? 新しい社会主義社会をめざしているラテンアメリカの政治家、チャベス大統領などはどう言っているのか?キューバは社会主義社会と言っているのではないか?と粘り強く反論する人もいるかもしれない。

しかし、チャベスも、エボ・モラーレスも、コレアもこれまで世界史では社会主義社会に到達した国はないと述べている。ソ連などは、社会主義の原則から大きく逸脱したと考えられている。したがって、現在のラテンアメリカの革新勢力は、従来の社会主義理論、社会主義運動を批判的に摂取しつつ、各国の実情にあった社会主義を追求していくと述べている。
マルクスは、「社会主義社会では、生産力の発展から労働日が短縮され、人間は自由にできる時間が増えて、いろいろな生産物を利用でき、生活と余暇を楽しみ、「必然の世界」から、人間的な諸能力を発達させる『自由の世界』に入っていく」と壮大な人類史のロマンを語っている(『資本論』⑬第三部第7篇48章新日本出版社)。社会主義社会は、実に豊かなものであり、現在の見聞できるものは、それとは程遠いものである。

4. マルクスが考えた社会主義社会
さて、人類史の発展段階はわかったが、社会主義社会といってもどういう社会をマルクスやエンゲルスは想定していたのだろうか。彼らは、社会主義社会の青写真を描くことに慎重であった。しかし、概念的骨子を羅列すれば、①生産手段を社会(国民)が共有する、②資本家や労働者階級がなくなっている、③したがって人が人を搾取することはない、④生産の方法は、「自覚した自由人が、結束して、協力して」生産に従事する、⑤無駄なく生産するため、広く社会のことを考え、計画的に生産を行うという調節組織をもつ、⑥販売することだけを目的とする商品市場が無くなっている、⑦国民の活動を締め付ける国家はなくなっていることがあげられる。現在では、これらに、⑧「地球環境を考えて持続可能な発展をめざす」ことも付け加えなければならないであろう。さらに、⑥については、現在では、社会主義社会でも当分の間、市場が必要と考えられている。

5. キューバが考えている社会主義社会
では、当のキューバ共産党は、社会主義社会はどういう内容と考えているのであろうか。75年および86年の綱領を総括すると、①主な生産手段は、全国民が所有するとともに、協同組合も所有する、②諸階級が次第になくなっていき、最終的には階級のない社会となる、③市場は、初期の段階には存在するが、次第に消滅していく、④経済発展は、計画にしたがって推進される、⑤「各人は、能力に応じて働き、各人はその労働に応じて受け取る」という原則から、しだいに「各人は、必要に応じて受け取る」という原則に移っていく(Programa del Partido Comunista de Cuba, Editora Política, La Habana, 1986)、⑥国家の政治・経済・社会生活の決定において、大多数の住民がより一層民主的で、広範に、意識的に参加する、⑦さらに昨年の党内検討文書では地球環境を維持した開発をめざすなどを考えている。これから見ると、マルクスとエンゲルスが考えていたことと、ほぼ同じ内容である。

(なお、煩雑になるが(飛ばして読んでいただいて結構)、キューバ共産党綱領は、86年の第3回党大会で制定された。75年の第1回党大会では政策綱領が採択され、80年の第2回大会でもこの政策綱領が引き続き承認された。)

この機会に、明らかにしておきたいことは、マルクスとエンゲルスは、『共産党宣言』で使用した「共産主義」も『空想から科学へ』で使用した「社会主義」も同じ意味で使っていることである。分配の違いでもって、社会主義、共産主義と区分したのはレーニンの間違いであった(興味ある方は、不破哲三氏の労作『マルクス未来社会論』、新日本出版社、2004年を参照)。

6. 移行期の社会はどういう社会か
とすると、キューバは上記の社会主義社会をめざす資本主義社会からの移行期の社会であるならば、いったい移行期の社会とはどういう社会であろうか?かつて、レーニンは、ソ連の社会主義社会の初期において(1918年)、移行期の性格を述べたことがある。
「移行というばあい、現在の体制のなかに、資本主義と社会主義との両方の諸要素があるということを意昧する。これらの要素としては、①現物的な農民経済、②小農や零細企業の活動、③私経営的資本主義、④国営企業が進める資本主義、⑤社会主義、が存在する」、と5つの要素を挙げ、「そこで問題になるのは、どの要素が優勢か、ということである」と移行期の社会の性格を分析する視点を述べている。

それでは、現在のキューバでは、どういう生産制度の要素が存在するのか。キューバでは、現在次の生産制度が存在している。①自営農民(2万人)、②自営業(15万人)、③農業・漁業・建設協同組合(1102組合、25万人)、④国営企業(国営農場、製造業、サービス業企業、商業、金融、建設業、運輸、通信など合計2732企業)、⑤外国資本との合弁企業(237企業)。③、④は社会主義的要素であり、①、②、⑤は資本主義的要素である。この中で優勢な要素は、⑤である。ニッケル生産、石油生産、通信、観光、製造業などは合弁企業で支えられている。つまり、キューバ社会は、移行期の中でいろいろな生産制度が入り混じっている社会である。

7. キューバの移行期の特殊性
これに加えて、キューバの場合、現実の歴史の中では、この社会主義社会を建設する移行期の間、つねに革命政権を打倒しようという米国の強い干渉を受けている。そのため、恒常的な干渉と圧力に対処する必要から、総動員体制が導入された結果、共産党の一党制が敷かれ、法律上、集会、結社、出版の自由が制限されている。また、キューバの生産力の発展水準からすれば、異常に国有化率が高く、国家所有による企業の経営は、過度の中央指令型計画経済の中で、自由な生産力の発展を妨げる桎梏となっている。これは、本来の社会主義をめざし、社会主義的要素をしだいに増やしていく考え方から離れたものである。

86年の同党綱領は、「移行期は、社会発展の客観的法則に従うものであり、それに違反したり、間違って解釈したりすれば、社会発展が中断したり、逸脱したりする危険をおかすことになる」と警告している。社会主義社会は、現実の歴史の中でつくるものであり、社会主義工房で理論的青写真に従ってつくるものではない。間違いや、試行錯誤や、後退もあるであろう。でも長い目で見れば、人類は社会主義社会に進んでいくことはさけられない。

稚拙な内容でかつ悪文を辛抱強くお読みいただいて感謝している。なお、理解しやすくするために、文中の引用文は、原文からかなり噛み砕いて訳してある。ご了承乞う。

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