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2009年1月20日 (火)

ハバナ市では100%無農薬野菜で自給? ―改定版―

ハバナ市では100%無農薬野菜で自給?

また、別な友人から、下記の質問を受けたので、アジア人が忍耐でもって農業を行うように(キューバでの表現)、回答します。

1)Q:「ハバナでは100%無農薬野菜で自給。食料自給率は80%とありますが、これは何を根拠」?

A:根拠があるはずはありません。自給率について、日本の農水省のようなキューバの農業省の公式統計はありません。出典は何か、前日に引用した報告者であるそれぞれのブロガーに聞いてください。

2)Q: 「ハバナだけの自給数字というものはわかるものなのでしょうか?」

A:ハバナだけのものもありません。全国の数字もないのですから。

そこで、別な統計から、考えてみましょう。ハバナ市220万人の食料消費は、一人年間500キロの消費で110万トンの農産物が必要です。ハバナ県は人口73万人です。この方々は36万トン必要です。

面積の狭いハバナ市の農業生産が110万トンなどとは考えられる数字ではないので、ハバナ県も入れて考えてみましょう。キューバ全体の農業適作地面積は872万ヘクタールです。栽培面積は、3分の1程度の312万ヘクタール(念のため)。農業適作地面積はハバナ県とハバナ市合わせて44万5000ヘクタールです。栽培面積は15万ヘクタール、さらに単年生作物(野菜、根菜類など)栽培面積は3分の1で、5万ヘクタール程度でしょう。反収は、10キロ/m2が良いほうで、それだと野菜、根菜類の生産は、ハバナ市・ハバナ県で50万トンどまりです。野菜の自給にはほど遠い数字です。不足分は、近県から供給されます。

3)Q:「有機ではないとして、ハバナでは野菜は100%自給か?」

A:90年代以前も食料の輸入は、肉類、豆類、穀類、粉ミルクで、野菜は、年間10万ドル程度でほぼ輸入がありませんので、90年代以前からキューバ全土でほぼ自給でした。日本のように野菜を近隣諸国から大量に輸入するのは世界的に珍しいのです。この構造は90年代以前も現在も変わりません。しかし、ハバナ県で野菜栽培が現在有機農業でおこなっているかというと、認定数字もありませんし、私が訪問したUBPC(協同組合)では化学肥料・農薬を使っていました。詳細、本ブログの「キューバ7つの神話(3)」、「都市農業・有機農業歴史的位相」を参照ください。

また、食料自給率は、90年代以前も現在もほとんど変わっていません。ソ連圏崩壊後に自給率が大幅に下がり、有機農業で復活したというのは、フィクションです(そうであれば、ドラマチックで面白いのですが)。カロリー計算の食料自給率は、1950年が53%、1975年が44%、1988年が47%です。


結論として、食料全体そのものをハバナ市・県は自給できませんし、またいわんやその一部の野菜も自給できませんし、さらには、すべて有機農法で栽培されている野菜を自給している事実はありません。

若干、歴史的なことをいいますと、革命勝利前、ハバナ県、近県のマタンサス県西部、ピナルデルリオ県東部の農業は、大消費地ハバナ市への供給のため野菜などの換金作物の栽培が盛んでした。しかし、60年代半ばから、砂糖の1000万トン生産のため、多くの栽培畑が、砂糖キビ栽培畑に転換されました。これが現在も基本的には継続されているのです。なお、キューバで「地産地消」政策が、全国的に推進されるようになったのは、2007年度からです。

このようなことは、一般のキューバ人知識人にとって、また外国人キューバ農業研究者にとって、いわば常識の部類に属することですが、かたくなに「有機農業野菜ででハバナ市が100%自給されている」と信じる人には、無駄な説明の時間かもしれません。一昨日のTV放送の影響でしょうか、マスコミの影響は大きいものがあります。それだけに正確を期して善意の視聴者、読者をミスリードしないでほしいと思います。

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