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2009年1月19日 (月)

キューバの食料自給率は?

キューバの食料自給率は?

昨日(1月18日)、友人から、「あるテレビ番組でキューバについて紹介するコーナーがあり、キューバの食料自給率を80%と紹介していたが、どうなのか」と連絡があった。以前から、繰り返し述べている通り、伝聞や、見聞に期待を重ねて報道すると真実の報道や報告にはならない。それらを数件引用しよう(原文のまま)。

「キューバでは自給率を80%まで上げたという。それには都市部の遊休地を耕す人の収穫とするとか、農村で若者が働きやすいようあらゆる環境を整え、給料は都会より良いという」。

「キューバから学ぶ-最新事情。210万都市(人口の20%)ハバナでは100%無農薬野菜を自給。食料自給率は80%」。

「1989年(ママ)にソ連が崩壊すると深刻な経済危機に見舞われた。石油が入ってこなくなり、石油が原料の化学肥料や農薬も、トラクターなどの農業機械やパーツも手に入らなくなった。あっという間に食料自給率は40%まで低下した。そのため、今までの大規模かつ石油依存型農業から脱出するしかなくなった。このままでは、多くの国民が飢え死にすることになる。そこで生き延びるためとはいえ、 たった10年で食糧自給率を70%まで見事に引き上げた」。

「ソ連崩壊後、食料危機に見舞われ、野菜以外に食べるものがないという状況に追い込まれた。だから、キューバの都市農業は計画的に行われたというより、やむにやまれず、食べ物をどこででも作るという状況の中から生まれた。しかし、わずか10年間で試行錯誤を繰り返しながら全体の食料自給率を70%にまで引き上げた」。

これらの人々は、筆者と同じように、日本の自給率の低さを憂い、農業の荒廃を怒る善意の人々である。しかもキューバを訪問した人々の報告であるだけに、こうした事実に基づかない報告に胸が痛む。もっとも「ブログでの情報記事等は知るきっかけや判断材料に過ぎず、受け手も受け取り方も様々のため、<みんな違って、みんないい>」という意見もあるようだ。しかし、こうした考えは、ブログの内容の正確さの問題と、ブログの多様性の問題とを混同しているように思われる。ブログが多様であることは当然である。見ることを強制されるのではないので、見るほうがブログを選択すればいいだけである。筆者のブログでは、貴重な時間を使ってブログを見る方に誠実に答えたいと思う次第である。

さて、本論の、キューバの食料自給率を再論しておきたい。
キューバの食料自給率

キューバの食料自給率は、政府発表の数字は見当たらない。国連のCEPAL(ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)で報告されている30%程度という数字は穀物計算と思われる(Política Social y reformas estructurales: Cuba a principios del siglo XXI, CEPAL, p.143)。ただし、CEPALに提出するのは、キューバの経済・計画省傘下の研究機関、「全国キューバ経済調査所(INIE)」であるので、キューバ政府の準公式数字とみてよいであろう。


また。日本の農水省がFAO(国連食糧農業機関)の資料をもとに作成した資料では、2003年度穀物計算で33% と報告されている(農林水産省「食料需給表」2008年)。FAOの資料は、キューバの農業省が提出した資料に基づくものである。したがって、これもキューバ政府の準公式数字とみてよいであろう。2003年以降、農業生産は、微増ないしは停滞しており、自給率が大きく改善することはない。

ハバナ大学付属キューバ経済研究所のノバ教授は、2005年度、カロリー計算で42%、たんぱく質38%と計算している(Armando Nova González, La Agricultura en Cuba: Evolución y trayectoria 1959-2005, Editorial de Ciencias Sociales, La Habana, 2005, p.285)。

実際の生活はどうか。キューバでは普通、国民の食事は、米を主食とし、パンも欠かせない。米は、消費量が年間約90万トン程度で、国内生産は約30万トン、したがって、米の自給率は30%程度で、パンの原料小麦は100%輸入である。

2007年度の数字を見てみよう。キューバの国内総生産(GDP)は、473億4600万㌦で、そのうち農業生産は、18億2100万㌦、3.8%であった。一方、輸入総額は、100億8200万㌦で、そのうち食料輸入は16億4800万㌦、16.3%であった。農業生産の中には、農産物の他に生産活動の中の付加価値も含まれるし、輸出に回される砂糖生産2億㌦程度が含まれる。また食料輸入には、観光客200万人の消費も含まれるが、それは6万人分程度に過ぎない。話を複雑にしないため、これらの要素を除外して、単純に比較しても生産と輸入総額34億6900万㌦のうち国内農業生産が占める比率は52%となり、ノバ教授の計算を裏付けるものである。

また、現在、国民は、食料品の配給で一ヶ月の40-50%をカバーできるが(逆にいえば50-60%を自由市場で買わなければならない)、配給食料品の84%は輸入品である(マガリス・カルボ経済・企画省副大臣、Granma, Febrero 26, 2007)。ここからも食料自給率をある程度推測でき、上記の数字が正しいことがわかるであろう。

参考までに2007年の日本の農業生産は、6兆7000億円程度(GDPの1.2%)、食料輸入総額は6兆100億円、カロリー計算の食料自給率で40%、穀物計算で28%である。キューバの農業生産、輸入額の構造と類似していることがわかるであろう。

いずれにせよ、憂慮すべき数字であり、革命勝利後、コメコン体制の中で、砂糖供給を担当した弊害がここにうかがわれる。近年の国際的食料価格の値上げで、キューバ政府は食料の増産を呼びかけているが、近年、食料生産は、むしろ減産ないし停滞しているのが実情である。キューバも、日本もそれぞれ異なった理由からであるが、食料自給率は異常に低い。農業の正しい政策により、農業生産の発展が期待されている。

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